第51話 完遂
「まずは足を砕いて、這いずって逃げ惑う貴方の腕を潰し、命乞いをしてきたところで頭を潰して殺す。絶対に逃がさない……私を侮辱したことを後悔しながら死ね。地獄で永遠に私に歯向かったことを後悔しながら苦しめ!」
「デブって言われただけでどんな恨み買ってんだ、俺は……流石に悪い気になってきたぞ」
そこまで気にしているのならば、俺が悪い気がしてきた。ちょっと怒るとか、デブで何が悪いとか開き直ってくれたらそれだけで終わるんだけど……ここまでキレていると俺がすごい悪い奴みたいだから嫌だな。
ちょっと申し訳なさそうな表情でデブを見つめていたら、青筋を額に浮かべたまま鉄球を放り投げてきた。鎖を使って遠心力をつけずに放り投げられた鉄球ですら、石の壁を破壊してしまう威力。それだけの怪力を奴が持っているってことなんだろうけど……流石に速度が遅いのでそんなものに当たることはない。
「さっき私を簡単に殺せる方法を思いついたと言っていましたね! やってみなさい!」
「じゃあ、遠慮なく」
今度は鎖を使って自分の頭の上でぶん回した鉄球をそのまま放り投げてくる。遠心力も乗ったその一撃をひょいっと避けた。それを見てからデブは思い切り鎖を引っ張って鉄球を手元に戻そうとしたので、その鎖を生み出した長剣で切断する。
「は、なにぃっ!?」
「ほらよ」
鎖を切断されるなんて思ってもいなかったデブの反応が一瞬遅れたのを確認してから、俺は背後から迫っていた鉄球を蹴って加速させる。動揺して反応が遅れたデブは、そのまま鉄球が直撃して血を吐き出しながら転がった。
「ば、馬鹿な……私の鉄球の、鎖は……魔力を込めて、硬度が変えられる特殊な、鎖……何故、そんな簡単に切断、できる……」
「あぁ、この剣は魔力を斬れるようにしておいた」
鎖が特別性であることは見ていればわかった。だから切断するためにそれ用の能力を付け加えて
俺の言葉を聞いて納得できないと言わんばかりの表情で立ち上がろうとしたが、そのまま意識を失った。まぁ……あれだけの鉄球を直撃してまだ立ち上がれるぐらいの耐久力があったら普通に怖いので俺としては助かっている。
「ヘンリーさん、随分と暴れましたね」
「……言っておくけどここら辺の建物を破壊したのは俺じゃないからな」
ここら辺をボコボコに破壊しまくっていたのは俺じゃなくて、血を吐いて倒れているこの男だから、俺は別にそこまで暴れていない。周囲に目をやると、いつのまにかアルメリアが敵をボコボコにしていたらしく、至る所に人が転がっている。死んでいる人間もいれば、生きている奴もいるようだが……これは別に意識してやっている訳じゃないだろうな。
これからどうしようかと、ヨハンナに声をかけようとした瞬間に競売場の入口が爆発して、そこから無傷のリュカオンがゆっくりと歩いてきた。
「……囮役なのに随分と傷が少ないみたいだけど?」
「この程度の奴を相手に傷をつけることの方が難しいだろ。そもそも、表の方はそこまで警備もきつくないって言ってたの、リンネだろう?」
「そうだったな……でも、流石にもうちょっと苦戦してくると思ってたんだよ?」
相手がどれだけ弱くても、数が多ければそれだけ苦労するものだと思っていたんだが……リュカオンにとってはそうでもないらしい。これだと、地上で待機しているマリーとリリエルさんはもっと暇だろうな。
「好き勝手にやりやがって……タナトスにこんな喧嘩を売って、どうなるのかわかってんだろうな?」
「……元気だな」
床に転がされていた癖に元気にこちらに向かって喋りかけてくる男がいた。ちょっとイラっとしたので普通に叩きのめして気絶させてやろうかと思ったが、男はニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「お前らの家族、お前らの日常、お前らの全てを……タナトスが破壊する。お前たちは冥府の使者から逃れることはできない! あははははははっ! 精々後悔しながら死んで──」
「うるさいですね」
「ぷげっ!?」
でかい声で笑いながらこちらを馬鹿にしたこと言っていた男は、最後まで言い終わることなくアルメリアによって黙らされた。頭を蹴られてことで気絶しただけのようだが……これがもう少しアルメリアの地雷を踏むようなことを言っていたら、きっと
「……ヨハンナ、大切な人とやらは助け出せたのか?」
「はい」
ちょっと微妙な雰囲気になったことに気が付いたので、俺がそのままヨハンナに目的が達成されたのか聞いたみたら、笑顔で返答があった。それならよかったと納得しようとしたのに、いきなり転移魔法かなにかで連れてこられたヨハンナの大切な人と思わしき人が現れた。
「紹介します。彼女が私の大切な人……愛し子のウルルちゃんです」
「ちゃってつけるな! そもそもこの人たちは誰!?」
なんの説明もせずに連れてくるからこうなる……面倒なことになる前に事情をしっかりと説明しておこう。
「ちょ、ちょっと待って! ここって……奴隷市場の中? え?」
「……なんだ、まぁ、敵ではないってことで」
「そ、そうなの? 確かにすごいボロボロで……どうなってるの? 貴方たちがこの奴隷市場を破壊したってことなの? どうして?」
「……気に入らなかったから?」
マジでこれ以外の表現方法を知らない。色々と原因になることはあったけど、最終的にここを襲う気になったのは気に入らなかったからってのが一番の理由だ。
ヨハンナが自慢していた青い瞳をぱちくりで瞬きしながら、俺が言った言葉を理解できないって顔をしていた。まぁ、理解してもらうつもりもないからいいんだけど、流石にそんな意味不明な生物を見るような目で見られると傷つく。
「これからどうするんですか?」
「ん? そりゃあ……タナトスをぶっ潰すんだよ」
最初は奴隷市場だけで終わらせようと思っていたけど、こんなことをした俺たちを絶対に許さない。地の果てまで追う、とまでは言われていないけどそれっぽいことを言われたからな……それならこっちから出向いてしっかりと最後まで叩き潰してやろうじゃないか。
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