第108話 旅は道連れ

「馬鹿なっ!? あり得ないっ! この、私が! 黄金の、永遠の象徴である私がこのような不完全な人間に──」

「うるせぇっ!」


 ごちゃごちゃとずっとうるせぇんだよ!

 腹に刺した電撃を放つショートソードをそのまま胸の方へと持ち上げていき、上半身に大きな切り傷……いや、傷なんてレベルではないな。腹から肩まで向こう側が見えるぐらいに切断しているから。しかも、刃からは絶えずに電撃が放たれているのだから、途方もない痛みに襲われていることだろう。


「あ、が」

「ふっ!」


 身体を切断されて虫の息になっている永遠を語っていた喉を切り裂いて首を落とす。残った身体は黄金で全身を串刺しにして、落ちてきた頭もそのまま黄金で押し潰す。

 何回やっても、こうして人間のような形をした奴をぐちゃぐちゃにするのは気持ち悪いのだが……ここまで徹底的にやらないと神って存在は数時間で復活したりするので、数日は動けなくするにはこれぐらいしなければならない。だから神と戦うのって嫌なんだよな……人間としての道徳心を捨てなければ勝てないから。


「凄いわね……まさか概念を取り込んだだけで人間が神に勝てるようになるなんて思ってもなかった」

「……さっさと消えろ。俺はマジで落ち込んでるんだから」


 黄金の神と出会ったことで、俺は一つの答えを得てしまった。黄金郷と呼ばれるものは……この世には存在していない、という答えを。

 黄金の神が存在している場所こそが黄金郷であり、そこには幸せそうに暮らす人間などいない。完成された理想郷でしかなかったのだと……今回のことで理解してしまった。つまり、黄金の神がニクスによって世界から消し去られた瞬間にこの世から黄金郷は消えていたのだ……そりゃあ、いくら探したって見つかる訳ないよな。そもそも、本質的には俺が探していた黄金郷なんて最初から存在していなかったんだけども。


「黄金郷が自分が思っていたような綺麗な場所じゃなくて落ち込んでいるのね」

「なんでわかるんだよ……本当に神って嫌いだわ」

「え、そんな嫌われるぐらいに神と戦ってるの?」

「もう何回目って感じだよ……カスみたいな奴としかあったことないし」

「それは……その、ご愁傷様?」


 海神に始まって、俺は出会う神の全てがおよそまともな存在とは思えないような馬鹿ばかりだったのだ……これぐらい落ち込んだりもするってものだ。


「ん……ねぇ、私のことを見て!」

「なに?」


 いきなり頬を手で挟まれたので、反射的に反撃しそうになったけど、すぐに手が放されたので俺の攻撃しようとした手の方が宙ぶらりんになってしまった。そして、強制的に顔を上げさせられた先にあったのは……ドヤ顔で決めポーズを見せつけてくる美の女神。


「……どう?」

「は?」

「えぇ? 貴方、もしかして女に興味ない?」

「バリバリ異性愛者だよこの野郎。喧嘩売ってんなら数ヵ月ぐらい殺し続けてやるぞ」

「え、怖い……でも、私は美の女神なのに何も反応しないから」


 当たり前だろ。


「美しいとは思うけど、手を出して自分だけの女にしたいって感じより、美術品を見ているような感覚になるんだよな……多分、性の女神にやられたら俺も反応したかもしれないけど」

「えーっ!? 美しかったら手を出したくなるもんじゃないの!?」

「人によるだろ。俺は綺麗すぎる人間にはちょっと腰が引けるタイプだからな」

「へたれ!」


 やかましいわ。


「俺は均衡の取れた肉体よりも、普通に胸がデカい女の方が好みだ」

「失礼ね……女にモテるけど長続きしないタイプでしょ」

「喧嘩売ってるなら世界の隙間に放り込んでから5回ぐらい、丁寧に磨り潰してやる」

「暴力反対! そうやって暴力で口を塞ごうとするのが長続きしなさそうって言ってるのよ」


 くそったれめ……人が攻撃してこないと思って好き放題に言ってやがるな。

 実際、美の女神である彼女に関しては全く脅威とも思っていないし、害がなさそうだからこちらから攻撃する気はないのだが……普通にムカつく。


「俺はもう家に帰るから、お前もここで黄金の神が復活するのを待ってたらどうだ?」

「嫌よ! 私は美の女神だから黄金の神と一緒にいただけで、別にあいつのことが気に入ってるとかじゃないんだから! 同じ黄金の概念を司ってるなら貴方の方がマシよ!」

「それは俺のことを貶しているのか?」


 比較対象があのカスの時点で俺のことを貶しているんだよな、それは。


「はぁ……先に言っておくが、俺が住んでいる場所は大地母神の領域だからな」

「え……やっぱりここに残ろうかな」


 な?


「い、いや、でもあんなクズの傍にいるのも嫌だし。やっぱり貴方についていくことにしたわ! はい、決定!」


 はぁ……超めんどくせぇ。

 そもそも、神ってだけでメイが過剰反応するに決まってるし、女ってだけでアルメリアとマリーがうるさくなるってわかっているのに、なんで俺がこの面倒な女を連れて帰らなければならないのか。


「美術が盛んな国でも行って崇められて来いよ」

「私は人工的な美しさじゃなくて、自然の美しさが好きなのよ! 黄金とか、自然が生み出した最も美しいものだと思わない? 貴方も黄金の概念を操る者なら……いえ、貴方自分で黄金を破壊していたわね。じゃあ愛着もないか」


 神々のその無駄な概念への拘りはなんなんだ。海神や冥府神みたいな原初神は自分の属性にそこまでの拘りを見せていなかったが、復活した神々は滅茶苦茶自分自身のアイデンティティを大切にするよな……まぁ、概念から生まれた存在だから、なのかな。


 さて……今までの人生の殆どを使って追いかけていた黄金郷が紛い物であったことが発覚した訳だが、いつまでも落ち込んでいられない。勿論、俺だって思う所は沢山あるのだが……これしきのことで人生が終わりになる訳ではないので、立ち止まってなどいられないのだ。

 落ち込んで下を向いてしまいそうになる顔を無理やりでも上げて、足を踏み出していくしかない。まずは、家に帰ってこれから何をするのかをしっかりと考えてから、また人生を進み始めよう……隠居している身で言うことではないかもしれないが。


「それで? 大地母神と会ったことはあるの?」

「ないよ」

「そうなのね……すごい怖い神だから、絶対に怒らせないようにした方がいいわよ? 私、前に大地を捲るような怒り方しているの見たことがあるもの」

「大地を捲るような怒り方ってなんだよ」


 取り敢えず……変な奴がついてきたってことは覚えておかないとな。

 

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