第100話 追放計画
「侵略者の相手もしなきゃいけないのに、なんでこいつの相手もしなきゃいけないんだよっ!?」
「そう言うな。もっと楽しもうじゃないか!」
海神は笑いながらおもむろに世界の泡の一つに触れた。
原初神の強すぎる力は世界に干渉することができてしまう……ニクスは確かにそう言っていた。つまり、海神は今、よくわかりもしない世界に触れて干渉しているのだ。
「そらっ!」
触れていた泡から手を放した瞬間に、泡から大量の水が溢れ出してきた。余所の世界の海に干渉して、水を撒き散らしているとでも言うのだろうか。それはつまり……余所の世界の水を勝手に減らしているってことなんじゃないのか?
なんて傍迷惑なことを平然とやっているのか、この原初神は理解しているのだろうか。いや、この神はそれを理解していたとしても自重しない性格をしているのだろう。本来ならば力が拮抗しているはずの冥府神があまり張り合うことができずに海神に苦戦しているのは周囲の世界を気にしているか気にしていないのか、その違いなのだろうな。
荒れた海のように気分屋で好き勝手に暴れている海神と違って、魂を管理する割と真面目な冥府神は周囲の世界を巻き込んでまで戦うことができないのだろう。
「調子に乗るなっ!」
「おっと……そんな本気で攻撃して大丈夫かな? 世界を巻き込んでも知らないぞ?」
「私の力ぐらいで世界に影響を及ぼせるものか」
ニクスが遠慮なく攻撃しているが、それは自分の攻撃では他世界に影響を与えるほどの出力を出せないと理解しているからだ。ならば俺も遠慮なく、攻撃させてもらおう。
黄金を利用して全方位からの攻撃を仕掛け、同時に己の肉体を使って攻撃する。死角から回り込んで放ったはずの蹴りは簡単に受け止められてしまったが、反射的に突き出した拳は水の球体に閉じ込められて勢いを殺されてしまった。
「そら、捕まえたぞ?」
勢いを殺されて動きが止まった瞬間に、海神は俺の手を掴んで笑った。瞬間に死の予感が俺の全身を駆け抜けたが、海神が動いて俺の命が散るよりも早く死神の鎌が海神の首を飛ばした。
「おや?」
「見えなかったか? 我が不可視の刃が」
冥府神が虚空で何を握るようにして構えているのを見て、初めて透明な刃によって首を切断されたのだと理解したのか、海神は少し呆けたような表情を見せてからにっこりを笑いながら、一瞬で首を元に戻した。
「我が海の大いなる強さを知れ」
「っ!? ヘンリー!」
ぐいっと身体をニクスによって引っ張られた俺は、そのまま泡のように広がる世界の間をすり抜けていき……遠目に大量の水が渦巻きのように動いてニクスと冥府神を飲み込んでいくのが見えた。パチン、と海神が水を引き出していた泡が弾けた。
「おっと……海水を取り出しすぎて世界が崩壊してしまったな。よっこらしょっと」
は? 世界が崩壊したって……そんな簡単な言葉で済ませていいものなのか? しかも、そんなことを全く気にせずに海神は再び別の泡から水を引き出してくる。
「呆けるな。死ぬぞ」
いつの間にか俺の背後に移動していた冥府神が呆然としている俺の肩を掴んで動きを止めた。無重量状態で呆然としたまま後ろに下がっていた身体が止められると同時に、俺は重力があるように足をつけてから……そのまま四つん這いになって倒れこんだ。
「今、1つの世界が消えたのか?」
「そうだな」
「下手すると、何十億人って人が死んだのか?」
「死ねば魂が輪廻の輪に乗り、再び巡って生れ落ちる。しかし……崩壊した世界の魂はそのまま泡のように消えていくしかない」
「生まれ変わることも、できずに?」
「そうだ。だから死んだのではなく、消滅したのだ……この無数に存在する世界のどこにも、もう存在しない」
身体の内側から何かがこみ上げてくるのを必死に押し留める。俺は全く理解していなかった……俺が戦っている場所はどういう所なのか。そして……海神の行動によってどれだけの犠牲が出るのかを。急に、両肩にとてつもない重みがのしかかってくる感覚がした。
「落ち着け。お前がそうやって背負ったところで消えた世界は戻らない」
「ニクス……死んだはずじゃ」
「死んだよ。相変わらず巻き込まれたら1発だ」
あぁ……ニクスは復活できるんだったね。と言うか、海神もさっき死んでたね。
「消えた世界の神は何をやっているのやら」
「それも狙っていたのか?」
「当たり前だ。私たちだけであれを追放できるわけがないと思っていた」
消えた世界の神って、なに?
「俺たちが俺たちの世界の原初神であるように、他の世界にもそれ相応の神が存在している。信仰を失って形も保てなくなった者や、人間によって封印された存在なんかもいるだろう。しかし、これだけ世界の外でドンパチやっていたら誰かが気が付くと思うのだが……全員が我関せずと干渉してこないから結局は俺たちだけで戦うことになっている」
「他の世界の神を巻き込もうと思ってたのか」
「さっき滅んだ世界には神が存在していなかったようだがな」
実はかなり無茶苦茶なことをしてないか?
「そらっ! まだまだ世界はあるぞ?」
「取り敢えずはあいつを止める。世界から引き離す……のは難しいかもしれないが、とにかくやれるだけやるしかない」
冥府神がそのまま海神の方へとすっ飛んでいく。
「世界から引き離す……そうか、その手があったか」
「どの手だよ」
「ここは世界の外な訳だが、こうして無限にも近い数の世界が湧きだし続けている。しかし……この空間の方が圧倒的に広い」
ん? つまりそれは……宇宙の果てのように星が無い場所へと向かって放り投げて二度と帰ってこれないようにしようってことか?
「世界に干渉すらできない距離まで引き離して縛り付けるなり、封印するなりしてしまえば二度と世界には戻ってこれなくなる」
「原初神がいなくなって世界は大丈夫なのか?」
「世界は勝手に安定させるために新たな神を生み出す。それがあんなクソみたいな奴ではないことを祈れ」
「えぇ……」
もう神様ガチャじゃん。
「むしろ、これ以外に方法はない。原初神を殺す方法なんてそうないからな……身体をバラバラにしてから再生できないように別世界にそれぞれ封印すると言う方法もあるが、こんな厄介なことを了承してくれる世界もないだろうし」
「でしょうね」
ちょっと暴れるかもしれない神様の腕を保管させてくれないかなって言われたら絶対に嫌って言うと思うわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます