第81話 自信を取り戻せ
眩い光に対して目を閉じていたのだが……いつまで経っても衝撃みたいなものがやってこないのでそのまま目を開けると、何故か世界樹の前に立っていた。
「あれ?」
「どうしました?」
背後から聞こえてきたのはアルメリアの声だったので振り向こうとして、俺は直前に動きを止めた。
さっきまで確かに戦っていたのに、なんで急にこんなことになっているのかわからない。頭が完全に混乱してしまっているのだが……なにか違和感のようなものが拭えない。
「どうしたんでしょう?」
「さぁ? ヘンリー?」
今度はマリーの声だ。2人の声が聞こえるってことは、俺はもしかして戦っていなかったのだろうか。ニクスと戦い始める夢を見ていただけで、実際には戦っていなかったのかもしれない。
そうかもしれない……でも、そうじゃないかもしれない。
手の中に武器を生み出して握ってみると、確かな感触として返ってくる。俺の感覚は正常だ……ならば、おかしいのはこの空間だろう。
「ちょっとヘンリーなにをするつもり──」
「幻覚か? つまらないことをしてくれるな」
剣を振るった瞬間に空間が砕け散って、胸にあった剣を抜いている最中のニクスと目があった。
「ちっ!? やはり異界の魂を持つ者には効かぬかっ!」
「異界の魂、ね」
攻撃を受けたまま起き上がらないメイ、アルメリア、マリーも同じような幻覚を見せられているのだろう。よくよく見れば倒れている2人の傷は浅いし、この程度で昏倒するような柔な女じゃない筈なので、ニクスが幻覚を見せて眠らせているのだろう。
それにしても、まさか初手でいきなり謎の幻覚を見せられるなんて思ってもいなかった。真正面から戦おうとする気概がまるで感じられないのは何故なのだろうか……その癖に無駄に強い言葉を使って俺に対して接してくるし。
もしかして……本当にただの勘違いかもしれないけれど、こいつは俺のことを恐れているのか? いや、正確には俺の中にある異界の魂を恐れているのかもしれない。この世界の安定維持装置として生まれたニクスの力は、この世界の存在ではない俺の魂には作用しない。その結果、俺の肉体にはある程度通用しても魂には効かないのでさっきみたいに幻覚が中途半端になったりする。もしかしすると、未知の存在に対して恐怖を抱いているのかもしれない。そう考えるとちょっとこちらの気持ちが楽になる。こちらを恐れている相手に対して遠慮するつもりなんて更々ないからな。
「くっ!? おのれ……貴様、何故この世界にやってきた! 何故この世界を荒そうとする!」
「おいおい……お前が神をこの世界から消したせいで滅びかけてるんだろ? 世界を荒してるのはそっちじゃないか?」
「黙れ! 私の考えなど理解する気もないだろ! 神々は屑ばかりだ! 自らの都合で道理を捻じ曲げ、世界を歪ませ、挙句の果てに力を誇示するためだけに戦争を巻き起こして世界を滅茶苦茶にする! そんな者たちがいないと世界が滅ぶ? 冗談ではない! 奴らがいるからこそ世界は滅びるのだ!」
「でも、異界の侵略者にはお前だけじゃ対応できない」
「それを何とかする為に私は配下を生み出し続けている! お前が撃退した2人の刺客もそれだ!」
「そうか……ならこの世界が滅びるってのも納得だな」
「なっ!?」
こいつが何千年前から準備してきているのか知らないけど、それだけの時間を使ってもあれだけの力を持った存在しか作れないのならば世界が滅びると海神が嘆くのも無理はない。
「お前は万能の神じゃないんだから無理だろう。神々は確かに自分勝手でとんでもない奴らかもしれないけど、その力が無いと簡単に異界の侵略者に滅ぼされてしまうぞ?」
「お前がその侵略者だろう!」
「あー……」
それはあまり否定できないかも。
俺が何故この世界に紛れ込んでしまったのか、そんなことは俺自身も知らない。もしかしたら、目の前の安定維持装置であるニクスを殺すことを勝手に頭に刻み込まれて、異世界から送り込まれた兵器かもしれないし……俺は自分の意思で動いているつもりでもその送り込んだ奴の望み通りに動いているだけかもしれない。
俺の言葉がニクスの届くことはないのだろう。なにせ、俺はこの世界の人間ではないのだから。
さて、一気に説得するのが難しくなったのだが……これはどうするべきだろうか。普通に考えたら俺は目の前のニクスをぶっ殺して世界の安定維持装置を新しいものに挿げ替えるべきなんだろうが、それをしたら取り返しのつかないことになるのはわかっている。
「……わかった。俺の言葉が信じられないのはわかったから、もう少し原初の神と協力するとか」
「最たるものだ! 奴らは神々の中でも最も自分勝手で簡単に世界を滅ぼす存在だろう! 自らが世界の要であると知りながらも個人的な感情に飲まれて世界を滅ぼしかけたのだぞ!? そしてそれを止めようとした私を簡単に何度も殺した! 私では奴らを制御することはできないのだ!」
完全なトラウマですね、これは。
錯乱したように頭を振り回しながらどんどんと魔力が膨らんでいくのを感じて、俺は冷や汗を流していた。なにせ、奴の身体から漏れ出している魔力は何処までも透き通るような綺麗なものでありながら……圧倒的な質量となって俺の肌を撫でているからだ。魔力が肌で感じることができるなんて異常な強さだ。ドラゴンですら簡単に吹き飛ばされるだけのことはある。
原初の神々には簡単に殺されたようだが、これだけの力があれば普通の神々は制御できそうなものだが……きっと彼の中には神には勝てないと言う方程式が世界の法則のように根付いてしまっているのだろう。彼の中では、足を前に出せば歩くことができるのと同じように、神に逆らえば殺されるという常識が刷り込まれているのだ。
「仕方ない……お前が世界のシステムの存在としてしっかりしないといけないってことを、思い出させてやる」
「異界の侵略者め……私を殺す気か!? いいだろう……何度でも蘇ることができる身体ではあるが、私も全力で抗ってやる」
俺の目的は決まった。
ニクスに自分は強者であることを思い出させてやる必要があるのだ。そうさせることで、神々を復活させようとも自分が世界をしっかりとコントロールできることを教えてやるしかない。
それにしても、こんな魔力を解放している化け物を瞬きの瞬間に複数回は殺している原初の神って、何者なんだよ。
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