回想回廊(前編)

 僕と彼女は同じ学校というわけではなかった。家が近いのはそうなのであるが、僕は少し遠い海原高専へ、彼女はすぐそこの海原商業高校に通っていた。だから同級生だから知り合ったというわけでもないし、特別接点があるわけではなかった。


 僕が彼女と知り合ったのは、もう一年も前のことだろうか。あの春先のことである。


 あの時は部活の帰りだったかな、早めに終わったのでスーパーによってアイスを買って近くの公園で食っていた。僕が小さいころより気温は高くなりやすくなっていて、涼しい街なんて言われていたような気もするが、今はその面影なんてない。冬はあんなに寒いというのに、夏であってもこう気温でいじめてくるのはなかなかに鬼畜なのではないのかと思う。神様はここの住人に情はないのだろうか、そんな風に思ったこともあるが、時すでに遅しのような気がするので、いつの日か考えるのをやめた。何とか生き抜くほかにないのだ。

 僕の学校には制服がないので、僕は作業服で毎日登校していた。なので、制服の女子高生を見ると新鮮な感じがし、どうも気持ちが昂るのだ。その日も同じであって、彼女が僕の視界に入って歩いていた。彼女は重そうな楽器を持っていた。きっと吹奏楽部なんだろうなあなんて推察しつつも、少々よろよろしていてなんだか危なっかしいようにも見えた。


 自分の目の前で事故なんて起こされたら気分よく寝られないので、一応声をかけることにした。余計なお世話かもしれないが、しない後悔よりする後悔なのかなと思い、単純な損得勘定で考えるのはやめた。


「君、大丈夫?」


 今思えば、君なんていきなり言ってくるやるはヘンな奴でしかなかったが、それ以上に心配なのが勝ってしまっていた。僕は生粋の女子高生マニアなので、女子高生がつらい思いするのは非常に許せないのだ。許してほしい……。


「あ、はい……」


 まあ、いきなり話を振られたらそんなもんだろう。僕も、同じように返すだろう、そう思った。一応、聞いてみた。


「重そうだけど、持ってあげようか?」


「ああ、いえ、大丈夫です。」


 そう彼女はクールに断り、前を向いた。少しカッコいいなぁ。なんて思ったのは束の間。


 次の瞬間には彼女は転んでいたのだ。


 ああ、言わんこっちゃない。そう思った。彼女みたいな人間は、きっと人に甘える=悪だと思っているのかもしれない。それ以上に、僕が不審者かもしれない、そういう話はいったん置いておく、が。

 どちらにせよ、危ないことには変わりないので、少々強引に手を差し伸べた。


 「さ、商売道具の楽器は自分で持ってね。」


 そう言いながら、彼女のカバンを持った。見た感じ、カバンのほうが重そうであったのと、素人が楽器を持つのは少々怖かったためだ。まあ、どちらかというと後者のほうがかなり強いが。


「ああ、ありがとうございます……」


 何やら腑に落ちなさそうな感じの返答であったが、何よりも女子高生というが傷つくこと、それが許せなく、そして自分のポリシーに「困っている人を助けるのは当たり前」というものがある以上、体が勝手に動いてしまったのだ。

 まあ、彼女にとっても悪い話ではなかっただろう。きっとこのままいくと、楽器を壊すか事故に遭うかの二択だっただろうに。きっと慣れていなかったんだろうなあ、そういうことにしておいて彼女を先導した。

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