第84話 対策はゆっくりと
俺のことを雑魚だと認識したはずのニクスだが、それでも警戒心を剥き出しにしたままこちらを見つめるのは生来の疑り深さなのか……それとも単純に何事も慎重に進める性格なのか。
なんにせよ、ニクスは自分と俺の力の差をしっかりと認識した結果……手を降ろしてこちらを見つめていた。
「お前が、最初に言っていたことを想いだした」
「あー……神々の力がないと異界の侵略には勝てないってやつ?」
「そうだ。異界の侵略者本人が何を言ってるのやらと思ったが、どうやらお前は異界の侵略者ではないよだな。なにせ、お前は本気で戦っていない」
「いや、結構本気だったんですけど」
「だが、お前は神殺しの刃を出していない」
はぁ……本当にプライベートってものが俺にはないのかな?
俺の
「あれはあくまでも神を殺すための刃であって、神でもない世界の安定維持装置に対して向けるものじゃないからな」
「そうか……私はお前の認識では神ではない、ということだな」
「まぁな……人間の中にはお前の在り方を神として認識する存在もいるだろうが、俺は別にそう思わない。アンタは神には向いてない……だって真面目過ぎるから」
「違いない」
神と言う存在は自らが生まれた概念に従って良くも悪くも好き勝手に動き回る存在なのだ。世界とか、人類とか、異界とか……そんなものに対してなにか配慮するような存在ではなく、ただそこに在り続けるからそう振舞うのだ。理不尽な存在だが、人間にとっては間違いなく庇護者でもある。
「お前の話を聞く気になった」
「俺がお前より格下だからか?」
「違う。お前の言葉には一応、嘘が無いことを理解したからだ」
「一応ってなんだ……俺はお前に対してまだ嘘は言ってないぞ」
「まだ、な」
信用がねぇ……まぁ、俺は結構日常でも嘘を吐くタイプだろって言われたらそうなのかもしれないけどさ。
「このまま神の存在を消したままでは異界の侵略者によって世界が滅びる、だったか? まぁ……お前の言うこともわからんでもない。実際、過去に異界の侵略者が来た時は世界が滅びかけたのだからな」
「来たことあったんだな」
「私がこのような形で世界に生まれる前の話だ。原初のクソどもが追い払ったが……おかげで世界はボロボロ。立て直すのに人間の文明が通常なら3回は発展しそうなぐらいの時間がかかった」
「大体……1万年ぐらいか?」
途方もない時間だな……だから原初の神々は地上の諍いごとに対して基本的に不干渉を貫いているんだな。強すぎる力を制御することができないから……いや、そもそも彼らは何故自分が力を制限しなければならないのだ、ぐらいに考えているからそうなるんだろうな。
「しかし、神々は自らのエゴの為に生き、世界を崩壊させかねない存在であることは事実。異界の侵略者に対抗することができても世界が滅びてしまっては元も子もない。そうだろう?」
「それはそうなんだけどさ……でも、人間は自らの足だけで生きていけるほどに強い種族じゃないと俺は思ってるんだ。人間だけだったら、すぐに戦争が起きて簡単に世界は疲弊する」
「問題ない。人間など少し放置すれば勝手に増えるし、お前たちの戦争で出る被害など神の1柱が気まぐれで起こす天変地異より遥かに小さい」
「うーん」
そう言われるとなんとも説得し辛いと言うか。
「なら、神を復活させずに異界の侵略者に対抗する方法を探るってのはどうなんだ?」
「……全く思いつかないな。私も神ではない兵士を育ててなんとか対抗しようとしたが、出来上がったのはそこで人類種如きと張り合っている雑魚が2人だ」
「雑魚っ!?」
「言われてしまったな。まぁ、薄々そう思われているのではないかと思っていたが」
指差して平然と雑魚呼ばわりされてたことに、処刑人の方は滅茶苦茶ショックを受けていたが、武人の方は「そりゃそうだろ」みたいな反応をしていた。まぁ、確かに異界の侵略者に対抗しようと思って作った存在が人類種如きに苦戦しているよでは、確かに出来損ないの雑魚って思われても仕方ないよな。
「信頼できる神だけ復活させる、とか?」
「そんなことで制御できるほど人間の信仰心は薄くない。誰もが忌避する神にすら縋りつくようなどうしようもない人間と言うのは一定数現れるし、忌避される神なんてものは力は得たら大抵はやらかすのだから」
「じゃあダメじゃん。なんの対策も思い浮かばないのにあれは嫌だこれは嫌だって言うなよ!」
「仕方ないだろう。私が戦ってもギリギリ……最悪私の存在そのものが消されかねない。そうすれば世界は再び混沌の時代に逆戻りし、人間の文明は簡単に崩壊するだろう。これでも私は人間のことを気にかけてやっている心優しい存在なのだから」
否定はしない。実際、ニクスは人間を滅ぼそうと思えばそれができるほどの力を持ちながら、神の存在を秘匿するだけで人間を滅ぼそうなんてことはしていないのだから。世界を守ることをなにより大切に考えているニクスにとって、世界の一部分である人間の文明社会を守ることは当たり前のことなのだろう。ただ、世界から抜け出した力を持っている神々は守るべき対象として見れないようだが。
「……お前が神々を支配する王になってくれればいい」
「嫌だ」
「なっ!? 永遠の命だって私は与えられるぞ!?」
「絶対に嫌だ」
ニクスが馬鹿なことを言いだしたので速攻で拒否。俺は永遠の命なんてものには興味がない。大体、命が永遠にあったとしても必ず人生で飽きる日がやってくる。そうなったら……俺は正気のままでいられるような気がしない。なにより、俺は横暴な神々と同じように振舞い、世界を混沌の時代に巻き戻してしまうだろう。それは刺激を求めての行為になるだろうが、結果的にはニクスと敵対することになる。
将来敵対することが分かり切っている相手に対して力を与えるなんて馬鹿なことはするべきではない。
「異界の侵略者に対抗する手段はゆっくりと探していくしかないんじゃないか? それこそ、最終手段として神々を復活させるとかさ」
「……手伝ってもらうぞ、異界の魂を持つ男……ヘンリー・ディエゴよ」
「なんかそれっぽい雰囲気出してるけど、もう今更取り繕うこともできないからな?」
なんでちょっと威厳ある人みたいな顔してんだよ。
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