第63話 思考は巡る

 神々について研究することを許さない存在がいる。

 どうしてこうまでも神々の存在がこの世界で薄いのか……その理由を知れただけで前進したと言えるだろう。しかし……そうなると今度は新たなる疑問が沢山生まれてくることになる。研究なんてのはそういうものだと言われればそうなのだが……どうにも黄金郷がどんどんと遠ざかっている気がする。


 あの処刑人が気になることを言っていた。神々について研究する者を処刑するのが役目であるあの男の主、つまり上位存在は神々の時代に逆行することを恐れている、という口ぶりだった。それはつまり、神々よりも弱い存在が今の世界を運営してるということ。そして……ということになる。

 神々について深く知ろうとすると神々の時代に逆行するということは、神々は別に死んだ訳でもこの世界から消え去った訳でもないと言うことになる。そうでなければ、神々の時代について調べられても特に気になることはないだろう。あれだけ執拗に邪魔をしてくるということは、調べられると神々が現代に顕現する可能性があるということだ。

 あくまでも仮説の域を出ないが……もしかしたら神々は何かしらの制限を受けて、下界に影響を及ぼすことができない状態になっているのかもしれない。それが封印なのか、それとも単純に肉体が存在しなかったりするのか、あるいは俺が想像もできない超常的なことが原因なのか。ともかく今の神々は世界に干渉することができず、その干渉できない原因は神々の研究の果てに見つけられ、破られる可能性があるということだ。


「神について知りたがるなんておかしな奴だな」

「そんなことを知っても特に何もないと思うがな」


 神の存在を知っているだけのシルヴィとメイは、俺が神々について調べていることについて変な奴だと言ってくる。それでも、彼女たちは人間と違って神々について調べることを制限されている気配がない。それは人間でなければ辿り着けないものだからなのか、それとも人間以外には影響を及ぼすことができない存在がやっているからなのか。謎は尽きないが、俺は1人でも神々について調べてみることにした。

 ここで問題になるのが……俺を襲いに来た処刑人と、その主である。人間が神々について調べることを禁じている存在がいることは理解できた。そして、そいつは人間を殺してでも研究を続けさせたくない……そうなると、俺の存在はとても邪魔だろう。なにせ、送り込んだ処刑人は返り討ちにあっているのだから、これからそいつはどんな手段を使っても俺を殺しに来る。

 こっちはどんな手段で襲い掛かってくるのかもよくわからないのに、ひたすらに命を狙われ続けることになるのだからたまったものではない。敵の実力が俺より劣る存在だとしても、俺が常に勝ち続けることができると思うほど、慢心しているつもりはない。意識外から暗殺されれば、どんな力を持っている人間だろうともあっさりと死んでしまうし、連戦で何百人、何千人と刺客を送り込まれたらそのうち力尽きて、やはり俺は死んでしまうだろう。

 世界そのものに認識阻害がかけられているのならば、他人に協力を依頼するのは無理だろう。なにより、ドラゴンであるメイですらも抵抗できない時間停止の力を、敵は持っている。あんな世界そのものに干渉するような力が、あの処刑人の力とは思っていない……必然的に、あの世界が停止するような力は「主」とやらの力と見て間違いないだろう。


「時間を停止させるような敵っているかな」

「……お前は何を言ってるんだ?」


 メイに正気を疑われると非常に腹が立つ。

 それはそれとして、時間停止なんて馬鹿みたいな魔法はメイですら正気を疑うようなものってことだよな。つまり、敵はドラゴンより強大で……神よりも弱い? いや、もうここまで来ると敵は神として仮定した方がいいだろう。神々の戦争で負けた、もしくは逃げて生き残った神として考えた方が納得しやすい。

 時間停止させるほどの力を持った存在ならば、それはそれで疑問ができる。何故、時間停止した世界で研究している人間の首を刎ねないのか。処刑人を使って人間を殺している理由は、主とやらも神だから下界に降りてこれないと考えれば納得できるが、時間が止まった世界の敵ならばなんの抵抗もされることなく殺すことができるはずなのにそれをやらないのは何故なのか。まぁ、なにかしらの制約があると考えるのが妥当なんだろうけど、だとしたら万能な力とは到底言い難いものだ。


「黄金郷を探すって話が、何故神の話になるか全く理解できない。お前は本当に人間離れした奴だな」

「失礼な……俺はこれでもしっかりと人間の価値観で生きている純粋な人間だぞ」


 純粋な魂は持っていないが。


「シルヴィ、神々の戦争によって大地は傷ついた、みたいなことを言ってたと思うんだけど……そんなに荒れていたのか?」

「ん? あぁ……私が大地に植えられた時は、確かに滅んでいないことが不思議なくらいに大地は荒れ果て、生物というものが存在しているのか疑いたくなるような惨状ではあったな」

「神々の戦争……世界がそこまで荒れる程だったのか」

「始まった理由も終わった原因もわかっていない戦争のことなど考えても無駄ではないか? それに、神々は既にこの世界には存在していない……それが全てだ」


 本当にそうだろうか?

 話を聞いている限り、この世界は逆に神々を前提に作られている気がする。神が世界を創ったのに、その世界を捨てて何処かに行くなんて普通では考えられない。たとえ世界を捨てる者が現れたとしても少数派、大多数の神はこの地に残ったはずだ。それが、痕跡すら殆ど残さずに消えているのだから、明らかに何かがあったということだけはわかる。

 何が起きたのか……戦争だけが本当に理由なのか。いや、俺と言うイレギュラーのことを考えると、そもそも本当に戦争をしていたのだろうか。もしかして、神々はと考えてしまう。この世界の外に、他にも世界があって……そこの神々と戦争をしていた、とか。根拠はないが、外に世界が存在する証明は、俺自身の魂がそうだ。異世界で生まれ、異世界で育った存在……そもそも神々が支配している世界で、外の世界から何かが紛れ込むことの方がおかしいのではないか。


 考えても答えが出る訳がないことが、頭の中をただひたすらにぐるぐると回っていた。

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