第101話 星の神

「ぶっ!?」

「おいおい……冗談きついわ」


 世界の泡の間を駆けぬけて暴れ回っている海神と冥府神についていき、俺とニクスも戦闘に参加するのだが……1度でも死んだら終わりの俺を庇うように、何度も死ぬことができるニクスが何度も攻撃を受けているのだが、その度に身体の殆どを消し飛ばされている。

 ただ水を飛ばしているだけに見えるのに、威力は桁違いだ。それこそ、俺が操る黄金による攻撃なんて児戯にも等しい程の威力しかないのか、こちらを嘲笑いながら海神は全てを跳ね除けて大量の水を操って攻撃してくる。

 やっていることは俺の完全上位互換だ。俺が黄金を操るように、海神は水を操って質量で攻撃してくるのだが、余りにも量が違いすぎて話にならない。とは言え、冥府神の思惑通りに少しずつ世界の端に向かて追い詰めてはいるのだろうが……既にニクスが5回ほど死んでいることを考えれば、それこそ命が幾つあっても足りる気がしない。


「そら、もっと水を操って見せよう!」

「これ以上、悪戯に他世界を巻き込むな! それでも世界を管理する神々の1柱か!」

「誰がそう望んで生まれて来たなんて言った。私は自由に生きる……世界を滅ぼしたとしても!」


 神という世界を運営するためのシステムに感情など必要ない。海神の主張を聞くたびに俺はそう思ってしまう。それはあまりにも残酷な選択肢を神に押し付けているだけなのかもしれないが、少なくとも人間には世界のあらゆる現象をコントロールする力など制御することができないのだから、あのような神と呼ばれる存在は必要不可欠。そして、そんなものをコントロールする存在がああやって自我を持って暴れ出したら、誰にも止めることができないのだから、システムはシステムとして、感情のない機械のような存在にやらせるべきだった。まず、原初神などという世界の構成要素を司る存在が生み出されたこと自体が、世界の間違いだったのかもしれない。


 冥府神が動くのに合わせて俺は黄金を操って海神を包囲する。真正面から攻撃すれば圧倒的な質量差でこちらが押し負けてしまうかもしれないが、同等の実力を持つ冥府神の相手をしながらこちらに対して意識を割くことはできないはずだ。


「加勢するぞ!」

「6回目の復活お疲れ様です」


 短時間で復活してきたニクスが、死の恐怖などなんのそのと言わんばかりに海神と冥府神の間に突っ込んでいく。もはや自暴自棄になっている気がするが、恐らくはこの戦いに勝ってしまえばこれから先、世界が厄介なことに巻き込まれることはないと思って戦っているのだろう。つまり、最後の気力ってことだな……この戦いが終わって世界が安定したらまた引き籠ってそうだ。

 しかし、厳しい戦いだ。ニクスが冥府神と海神の戦いに真正面から突っ込んでいけるのは何度でも生き返ることができるからであって、まともな生物ならあんな怪物の戦いに首を突っ込もうなんて狂っていても考えないだろう。実際、俺が隙を見て周囲を覆うように展開した黄金は海水によって簡単に破壊されてしまった。


「兄上! 同等な存在との戦いは楽しいものだと思いませんか!?」

「黙れ! 俺は世界が安定して動けばそれでいい。それに、戦いにはもう飽き飽きだ!」

「勿体ない……これほどの力を持ちながら、延々と送られてくる魂の管理をしているだけなど、この世で最も強い力を持っているものがすることではない!」

「それが我々の生まれた意味だ。勿体ないなどと言っているお前の方が馬鹿だろう」


 生まれた意味……それをそのまま生きる意味へと変換している冥府神と、全くその役目を全うする気がない海神の話し合いは平行線だ。時間が流れているのかわからないこの空間で永遠に語り合っても、答えなど出ないだろう。

 最初から説得など諦めているニクスは、そんな2人の会話を切り裂くように突っ込んでいく。魔力を刃を構えながら突っ込んできたニクスを、水の球体で閉じ込めた海神がため息を吐く。


「ニクス、お前もそうだ。何故それだけの力がありながら神々を恐れ、人間を恐れ、我々を恐れ、他世界を恐れる。世界を安定させるために必要なのは手を繋いで仲良くすることではなく、圧倒的な強者が上から支配することであるとお前はわかっているはずだ」

「我々は世界の運営者であって、支配者ではない!」

「いいや、力あるものが世界を支配するべきだと私は考える。誰も支配者にならないと言うのならば、私がなってやろうではないか」


 尊大な態度で、しかしそれに見合った実力を証明しながら海神が笑う。


「ほぉ? その為に我々の世界を滅茶苦茶にした、と?」

「──は?」


 更に大量の海水を集めて俺たちをまとめて押し流そうとしていた海神の胸から、いきなり巨大な刃が生えてくる。海神自身も、何が起きているのかわからないという困惑した表情を見せていたが……ゆっくりと振り返って目を見開いていた。


「お前は」

「そう、お前が焚き付けた世界の主だよ」


 そこにいたのは、俺たちの世界に侵略してきた連中と同じような姿をした存在。4本の腕が生え、ギョロギョロと目玉が周囲を観察するように動き回っている。しかし……俺たちの世界にやってきた侵略者と比べても、存在感が圧倒的だ。


「さて、よくもそんなくだらない理由の為だけに私がゆっくりと育てた世界を滅茶苦茶にしてくれたものだ……これはしっかりと報復しなければならないなぁ?」

「ふ、ふはははははっ! いいだろう……これを望んでいたのだ! 世界全てを巻き込んだ戦争と行こうじゃないか!」


 なんて野郎だ。異界の侵略者を世界に呼び込んだ理由にそれっぽいことを言っていた癖に、結局は自らが満足するためだけに呼んでいたのか。逆に、この世界の外側にこいつを連れてきたのは、悪手だったのではないか?

 冥府神の方へとちらりと視線を向けたら、微笑みが返された。海神は他世界の神と戦うことが目的だった……いや、自らと対等な存在と戦うためだけに世界を巻き込んだわけだが、冥府神はそれを見越してこの世界の外側に放り出したってことか? じゃあ……冥府神の狙いはここから?


「丁度いい。俺の世界からこの屑を放り出したかった所だからな……協力させてもらおうかな?」

「……いいだろう。私としても、他世界とそのまま戦争することは好ましいことではないからな」

「おっと……流石にここまで敵が増えると不利かな?」


 冥府神は、相手の性格を熟知していたのか? うーん……魂の声が聞こえる神様の考えていることなんてわからないけど、ニクスだって何も言ってないのだから別にいいってことにしておくか。

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