留学生なの? 和十尊君

 新入生歓迎コンパが終わった後の翌日。

 僕は一コマ目から講義を受ける。予想通り和十尊君はいない。鰐中さんもいなかったので「どうしたんだろ? 鰐中さん」と思っていると、肩をトントンと叩かれた。


むにゅ


(古典的なヤツに引っかかってしまった)


 鰐中さんの人差し指が僕の頬を凹ませる。


「おはよう。ターニー」

「おはよう。鰐中さん」

「あれ? ターニーは一人?」

「そうだよ。鰐中さんは?」

「あそこの子達と一緒」


 鰐中さんの示した先には、三人の女子がこちらを見ていた。


「鰐中さん、友達作るの早いね」

「そう? ターニーもワトソンと友達じゃん」


(友達っていうのかな……傍から見れば友達なんだろうな)


「で、ワトソンはどこに?」

「来ていないよ。たぶん来ないんじゃないかな」

「あー」


 和十尊君のことは鰐中さんに納得してもらった。


「じゃ、あちき。あっちに行くから、またね」


 そう言って、鰐中さんは女子グループの方へと行った。


(二コマ目も一緒かな)


 ◆


 二コマ目が終わり、僕はサークル室へ向かうことにした。きっと和十尊君はそこにいるだろう。彼にあったら今日の講義の内容を伝えよう。


(いるかな)


 サークル室には先輩一人と寝ている和十尊君がいた。


(寝てる)


「おはようございます」

「おはよう。新入生かな」

「はい、谷川と言います。このサークルに入ります。よろしくお願いします」

「おっ! 入ってくれるのか。ありがたやありがたや。副部長の芳賀はがだ。谷川はどこのパート希望?」

「ドラムです」

「俺もドラムだから、何かわからないことがあったら聞いてくれ」

「はい、ありがとうございます」

「なあ、こいつ知っているか?」

「はい、同じ学部の和十尊君です」

「そうか……、じゃあ谷川にこいつ任せるわ」


(変えることのできぬ宿命)


「うー」

「おっ」

「ふぁぁあ。先輩おっす」

「おう。昨日はここで泊ったんか?」

「そうっす。四次会がここだったんでそのまま泊まりました」

「あいつら――、ふぅ」


 先輩とやり取りをしていた和十尊君は僕に気づき、


「おっす、谷っち」

「おはよう」

「谷っちも四次会まで参加すれば良かったのに」


(講義を受けるのに影響が出るでしょ、和十尊君)


「そうだね。それよりもちゃんと講義出なよ」

「谷っちが出てるから問題ないぞ」


(問題あるぞ)


「講義メモあるから、写真撮る?」

「おっ――あー、スマホ電池切れしてるわ。充電器、留学生会館なんだよな」


(ん? 留学生会館?)


「アパートに無いの?」

「アパート? 住んでるわけないじゃん」


(ん? ん? どういうこと?)


「アパート借りて無いの?」

「おう。留学生会館のロビーで寝てる。日本人いないし、あいつら大らかだからいいぞ。異文化コミュニケーションもとれて最高さ」


(僕は和十尊君と話すことが異文化コミュニケーションだと思う)


「はあ? お前、アパート借りてないの? 洗濯とか風呂とかどうすんだ?」

「先輩、心配してくれるんですか。まあ、留学生に言って借りますわ」


 和十尊君が言っていることがあまりにも衝撃的で、僕の口は開きっぱなしだった。


「荷物どうしてるんだ?」

「登山ザックを留学生会館に置いています」

「はぁ。お前な、管理の問題があるから留学生会館に住むのはやめろ」

「そおっすか――」


 和十尊君は何かを考えている様子だ。


(まずい)


「谷っち――」

「僕んはダメだよ」

「ちっ」


(あぶない、先手を打てた)


「まったく、しょうがないヤツだな。入学式のあった近くに、広い公園があるからアパート決まるまで、そこで寝ろ」

「先輩、そんないい所があるなら早く言ってくださいよ。ちょっと行って探しますわ」


(ホームレス大学生。日記書いたら売れるかな)

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