第105話 厄介な連中
山岳の狭間にひっそりと、しかし雄大に存在している黄金郷。
黄金を司る神が限られた信仰者を民として率いて、山間に生み出した黄金で出来た都市。他の神々の介入を許さず、人々は飢えに苦しむことなく生きることができた地上の楽園……それが、黄金郷。
「よっこら、せっ!」
俺はそんな黄金郷の伝説について記された本の記述を思い出しながら、山の岩を退かして道を確保していた。どの伝説にも共通して山間に存在していることだけはわかっているので、こうして山を登る格好で整備もされていない場所を歩くことになっているのだが……これがまた結構大変だ。
山道として整備されている場所を歩くのは楽なんだが、こうして整備されていない場所を歩くとどうしても障害が多くなってしまう。たとえば、俺がさっき退かした岩なんかは形状からして随分と上の方から落ちてきたらしい……つまり、落石の後だ。他にも、土砂崩れや地滑りの跡なんかは歩くのが面倒だし、自然の場所なので当然ながらモンスターだって現れる。既に何度か熊らしき生物を撃退している。幸いなのは、俺も既に人間を超越した力を持った存在だから、野生生物や自然の脅威にさらされてもなんとか生きていけることぐらいだろうか。
「貴様、ここで何をしている」
「あー」
ただ、それでも面倒なことは起こる。俺が世界樹の傍にある家から出発して既に4度ほど太陽が沈んで再び地平線の彼方から昇ってきたのを見たのだが、そんな短期間に既にこうして絡まられる回数は片手の指でも足りないほどにある。
俺の目の前に現れたのは、奇抜な格好をした女性。通常の人間ならばその姿を見ただけで格の違いを理解して足が竦んでしまうような気配を発している、神。
「何の神様? 木?」
「ふざけているのか? 我が領域に平然と足を踏み入れ、尚且つその無礼な態度……人間如きが私に対して──」
「悪いけど、神様に絡まれるのはもうこれで6回目なんだ。さっさと退いてくれないか?」
「貴様っ!?」
辟易としている。ニクスが神々のこの世界に蘇らせたくなかった理由がここ数日だけでよーく理解できてしまうほどに、神ってのは面倒な生き物なんだと理解してしまった。
何か抗議の声が届く前に、俺は自身の魔力を黄金に変換して神の肉体を包み込み……無造作に握りつぶす。これで死んでくれる神ならその程度だし、これで死なないなら真面目に相手をしなければならない。今回は……ちょっと真面目に相手をしようか。
「そうか、貴様が不遜にも神の地位に立とうとしている人間」
「別に神になりたい訳じゃないんだけどな……本来なら、お前らがしっかりとこの世界を守る存在として機能していれば、俺だってこんな力を手に入れる必要もなかったんだが……お前らが好き勝手に暴れるから」
「知ったことか」
神々が世界に復活してから、片手の指で収まらない数の神に出会った。そして、全員を殺してきたのが俺だ……そりゃあ、ニクスだって神々を消し去ってそのまま放置していた方が世界は平和だと思う訳だな。
出会う神、どいつもこいつも傲慢で自分勝手で何も考えてない馬鹿ばかりだったので、結果的に出会うたびに戦闘になるのだから厄介だ。
「お前のようなカスを殺すことが、我々神々の力を証明することにもなる。神と人間の境を踏み越えようとする者には裁きを下してやらねばならないのだ」
「そうか」
ざわざわと山が騒めいている。風の神かとも思ったが、次に瞬間には地面が揺れ始めたので山の神であると断定して、俺が先に動く。
神と数回戦ってきたことでそれなりのノウハウはある。まず、神々との戦いで最もしてはいけないことは、相手の土俵で戦うことだ。山の神ならば山で、風の神ならば風の通る場所で、砂の神ならば砂のある場所で、鋼鉄の神ならば鋼鉄が存在している場所で、それぞれの領域で戦うことは自殺することに等しい。それぐらい、神々にとって領域と呼ばれる場所は重要なものだ。ならばどうするのか……その領域から引き離して戦うのだ。
「死ねっ!」
「
「なっ!?」
神との戦いで俺が初手にすることは、あらかじめ繋いでおいた場所に向かって神を引きずり込むことだ。
「隙間だとっ!? 貴様、どうやってこんな場所に扉を繋げ──」
「やかましい」
精霊界に引きずり込んだ時点で、俺の勝ちはほぼ確定している。
周囲を確認して、自分が本来ならば辿り着くはずのない場所に飛ばされたことに気が付いて声を荒げる山の神だったが、背後からニクスによって胸を刺し貫かれたことで言葉が止まる。
「貴、様ら……そうか、貴様は、世界の──」
それ以上の言葉を発する前に、ニクスの力によって身体の内側からバラバラにされた山の神は、そのまま魔力のような塵となって消えていく。神は死なない……概念が存在している限りは、何度も復活するが……あそこまで丁寧にバラバラにされれば、流石に復活するのに数日はかかるだろう。
腕に付着した血を振り払いながら、ニクスは大きなため息を吐いた。
「何度目だ?」
「仕方ないだろ? お前だってそれを想定してたはずだ」
「そうだがなぁ……想像よりも面倒な神が多かった。昔は引き籠っていたからあまり詳しくなかったんだな……もう嫌気が差して仕方がないぞ」
「俺だって山を歩いているだけでどれだけ絡まれてると思ってんだよ」
山の神、川の神、鳥の神、風の神、土の神……あと何に絡まれたっけ?
覚えきれないぐらいの数の神に絡まれて、俺も既に辟易としている。黄金郷を探すことは俺の持つ黄金の力に関係していることなので、止めることもできないのだから厄介な話だ。俺が神に遭遇するたびに、世界の隙間へと入り込んでニクスと2人がかりで片付けているのだ。
普通に、こんなことを続けていたら復活した神々が協力して俺たちを倒しに来そうなものなんだが……風の神と土の神が同時に俺に復讐に来た時は、なんと互いの顔を見た瞬間に俺を放置して2人で喧嘩を始めたのだ。神と神の戦いは喧嘩なんて可愛いレベルじゃないので、結果的に最後はニクスと協力してささっと殺したのだが……とんでもない連中だと再認識させられた。
「人間の社会は大丈夫なのだろうか」
「大丈夫ではない。既にいくつかの都市が神々の怒りを買って崩壊している……これからは、神々に適応できない人間は滅びていく厳しい時代だ」
「なんとかしてるんだろ?」
「とてもじゃないが追いつかない」
まぁ、ニクスはあくまでも世界の安定維持が目的であって、人類の守護者ではないから仕方がない。
うーむ……俺は果たして無事に黄金郷に辿り着けるのだろうか。
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