第54話 若頭
「今日の目標は?」
「……恐らく、タナトスの本拠地だと思われる場所だ」
俺の言葉を聞いてリュカオンとマリーが同時に立ち上がった。それをどうやって突き止めたのか、それを問いただすような視線を向けてくるが、俺にとっては心底どうでもいいことだ。どこから情報がやってきて、それが本当に信用できることなのかなんてことは俺達にとって全く関係のないことだ。重要なのは敵の本拠地かもしれない建物の場所がわかっていることであり、その情報ソースが何処かなんてものに興味はない。
「また、今から行くんですか?」
「今回は流石に夜中に行動する。マリー抜きで行動したくないしな」
「ようやく? ここ最近、ずっと留守番だったから退屈だったのよ。暴れさせてもらえるのよね?」
「あー……あんまり派手に暴れないでくれよ?」
証拠隠滅できるぐらいの規模にしておいて欲しい。建物内ならどれだけ凍結させたってビスト鉱石でまとめて吹き飛ばすことができるのでいいのだが、人間の死体まで凍り付いていたら多分バレる。
いっそのこと、マリーの知名度を活かしてタナトスを撃滅したみたいな感じにしてもいいかなと思ったこともあるのだが……流石に国の法律を無視して組織を潰しましたなんて擁護される訳がないのでやめておくことにした。
「今回の戦いで、もしかしたらタナトスとの戦いに決着がつくかもしれない。そのことを念頭に置いて戦ってくれ……じゃあ、夜に集合で」
マリーとリュカオンはまだちょっと納得いかないって顔をしていたが、俺が話す気なんてないことに気が付いたのかそのまま去っていった。俺は特に準備するものなんてないので、そのまま夜まで花の苗を植える作業でもしてるかな。
「……どうして私が情報源だと言わないんですか?」
家の倉庫の中にしまってあるシャベルを取りに行こうと立ち上がったところで、ヨハンナが声を上げた。遠い国で捕らえられてここまで連れてこられてしまったウルルを保護する目的で、一時的にこの家に泊めているヨハンナとウルル。今回の情報源は、そのヨハンナであった。というか、これまで襲撃してきた場所は全てヨハンナが事前に調べていた場所。ウルルが何処に捕らえられているのか、それを探す為に街中の建物を探ったと言っていたヨハンナに、その場所を教えてもらう代わりに家は使っていいと取引をしたのだ。
今まで俺たちが襲って来たタナトスの拠点はどれも重要なものばかりだった。他国で好き勝手に販売して巨大の富を得ていた違法ドラッグの密造所。現金以外の宝石などの高価なものを保管しておく金庫。どちらもヨハンナがタナトスを探っていく中で彼らが厳重に警戒している場所を集中的に狙っていったのだ。そして今回、ヨハンナが教えてくれたのは本拠地と思わしき場所だ。本当にそこが本拠地かどうかはわかっていないが、実際にタナトスの偉そうな感じの人が何度も出入りしている建物。中には特になにかがある訳ではないのに、そうやって沢山の幹部が出入りしていることからヨハンナが本拠地か、もしくはそれに近しい場所ではないかと推測した場所だ。
「別に言う必要ないだろ。ヨハンナが教えてくれたから今回の作戦はここにするぞ、なんて」
そもそも、問い質そうとしていたリュカオンとマリーは情報源がヨハンナであることに気が付き始めていると思うから、言わなくたってわかるだろう。アルメリアも、俺の言うことに従っていればいいぐらいに考えているだけで、しっかりと頭を働かせればヨハンナに行き当たるはずだ。
「ま、情報原がわからない敵の本拠地の情報なんて滅茶苦茶怪しいけど、なんか裏方の味方がいるみたいでかっこいいじゃん?」
「……聞いた私が馬鹿でした」
なんだよ……かっこいいだろ?
マグニカの街が寝静まった時間に俺とマリーは2人で建物の外に立っていた。
「……大きいわね」
「まぁ……書類上は貴族の別荘ってことになってるからな」
横に広い建物を前にして、俺とマリーは少し呆れていた。こんな金が何処から出てくるのか……奴隷や違法薬物の売買で儲けた分なんだろうけど、流石にここまで露骨にデカイ建物を見せつけられるとムカついてくるな。
マリー以外は他の入口や窓の前に待機している。横に長い建物を制圧している途中に敵に逃げられた面倒だと思っての処置だが、俺たちの人数が少ないのでそれなりに逃げられるかもしれない。しかし……ここが本当に本拠地だとしたら相手は逃げないだろうな。
「よし、じゃあ俺が扉を蹴破ったら魔法で」
「わかったわ」
「じゃあいくぞー」
「やめろ」
大きな屋敷の扉を蹴破ろうとしたら、それを止めるような声と共に扉がゆっくりと開かれた。行き場を失った足がゆっくりと地面に戻っていくと同時に、扉の奥から現れた男が忌々しそうな顔でこちらを見つめていた。
「お前らか。最近、俺たちの組織をつけ狙っている連中は……随分とやってくれたじゃねぇか」
「そりゃあ……よかったな」
「おまけにこんな少人数とはな。生き残りがやけに少なかったから、もっと大規模な攻撃だと思っていたが、こんな若造がたった数人でな」
なんかちょっと納得いかないですみたいな顔でこちらを見つめながら、男は煙草に火を点けてから大きく息を吐いた。
「お前ら、俺たちの側につけ」
「断る」
「殺していい?」
ちなみに、こちらは元々話をするつもりなんてないので最初から答えは決まっている。マリーが魔法を発動させようとした直後に、屋敷の右と左から爆発音が聞こえてきた。時間になったからリュカオンとアルメリアが暴れ始めたらしい。
苦々しい顔のままこちらを睨みつける男は、懐から小さな筒を取り出した。
「俺たちの組織を滅茶苦茶にしやがって……覚悟はできてんだろうな」
「俺は見逃してやるぞ? 本国にいるボスに、マグニカでの商売は無理でしたって泣いて許しを請いに行くならな」
男の眉がピクリと反応した。これだけの規模の犯罪組織だ……マグニカにわざわざ組織のボスが来ている訳がない。ヤクザで言う所の若頭みたいな奴が他国に商売のルートを広げに来たんだろうが……相手が悪かったとしか言いようがない。勿論、この場合の相手ってのは俺たちじゃなくて評議会のことだ。
俺たちは逆に情がある方だ。これだけの犯罪組織を相手にしながら問答無用で全員を殺さずにそれなりに生かして逃がした奴だっているし、捕まえて治安維持組織の建物前に放置してきた数もそれなりだ。評議会が相手だったら、とっくに全滅しているし、捕らえられた連中だって晒し首にでもされているだろうな。
「お前は今、ここで殺す」
「なら、俺もここでアンタを殺す……そういう話だったよな?」
あの男が手に持っている筒がなんなのかは気になるが、俺とマリーが2対1で勝てない相手が闇組織如きにいるとも思っていないので大丈夫だろう。
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