犯罪者がヒーローになって犯罪者が犯罪者になる奴キモイ
宙星真宙
陶酔できる空間
目の前にはカウンター、その奥には大人の液体がガラスに入っている。二つ隣には男性A、そして俺は女性B。このAとBの沈黙の中で流れるジャズは、酔いを更に強くし、大人の休息と沈黙をマシにしてくれる特効薬だ。
さて、どうしようか。特にすることもないけれど。バーテンダーが居ない、客が二人だけの店。
辺りを見渡し、スマホを見てメニューを見る。この三つをただただ繰り返している。こんな所来たことなんてなかったから、少し不安と場違い感が合わさり今すぐにでも逃げたい。待ち合わせの確認をちゃんとしておけば良かったな、分からないままマップに従うんじゃなかった。
「そこのお兄さん、店主をお探しデスカ?」
「あ、はい、女なんですけどね。店員さんが見当たらなくて」
「ふふっ、店主は煙になって消えちゃいましたよ」
「えっと...?」
二つ隣に座っていた男性Aは、俺に笑顔で声をかけて親切に何処に居るのかを教えてくれた。そんなくだらねぇジョークを言うとゆっくり嗜むように煙を口から吐いた。
「面白いジョークですね」
「今、ジョークって言いマシタ?」
俺がジョークを褒めると何か気に入ったのか声を笑い出した。
変なことは何も言っていないはずだ。ジョークじゃなかった?だとしても煙なんて・・・火葬!?やばいやばいやばい!俺、ノンデリカシーにも程があったかもしれない!
「ご、ごめんなさい!てっきりジョークかと」
「普通は煙を吐いた人を疑うのが一般的なんだけどな〜」
「は?」
勝手に私の肩に手を当て、訳のわからない上っ面を述べ始め、アハハと脳天気で笑ったのは知らない人だった。女性Cにしよう。やばいな、ややこしい。
しかも、私は知らない人に肩を触られたくないんだけどな。今日はすることもないし帰ろう。舐められて見られてる時点でここに居ても楽しくなんかない。
肩をグッと引っ張られ、体制を崩すと女性Cに首根っこを掴まれた。
「なんですか!」
「待ってよ、殺人犯さん」
「ンッ!?」
ちょっと待って、今、この女性Cは私をなんて言った...?
「え、今なんて..?」
「店主の殺害は貴方の仕事デスヨネ?」
「煙になったじゃないんですか?!もうやってませんてば!」
「流石シリアルキラーデスネ、自己催眠がお得意なヨウデ」
「へ、」
なんだっけ、なんでここに来たんだっけ、待ち合わせってなんだったけ。どうしよう、思い出せない。なんでポケットに銃が入ってんだっけ。
「キーワードはなんでショウカ?」
「ん〜、まずまず逃走するためにキーワードは付けてないかもしれない」
「それはそれで『捕縛』しやすそうデスネ」
ーあっ、キタ。
あれは任務帰りにBARに寄ったら店主が俺を見て通報するって騒ぎ出したんだっけ。
その時、北見朔夜は相手に飛び乗り、首下から一発撃った。その後は誰にでも出来るような火葬を始めた。人目のつかない、薄暗い公園で防犯カメラにバレないよう女の格好をして焼いた。
その後は特技の人間搾取を自分に使い暗示をかけた。
だけれど、失敗だったようだ。一人称を俺と定義したままだったのが影響かもしれない。
あぁ、自分が出題した問題が正解してもらえるだなんてこんなに面白いのか。
銃を軽く持つと、紳士のような対応を見せてくれた男性Aに、店主にしたように飛びかかった。
催眠にかかってると気付いたのが俺に良い面を与えてくれた。
女性Cは声が出ないようだ。男性Aは声を発することができないようだ。あー、やっぱりBARに流れているジャズは飽きない。ジャズは誰かの休息、沈黙、酔いを美しく彩ってくれる。
男性Aは永遠の休息を、女性Cは沈黙を。
俺、北見朔弥にはとびっきりの酔いを。
「北見朔弥、殺人罪で逮捕するわ」
「え、バレてたの!?名前!」
「じゃなきゃ、ここに来てないでしょが!」
「なんだ、運命だと思っ...」
「うっっっっるっっっさいわね!あんた容疑者!私警察!」
何故か、思ったよりも早く男性Aのことは立ち直ったらしい。別に大した仲間でもなかったんだろうか。
そう思っていると、怒り爆発しそうな女性Cがこちらをみて警棒を振る寸前だ。しかも、警棒が怒りで震えている。
「黙ってついてきますから許してください...」
犯罪者がヒーローになって犯罪者が犯罪者になる奴キモイ 宙星真宙 @Mahiro1206
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