メニエール・ブラジャー

元気モリ子

メニエール・ブラジャー

先週の金曜日、メニエール病と診断され、

土曜日の朝、ブラジャーを盗まれた。


メニエールに関しては、思い当たることも多かったので、特段聞いて欲しい話もないのだが、ブラジャーに関しては、正直納得がいっていない。


そもそもブラジャーを表に干していた私も悪いのだが、いや、私は何も悪くないのだが、ちゃんとタオルの裏に隠したり、周りを主人のトランクスで囲ったりなど、小細工はしていたのだ。

にも関わらず、そんな盗りにくい私のブラジャーを、犯人はわざわざチョイスしたのだ。

これも犯人にとっては、ひとつのハラハラトリックだったのだろうか。


私の中で納得がいっていない点が一つある。

ブラジャーを盗られて納得するヤツなどいないのかもしれないが、少なからず私は納得していない。


それは、どうせ盗るならもっと一軍のブラジャーを盗って欲しかった、という点にある。


金曜日、調子が悪かった私は、洗濯物を干しっぱなしにして眠ってしまった。

土曜日の朝、優しい主人が洗濯物を取り込もうとして、事件は発覚した。


「モリ子ちゃん、ブラジャーだけ取り込んだりした?」


「してないよ?」


「やられた…あのブラジャーないよ…」


私はこの時何のショックも受けていなかった。

なぜなら盗られたブラジャーが、「そろそろ捨てるか…」と思っていたヨレヨレでレースもほつれたブラジャーだったからだ。



「まぁ…どうせ捨てようと思ってたし…」


耳鳴りのする頭を抱えて、私はブラジャーだけが失われたベランダに立った。

桜も最後の見頃を迎え、空は絵に描いたような休日の朝だった。

小鳥がちゅんちゅんと鳴いている。

だがブラジャーはない。


私はふと考えた。

もし盗まれたのが、あのお気に入りのブラジャーだったら………


危ない!

盗られたブラジャーが萎れたブラジャーだったせいで、私は犯人の罪を無かったことにするところだったのだ!

私にとって一軍か二軍かは関係なく、私のブラジャーを手に(嗅いでいるのか触っているのか知ったこっちゃないが)鼻息を荒くしている輩が、この町の何処かにはいるのだ!

気色の悪い!


「それ向こうに顔割れてたりしやんの?」


友人からの一文だった。


そうなると話が変わってくる。

私が此処に住んでいることを知っていて、私が着けているブラジャーだと分かった上で盗まれていたとしたら、そうなってくると違う意味でやめてほしい。


犯人!!!

私がいつもあんな萎れたブラジャーを着けていると思ってくれるな!!!


BRA


私は何か不都合が起きると、何でも神様のせいにする節がある。

よりにもよってメニエール病になり、こんなにも弱っている私から、ブラジャーまで奪う必要が本当にあったのだろうか。

そこまでして欲しいブラジャーとは一体何なのか。


耳鳴りや吐き気と闘いながら、仕事を休んだせいで送られてくる上司からの嫌味とも取れるLINEに、申し訳のない気持ちと「ブラジャーを盗まれた被害者意識」が混在し、私はなぜか今謝りたくなくなっている。

私ばかりが謝っている。

私だって謝られる権利があるのに。

体調が悪いと物事をごちゃ混ぜにして考えてしまうので良くない。

このこととブラジャーは全く関係がないのだ。


どこかで知らない子どもが泣いている。

私も交ざりに行こうかと、今し方考えている。



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メニエール・ブラジャー 元気モリ子 @moriko0201

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