第59話 好きに生きるべき
最近、何故か開拓者を引退してから黄金郷に関する話が近づいてくる傾向がある気がする。ヨハンナが俺に語ったこともそうだし、メイやシルヴィのような存在が語ってくれた神々の時代……全てが俺の夢だった黄金郷の話に関連している。勿論、俺が意識しているからそう感じるだけって可能性はなくもないが……それにしても異様な気がする。
どうして、という思いはある。俺が開拓者としてバリバリ活動している頃にそんな話が聞けたら、俺は嬉々として自らの足で確認に言っていただろう。ヨハンナが言っていた、東の山にヒントが隠されているって話も、理論的に否定したつもりだが……気持ちが途切れる前だったらきっと半信半疑になりながらも自らで探しに行っていたはずだ。どうして今更……俺の周りに夢の残骸が転がっているのだろう。それは捨てたはずだ……なのに、いつまで経っても
俺が開拓者をやめたと言った時に、アルメリアは俺の夢まで背負ってくれると言っていた。
俺が夢を諦めたと言った時に、マリーは俺のことまで泣いてくれた。
俺が夢を捨てた時……俺は何を思ったんだっけな。
「……なんだか、最近ヘンリーさんの元気がないですね」
「そうね。何があったのかしら……彼、普段は気軽に相談してくるくせに、本当に思い悩んだ時は絶対に相談しに来ないから」
「元カノらしい話してマウント取るのやめてもらっていいですか?」
「は? 貴女が勝手に劣等感を味わってるだけでしょ? 事実を言われて悔しいならもう少しヘンリーに女として見られる努力をしたらどうかしら?」
「は?」
「あ?」
人が結構真剣に思い悩んでるって言うのに、なんであの2人は部屋の中で暴れ始めたんだろうか。そこまでの会話を聞いていなかったからなにがあったか知らないけど、どうにかしてくれと周囲に助けを求める視線を向けるが、ヨハンナはウルルを抱きしめて避難していた。リュカオンとリリエルさんはこの場にいないし……速攻で詰んだ?
「あまり暴れるな……やるなら私の本体を巻き込まない外でやれ」
「……さらっと自分だけ避難したな」
優雅にお茶を飲んでいたシルヴィに注意された2人は動きを止めた。
時間が経過するごとに普通の人間のように成長しているシルヴィは、当初の幼女のような姿から小学生高学年の女児ぐらいまで成長していた。相も変わらず、口から出てくる言葉は見た目とはかけ離れたなんとも大人みたいな言葉だが……しれっと自分が巻き込まれないところでやれって逃げたよな。
「元々は、貴方の元気がないから始まったのよ?」
「いや、原因が俺だとしても喧嘩を始めたのはお前ら……え、待って、なんで俺が落ち込んでるって話から殴り合いが始まるの?」
全く理解できないし、前後の関係が殆どないだろ。
「それで、なにを悩んでいたの?」
「……いや、開拓者を引退してから黄金郷の話をよく聞くようになったと思って。俺は……夢から逃げられないのかな」
「さぁ?」
自分か聞いておいて「さぁ?」の一言で済ませるマリーは冷たいと思います。
「一つだけ私から言えるのは……貴方は夢から逃げられる性格していないってことだと思うわ」
「それは、どういう?」
「そもそも、開拓者を引退して隠居するなら私たちの関わることなんてしなければいいし、黄金郷の話を聞いたってはいはいって流せばいいじゃない。けど、浪漫を求めて生きてきた貴方には、それから逃げるような考えはないでしょって言ってるのよ」
そう、かな?
俺は人生に疲れて隠居したのであって……だから俺はもう、黄金郷のことなんて追いかけていなくて。
「黄金郷か……見つけることができれば大量の金が入ってくるのだろう? そうしたらもっと土地を開拓して人の往来を増やそう。そうすることで、私も良く成長できる気がする」
「断言するけど、それはない」
意味不明なことを言っているシルヴィには釘を差しておく。人が増えるってことは、それだけ悪意を持った人間も増えるってことだから、また世界樹を狙って面倒なことをやらかす輩がどうしても出てくるだろうから、人を増やすことは反対だな。
「何を悩んでいるんだ? そんなに好きなら探せばいいじゃないか」
俺たちの会話を聞いていたウルルが、そう言った。
過去の俺のことなんてまるで知らないからこそ、ウルルの口から出たその言葉。それを聞いていたマリーとアルメリアはなんとも微妙な顔をしていたが、俺はその言葉に対して、確かにとしか思わなかった。好きなら探せばいい……真理だと思う。
「言われてみればそうだな」
「だろう?」
「え、本気ですかヘンリーさん」
「だってそうじゃないか? 別に開拓者を引退していようが好きなものは好きに探せばいいだけじゃないか。それで誰かに迷惑をかける訳でもないし、別に開拓者じゃないと黄金郷を探しちゃ駄目なんて法律がある訳でもない」
「……昔よりちょっと我儘になったわよね。ドラゴンの影響かしら」
メイの影響って訳じゃないけど……覚悟を決めると同時に他人の顔色を窺いすぎることはやめたと思う。自分が好きならそれでいいじゃないかって考え方は、俺にとって新鮮だったのだ。
ふぬ……隠居生活の片手間にちょっと情報収集するところから始めようかな。今までは逆に自分の足に頼り過ぎていたから……今一度、じっくりと自分の周囲に転がっている夢の残骸をかき集めて、そこからなにか読み取れるものはないものかと探してみるのもいいかもしれない。
「私は別に反対もしないけれど……あそこまで頑張って探しても見つからなかったものが急に見つかるとは思わない方がいいわよ」
「いいよ、生きている間に見つかれば」
精神的な余裕があの時とは違うんだ。早く見つけてやろうと焦る必要なんてない……誰かが先に見つけたとしても、ちょっと不完全燃焼に終わるだけのことだ。人生をかけてまで存在しているかどうかわからないものを探す。それも浪漫があって好きだが、今の俺はあくまでも隠居した人間だからな。
「アルメリア、ちょっと黄金郷に関するものを倉庫から引っ張り出してくるの手伝ってくれないか?」
「は、はい……えぇ?」
自分がどれだけ言っても復帰しないと言っていた俺が、急に態度を変えて開拓者みたいなことを始めたことに首を傾げているみたいだけど、俺は好きなように生きることを決めただけで、別に開拓者に戻るとは言ってないからな。ただ、やっぱりちょっとは気になるから探してみようかなってぐらいだ。
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