第75話 俺がやるしかない
原初の神に協力してもらうことで、俺は遂に敵の正体を完全に掴んだ。
世界の安定維持装置として生み出されたニクスと呼ばれる存在は、神々を世界から消し去って安定した世の中を作り出そうとしているが、それは逆に異界からの侵略者と戦う力を持った存在をこの世から消し去ってしまうことでもあった。
当初の俺の目的は神々を探して、そこから本当に黄金郷があったのかどうかを確認することだったんだが……いつの間にか世界を滅亡から救うために戦うことになっている。何がどうしてこうなっているのかわからないが……まぁ、人生はこんなものだと割り切って受け入れるしかないな。そこら辺の受け入れ方は、今までの人生……前世も含めた数十年で嫌と言うほど学んできた。ストレス社会と呼ばれた現代を生き抜いてきた俺にとって、諦観と無造作に物事を受け入れる姿勢は得意分野だ。得意になりたくなってなった訳じゃないんだけどな!
海神の話を一通り聞いて、俺は頷きながらも海神の方へとふと視線を向ける。
「どうした?」
「神々がいないままだとそのうち異界からの侵略者によって世界は滅びるって話だけど、原初の神はニクスの影響の中でも力を発揮できるんだから問題ないのでは? ニクスより強い原初の神々が異界の侵略者と戦えば世界が守れるのでは?」
「あのなぁ……お前は蟻を潰さずに痛めつけることはできるか?」
「え?」
「私たちが本気で異界の侵略者と戦えば、先に世界が滅びるぞ?」
えぇ……どんなパワーを秘めてるんですかね。
まぁ? ちょっと考えればなんとなく具体的な感覚は思い浮かぶんだけどね? だって原初の神だよ? 冥界の神、天空の神、大地の神、大海の神だよ? そりゃあ……本気でやったら世界が滅びるぐらいの力は持ってるかもしれないよね。
「そもそも、我々はどちらかと言えば世界の根幹に根付いている存在だからな。基本的には関わらないようにしているのだ……今回はそちらから会いに来たから別だが」
「俺って会いに来たってことになってるんですかね? ヒントを求めてただ槍に近づいただけなんですけど……ちょっと暴論じゃないですか?」
「知らん! 私が世界のルールそのものだと言っても過言ではないので問題なし! ルールがそう決めたのだから問題ない!」
「えぇ……」
やっぱり大海の神なだけあって、ちょっと大雑把だよな。海のようにすぐに荒れたり、逆に穏やかになったりする性格はそのままなんだけど……どうにも人間とはテンションの推移が違いすぎてよくわからない。
「とにかく、私からお前にしてやれることは全部やったはずだ」
「つまり?」
「さっさとぶん殴って止めて来い」
「ですよね」
知ってた。
その言葉だけ残して海神は俺の目の前から消えた。瞬きもしていなかったはずなのに、ぱっと消えるから本当に何が起きているのかわからないって感じになるのだが……原初の神なら何でもありか、と無理やりにでも自分を納得させて俺は1人で頷いた。
海神の槍から降りて止めてあった船に乗ると、常に荒れていると言われている周辺の海が穏やかになっていることに気が付いた。陸の方ではやることなくて暇って感じでだらけていた研究者たちが大慌てで海のデータを取っているのを見て、なんとなくさっきの青年が高笑いしている姿を思い浮かべてしまった。神は、気まぐれな存在なんだなって。
ヒント、どこからほぼ答えのような物を貰ってしまった。ここまでしてくれたのは、きっとあの海神も世界が滅びるのを黙って見ているつもりはないからなのだろう。もしかしたら、気が付いていないだけで原初の神々は俺に接触しているのかもしれない。だって、冷静に考えると大地の女神が世界の為に植えたはずの世界樹が、俺の前に萎れた状態で現れるなんておかしいじゃん。なにかしらの力が働いて、俺をあそこまで誘導したとしか思えない。それはもしかしたら、大地の女神による意思だったのかもしれない。流石に天空の神と冥界の神からの接触だ、と思えるような出来事には合ってないが……原初の神々は世界が滅びるのを黙って見ているつもりはない、ってことなのかな? 静観しているのはあくまでも世界に関することだけで、世界が滅びる直前になったら介入してくるんじゃないだろうか。それは何年後のことなのか知らないけど……原初の神々が介入してくる前に、俺が片を付けてやろうと思った。
問題になるのは、今回の話をどこまで話すべきかって所だ。アルメリア、マリー、リュカオン、リリエルさん……それにシルヴィとメイだって他人事ではないだろう。
海神に出会って、この世界が滅びそうになっていることを伝えなければならないのか……それともこのまま黙って俺1人で解決するべきなのか。はっきり言って、この世界に普通に生きている人間にとってはどうでもいい話ではあると思う。最終的に世界の滅亡はかかっているが、神々の存在が世界の安定維持装置ニクスによって消去されようとしている事実なんて果てしなくどうでもいい話だろう……認識を弄られてはいるのだけども。
俺がここまで今回の問題に奔走しているのは、黄金郷が見たかったから。そして、異界の魂を持っているからニクスからの認識阻害があまり強く効いていない……だから俺は神々について調べている。一種の使命感とでも言うべきか、異界の魂を持っている俺が謎を解き明かさなければならないと感じている。
「……マリー」
「どうしたの?」
「ちょっと、外のシルヴィとメイを呼んできてくれないか?」
「2人を?」
「アルメリアはリュカオンとリリエルさんを」
「わ、わかりました」
俺が真剣な顔で言ったので、2人は顔を見合わせてからちょっと急ぎ足で外に出ていった。
異界の魂を持っている俺がやらなければならないことなのかもしれない。けれど、人間が1人で出来ることなんてたかが知れている。だから……ここは素直に協力を頼もう。俺だけではできないことでも、みんなの力を合わせればきっとできる。そう思ったから……全員を呼んできてくれと伝えた。
今回の相手は世界の安定維持装置……システム側に存在している上位存在だ。ただの人間である俺たちには手に負える相手じゃないかもしれないが、それでも世界の滅亡に待ったをかけるにはやるしかない。なにより……海神からお前がやれと言われたのに、ここで逃げ出すなんて嫌だからな。
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