第78話 精霊界
さて、縁を繋いでもらうことで世界の隙間に入っても存在が消滅することは無くなったらしいんだが、一番の問題はまだ残っている。それは、世界の隙間とやらにどうやれば入ることができるのか……それを知らないことだ。
世界の隙間とやらは本来ならば人間が観測できるものではないようなのだが、そんな場所にどうやって行けばいいのかなんてわかる訳がない。こればかりは人に聞いたって絶対にわからないので、俺が自分自身で探し出さなければならない……もしくは、神のような存在に聞くしかない。
「と言う訳で、神の次に長生きしてそうな2人に聞きたいと思います」
「知っていると思うのか? そもそもその世界の安定維持装置とやらの話をお前から聞いたのが初めてだと言うのに?」
「同感だな。大地の女神が生きていることすら知らなかった私のような無知な精霊に何を聞いても答えが帰ってくる訳がない」
「……ちょっと私とウルルちゃんがいない間に何があったんですか? この世界樹の精霊がこんな落ち込む姿なんて見たことないんですけど」
いつの間にか何処かに行っていたと思ったら、いつの間にか帰ってきていたヨハンナが困惑した様子で俺に問いかけてきた。いや、俺はお前の方に聞きたいことが沢山あるよ。なんの書置きもせずに自分たちの国に帰ったのかと思ったらひょっこりまた帰ってきたもんだから、こっちの方が困惑したって言うのに。そんなことより、シルヴィの話か……メイの方はいつも通り憮然とした態度で知らないと言っているだけだが、シルヴィが語ってくれたのは自らを卑下する内容……以前のシルヴィからは考えられない言葉である。
どうやら、世界樹として世界を守るのは大地の女神が遺した言葉だと思い込み、それを忠実に守ろうとしていたのに、その相手が普通に生きてましたってことにショックを受けているらしい。大地の女神が生きていたことが嬉しいのではないかと思ったが、どうやら自らを生み出した創造主に対して複雑な思いを抱いているようで、嬉しいだけではないらしい。
「いや、割と深刻な問題ではあるんだけども……問題を解決する方法がわからなくて困ってるんだよ」
「世界の隙間って奴ですか? 精霊が生まれる場所ですよね」
「……は?」
今、なんて言った?
「あ、そっか……人間は知る訳ないですし、そもそもシルヴィさんは世界樹から直接生まれた精霊だからそんな場所なんて知らないですよね。普通の精霊は世界の隙間から生まれるんです。だから世界の隙間なんて言われてますけど、基本的には精霊界って呼ばれる場所ですね」
「それは……いいことなんだろうけど、なんとなく複雑な気分だぞ」
さっきまで行く方法も何処にあるのかもわからない場所だと思っていたのに、精霊からすれば普通に知ってる場所だったとか。おかげでそんなことも知らない自分は駄目な精霊だと言わんばかりにシルヴィの雰囲気が更に暗くなってしまっているぞ。
そもそも生まれが特殊な精霊なんだから気にすることはないと思うんだけど……これに関しては自らのアイデンティティに関わる話だから、無理に慰めてやるのは逆に逆鱗に触れることになりそうだからやめておこう。
「じゃあ、その精霊界ってのはどうやって行くんだ?」
「人間の身体で耐えられる場所ではないと思いますが……精霊界に行くには門と鍵が必要です。門に関しては世界中にあるのでいつでも入ることはできますが、鍵は精霊がそれぞれ持っているものですから」
「じゃあ俺も鍵を探さないと駄目ってこと?」
「いえ、鍵は私も持っているので入れますよ」
入れるんかーい。
「なら、私も連れて行ってもらおうか」
「……ニクスを殺さないって言うならいいよ」
「その時次第だな」
いや、確かに俺も殺さないと言い続けているけど、相対したニクスがどういう奴かで今後の対応は変わってくると思う。向こうが俺のことを積極的に排除しようとして来ているのはわかっているし、自分の命を捨ててでも戦いを挑むと言うのならば俺もそれに応えて殺してしまうかもしれない。結局はその時の状況次第なのだが……それでも、最初から殺すと考えてついてくるのならば置いていくつもりだ。
「ニクス様を、殺すのですか?」
ざわっと森が騒がしくなった。ヨハンナが精霊としての力を解放しかけているのだと言うことは見ればわかったのだが……しまったな。世界の隙間が精霊界であり、その精霊界で生まれる存在が精霊なのだとしたら、そりゃあニクスを殺すとか殺さないとか、そんな話をしている奴は精霊として聞き逃せない話だろう。
ニクスが実際に精霊にとってどんな存在なのかは知らない。ただ同じ場所に住んでいる存在なのか、もしかしたら精霊たちにとっての神のような存在なのか、それとも精霊たちの生みの親なのか。それを知ることは俺にはできないが……少なくとも、ニクスを殺すって話をしただけでヨハンナが魔力を溢れさせてしまうぐらいの存在ではあるらしい。
「最初から説明してやれ」
「あー……まぁ、そうか」
メイは面倒くさいと言わんばかりに鼻を鳴らしていた。このまま色々と誤解を生んだまま事件を解決したら、今度は俺が精霊と言う存在から狙われ続けることになりそうなのでちょっと誤解を……いや、そもそもメイが殺すとか言うからこんなことになっているのでは?
なんとか言葉を尽くして魔力を暴走させかけているヨハンナを落ち着かせる。ニクスが世界に干渉することで神々の存在を世界から消そうとしていること、そして世界から神々が消えると異界の侵略者によって近い将来世界が滅びてしまうだろうと、原初の神が言っていたことを伝える。
最初に神々を消そうとしていると伝えた時はそれに何の問題があるんだと言わんばかりの目を向けてきたが、異界の侵略者という単語が聞こえた瞬間に怒りが困惑と動揺に変わり、原初の神の名前を出した瞬間に顔を青褪めさせていた。
「す、すいません! 早とちりしてしまって……」
「いや、それに関してはいいんだけど、君たち精霊にとってニクスはどんな存在なんだ?」
「ニクス様は……私たち精霊を助けてくださった恩人なんです」
恩人、かぁ……これで生みの親とかだったら良かったんだけどな。
かなり面倒なことになっていそうだが……どうするかなぁ。もういっそのこと原初の神が干渉してきて、それで全部終わらせてくれないかなぁ……それやると世界が滅びるかもしれないけど。
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