第104話 夢を追いかけて
俺たちは勝った。原初神の暴走と異界の侵略者からの防衛……どちらも結果的には上手くいった訳だが、あくまでも結果的にだったのが問題だ。完膚なきまでに全てを叩きのめすことができたのならば問題はなかったんだろうが、俺たちは暴走した原初神にも、異界からの侵略者にも苦戦してしまったことで様々な問題が残ってしまった。
まず、異界から侵略者がやってきたことが広くバレてしまったことだ。これはもうしょうがないことだと割り切るしかないのだが、俺たちが戦っていたのは敵の大部分であって全員ではない。地上に降り立って破壊の限りを尽くしてから、他の先遣隊が壊滅したことを知って撤退していった連中も多かったらしい。姿を見られている訳だから、完全に人間ではないことはバレてしまっている。そうなれば、国々は一斉に軍備を増強して自らの国を守ろうとする。その先に待っているのは、人間同士の大規模な戦争だ。
まだ起きてもいない戦争を気にしていてもしょうがないと思わなくもないが、人間社会において戦争の火種なんてものはそこら中に転がっている。宗教的な問題、国の成り立ち、過去の遺恨、資源の量、土地の広さ、人口の増加、食料の問題、肌の色、魔力の量……理由など幾らでもあるのだ。
人間同士の戦争だけだったら、少し冷たいが自分たちに関りが無い部分の話は知らないと無視することもできないのだが……ここに更なる問題が積み重なってしまった。それは、ニクスが侵略者と海神に対抗する為に解放した、世界中の神々だ。
神々は戦争を引き起こして疲弊したところをニクスによって存在ごと抹消されていた。しかし、神々は厳密に全員が死んでいた訳ではなく、消えている間も人間には認識されていないだけでこちらの世界を眺めていることはできたはずなのだ。元々世界を牛耳っていた神々が降臨すれば……当然ながら世界中は混乱するだろう。人間よりも高い知能を持ち、圧倒的な力で全てを支配する概念の塊……きっと、幾つかの国はあっという間に神々に乗っ取られていくだろう。そうなると更に戦争の可能性が高まる。
「はぁ……もっと人のいないところに逃げるべきかな」
「た、確かにさっきまでの話を聞いていると、さっさと逃げちゃった方がいいかもしれないですね」
溜息と共に俺の口から洩れた弱音を聞いて、アルメリアは同意してきた。まぁ……誰だって戦争に巻き込まれるのは嫌だろう。しかし、俺の場合は逃げても無駄なことが分かっているから余計に口から溜息が吐き出されてしまうのだ。
俺は、異界の侵略者に対抗する為に黄金の概念を魂に取り込んだ。それは、神々の成り立ちに近しいもので、身体は人間だが魂だけが神と同等になっていると考えていい。つまり……神々にとって俺は突然増えた意味の分からない神の力を持つ人間なのだ。目障りにも程があるだろう……多分、すぐに狙われる。
こちらを狙ってくる相手がそれこそ人間ならば、逃げ回ればいいのだが……世界の概念そのものである神々にとって互いの位置を把握することなど造作もないことなので、逃げる場所などありはしない。神々が世界に解き放たれた時点で、俺は狙われ続けることが確定しているのだ。
ここまで、戦いが終わって神々が復活した後のデメリットばかり考えてきたが、メリットが全く無い訳ではない。まず、人間に好戦的な奴と平和的な奴がいるように、神々にもそれぞれ性格というものがある。俺のような新しい存在を受け入れるような神もいるだろうし、これらのことに関して無関心を貫く奴も現れるだろう。だから、一概に全ての神が俺の敵になる訳ではない。そして、最大のメリットは今回の戦いで強力な味方ができたこと。それは、世界の神々を一度消したニクスと呼ばれる世界の安定維持装置だ。
神々にとってニクスは目の上のたん瘤……上位の存在と言って良い。ニクスの言葉をそのまま真面目に受け取って止まってくれる奴なんていないだろうが、少なくとも神々が暴れ始めたら確実に俺の味方サイドに来てくれることはわかっているので、神々と戦って負ける心配はない。そもそも戦いたくないんだけどね。
「世界は良くも悪くも変わっていくから、今まで通りの生活ってのはできなくなっちゃうけど、それはそれとしてきっとうまくいくよな。だって、今までだって上手く……上手くいってたかな?」
結果的に上手く言っていただけで、俺が思った通りにことが運んだことは殆ど無い気がしてきたんだけど、もしかして俺の人生であんまり上手く言ってないことの方が多いのか? マジか……考えないようにしてたけど、ちょっと思い返してみると美味く言ってないことの方が多数だな。
いや、人間の人生なんて本来ならばそんなもんなのかもしれないけど、結果良ければって考えてもちょっとショックだな。
「もう、探索者には戻らないんですか?」
「まぁ……色々とあったけど、やっぱり探索者には戻らないかな。自由に生きている方が俺に合っているってのもあるし、組織に所属すること自体が面倒だって思うこともあるし」
俺は世間的に普通の人間にはなれないらしい。普通になるってのは案外難しいことだってのが知れただけでも、俺の人生の糧にはなったのかもしれないけど……やっぱりはみ出し者ははみ出し者としての人生を歩むのが合っている。
アルメリアやマリーのようにしっかりと成功している人間とは違って、俺は所詮はみ出し者……異世界からやってきた異物でしかないのは事実なんだ。いくら彼女たちが俺のことを受けれいてくれても、な。
「さて、と……嫌なことばかり考えてないで、さっさと支度しないとな」
心配事が片付いたら別の嫌なことが頭の中に浮かんでくるのは、不安ばかり目にしている人間を悪い所だ。俺だってもう少し頭に楽しいことを思い浮かべて生きて行かないと……いつまで経っても後ろを向いて生きていく訳には行かないんだから。
椅子から立ち上がって支度をするために部屋に向かおうとしていたら、アルメリアが首を傾げていた。
「支度? 何処か行くんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ」
おかしいな……もうみんなには伝えていたと思ったんだけど……俺が勝手に思ってただけか? 流石にこんな重要なことを伝え忘れることなんてないと思ったんだけどな。
「ちょっと、黄金郷を探しに行ってくるよ」
「……はい?」
え?
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