第2話 最初は友達から…


「わたし、先輩のことが好きなんです!」


えっ―


仮に先輩=俺と仮定したとして…俺は特に行事でも隅っこにいるタイプでいつも空気レベルの影の薄さ…

この下級生、まさか俺の存在に気づいてたのか…?


真面目な話、俺は元々会話が苦手だった。

圭介みたいな自分から話しかけてくるタイプの奴が偶然友達だったから話し相手がいただけで、圭介がいなかったら俺はいわゆる''ぼっち''だっただろう。ありがとう圭介。おまえは恩人だよ。

別にルックスもいいわけでなく、平々凡々ってとこだ。詳しいのは小説とか漫画とかで、美容に詳しいとか垢抜け頑張ってるとかそんなんでもなく…なんなら前髪切ってなさすぎて目隠れてるしな…


こんな俺に好きだなんて、物好きな後輩だな―


サラッ

前髪で隠されてた視界が明るくなった。

眩しくなって咄嗟に目を瞑る。


「せんぱい、こっち見てくださいよ〜!」

俺は目を開けて顔を上げた。

後輩と目があった。

裏庭に少しだけさしている木漏れ日で茶髪の綺麗な髪が輝いていた。


「おーい!せ・ん・ぱ・い!」


バチーンッ!


ちょっ…いくら追いかけっこした仲とはいえ(違う)デコピンするか…?距離近くねーか…?てか普通に痛かったし。


でも一瞬太陽バックの絵面のせいで舞い降りた天使みたいだったな…


「…まぁ俺のこと好きってのはわかったけどさ、こっちは名前もわかんねーんd―」


「高校一年三組!出席番号2番!市川遥です!図書委員で弓道部に所属しつつ他の部の助っ人やってます!」


市川遥…か…確かに遥って感じするもんなー(ヤケクソ)

運動できるタイプの女子かぁー…圭介好きそうだなー。


って、薄々気づいてはいたけど運動できるからあんだけ足速かったのか。ならそれと互角に逃げれた俺…すごくね?


あっ向こうが自己紹介してんだから俺もやんねーとな…

先輩らしく…先輩らしく…恥だけはかくな!俺っ!


「じゃあ次は俺が―」

「あっ先輩は大丈夫ですよ!」

えっ…どゆこと?大・丈・夫?


「高校二年一組 出席番号1番 一ノ瀬紬先輩、ですよね!」


おぉー俺のことここまで把握できてんのも大したもんだな。


「図書委員で貸出受付担当は月曜と金曜、文学部所属で趣味は読書、特技も読書(と、空気になること)お家は茶道のお教室をやられてるんですよね!」


ん?

もはやここまでくると法に引っかかるんじゃね?プライバシーの権利!どこだよ!

普通にどうやってそんな情報掴んだんだよ!

あと小声で''空気になること''って言うな。事実故になんか心にくる。


「せーんーぱーい!」

「…!は、はい!」

この体勢…この至近距離…周りに人がいないのが唯一の救いだったものの…他から見ればこれは俗に言う、"壁ドン"では?!


壁ドン…って普通こーゆー漫画とかって男がやる側じゃ…?

なんで俺がやられる側なんだよーーーー!!!


「さっきの返事……待ってるんですけど……」

さっきまで強気だった市川が照れながら小声で言った。

その赤くなっている顔を見て俺の体温も上がった。

きっと端からみたら目も当てられないほどひどい顔なんだろうな。


「俺、お前のこと何も知らねーし…お前は俺のことよく知ってるけどさ…だからその…」

「じゃ、じゃあ!友達!友達からで!」


友達…ねぇ。

男友達もろくにいない俺が女の子…しかも後輩と…とか。

笑えるよな…


でも、ちょっとぐらい…気持ちの拠り所があったって…いいよな。


「うん…友達から…な。」

「…!!ありがとうございます!一ノ瀬先輩!」


市川のツインテールがぴょんぴょん跳ねた。


キーンコーンカーンコーン…


「あぁぁぁぁ!最終下校のチャイムーー!!」


やっぱうるせぇ…至近距離で叫ぶなよ!

俺は心の中でそう叫んだ。


「先輩!急いで教室戻りましょう!ね!」

手を引かれた。こんな経験初めてだ…


俺達は二人全力で階段を駆け上がって2階に戻ってきた。


「私実は先輩見つけてすぐ荷物放って先輩の方行っちゃったんですよね…えへへ」


変なやつだな。やっぱ。

まぁ俺の隣にはこんぐらいうるさいやつがいて丁度いい…


「先輩、私たち家おんなじ方向なんですよ!なので一緒に帰りませんか?」


そうかー…そういやこいつ俺の家しってんのかぁー!

なんかちょっと腹立つ。俺は市川のこと何も知らねーのに!


「あぁ。」 


「先輩?!どうしたんですか?そんな顔して…」


そんな顔…とはまぁ拗ねてるときとかのムスーッみたいな顔のことだ。

語彙力ないとか言うなよ。


「帰り…おまえのこと…色々教えろよな。」


「なにそれかわいいー!!!!」

(もちろんですよ!!)



おい、逆だよ。やめろよ!こっちが恥ずいだろ!

という意味を込めて咳払いをした。


「…じゃあ!先輩は私の何から知りたいですか?!」


俺は市川遥と一緒に門をあとにした。

女友達なんぞまっぴらごめんだ。

今までそう思ってた。


友達―

友達なら、一人多くなったってこまんねーよな。


この日から、俺の生活が180°(いやもっとそれ以上)変わることになるのだった。

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