第49話 作戦会議

 ヨハンナが用意してくれた見取り図を見ながら、俺、マリー、アルメリア、リュカオンはそれを囲みながら話し合いをしていた。


「マリーは探索者としてあまりにも有名すぎるから表で最後の保険として、待機していてくれ」

「こればかりは仕方ないですね」


 後詰として外から攻撃してもらうことも考えたが、マリーの得意魔法である霜風フロストは敵を逃がさないという考えで見ればかなり効果的な魔法ではある。しかし、こちらも凍結魔法としてあまりにも有名すぎるので、多分使用した時点ですぐに誰がやったかバレる。色々とマリーという強力な手札をどこで使用するのが適切なのかと考えてみたが、どれだけ考えてもデメリットの方が強くてどうにも切りづらい。逆に考えれば、リュカオンは亜人種であり、奴隷市場を攻撃する理由ばかり思いつくような人間だ。そう考えてみれば、まずはリュカオンを単独で突っ込ませて馬鹿な獣人族が仲間を助けに来たと思い込ませるのがいいだろう。


「リュカオンが最初に単独で突っ込んで欲しい」

「陽動か?」

「いや、獣人族が突っ込んでくれば仲間を助けに来た馬鹿な奴が単独で攻撃してきたと思い込む。だからその油断を俺とアルメリアで狙う」

「なるほどな……わかった。では俺は真正面から突っ込んで警備を殴り倒してやればいいな」


 見取り図を指で差しながらリュカオンがそう呟く。俺たちの最終的な目的は奴隷市場全ての破壊だが、第一目標はヨハンナの友人を助け出すことだ。リュカオンに陽動をしてもらって、俺とアルメリアでVIP専用の競売場を襲う。

 大まかな作戦を決めていると、家の扉を開いてリリエルさんが入ってきた。


「遅れた」

「いえいえ……リリエルさんはどうしようか」

「私と一緒に居てもらえると嬉しいわね」


 ふむ……確かに、マリーと一緒にいれば色々なことに使えるようになる。特に、リリエルさんは基本的に派手な魔法を使わないのでマリーのように身バレすることもないし、弓矢を使えば隠れながら敵を撃つこともできる。下手に俺たちと一緒に突っ込むよりも、外で待機してもらった方がいいだろう。それに、獣人族ぐらいだったら誰もがいるだろうと考えるが、森の守護者になると実在するかどうかを怪しむような人間の方が多い。つまり、リュカオンほどかく乱の効果が期待できないということだ。


「……私は中で暴れたいんだが?」

「諦めてください」


 俺たちはストレス発散しにいく訳じゃないんだから。あくまでも効率的に、なおかつ目標を完璧に達成するために動く必要がある。だから本来なら暴れたい人間を待機させて、待機したい人間を中で暴れさせる必要だって時にはある。あくまでも心情的な部分を取り除いて判断した作戦ならば、そうするべきだって話。勿論、そんなことされたらやる気でないみたいな奴が相手なら、そこら辺を考慮してやる必要もあるが、ここにいるのはみんな無駄に真面目な性格をしている連中だけなんだから大丈夫だ。


「で、ヨハンナには俺たちと一緒に来てもらうからな」

「……そう、なんですか?」


 なんでそこで驚いたような顔をしているのか知らないけど、そもそもその友人の顔は俺たちが知らないんだから……助け出したいなら自分で来るんだな。戦えなんて言うつもりはないが、俺たちが奴隷市場を荒らしている間に好きなだけ奴隷を解放すればいい。俺たちの目的は奴隷の解放ではなく、奴隷商人の壊滅だからな。


「作戦は大体決まったな……よし、じゃあ決行日は今日の夜で」

「正気ですか!? いきなり今日の夜に行きましょうって言って、じゃあそうしますかなんてなる訳ないじゃないですか!?」

「わかったわ」

「はい。師匠が言うならいいですよ」

「問題ない」

「ま、妥当だな……行動するなら早い方がいい」


 マリー、アルメリア、リリエルさん、リュカオンが普通に快諾したことにヨハンナは唖然としていた。出会った時の怪しい薄ら笑いは何処へ消えたのか、随分と表情がころころと変わるようになったな。勿論、それが悪いこととは思っていないけど。

 それにしても、ヨハンナは俺たちのことを舐めているな。準備するとかしないとか、そんなことが俺たちにとって障害になりえる訳がない。犯罪組織をは確かに規模としては強大かもしれないが……それでも俺たちの敵になるような強者がいるとは最初から思っていない。これは消化試合、というか蹂躙劇だ。最初から結末の決まっている戦いに対して気合を入れて準備をする必要なんてない。いつも通りに戦って、いつも通りに蹂躙すればそれで終わりだ。無論、だからと言って油断している訳ではない。あくまでも自然体でやっていれば負ける相手ではないってだけの話だ。



 夜に集合ということになって解散したので、俺は外に出て世界樹に近寄った。最初は手で土を掘って運び出せるぐらいの大きさだったのに、いつの間にか人間が何人も手を繋いでぐるっと回り込まなけらばならないぐらいの大きさになってしまった。幹が滅茶苦茶太いし、背丈だって見上げるような大きさで……こんな大きさだから人間たちにもそりゃあ注目されるわな。

 何気なく世界樹を眺めていると、赤いドラゴンが上から降ってきた。どうやら空を飛び回っていたらしい。


「……それにしては人間は面白いな。同族と格付けするだけならまだしも、それを労働力として扱おうとは」

「そんなに面白いか?」

「あぁ……弱い者にもそれなりの役目があるということだからな。弱肉強食、自然界において弱きものなど食われる以外の役目などない」


 いや、ドラゴンは自然界の法則には従ってないだろ。弱肉強食とか言ってるけど、そもそも基本的には敵はいないし言葉を喋ってコミュニケーションを取ることができるんだから……あんまり人間のことは言えないだろう。


「……随分と変わったな。もう同族を殺すことに抵抗感はなくなったか?」

「無くなる訳ないだろ」


 人を殺すことはとんでもないストレスだ。まだ自らの手で人を殺したことはないけれど……きっとこの戦いで俺は人を殺す。その時に俺がどうなるのかなんてわかったものじゃないが……良いことなのか悪いことなのか、俺の周りには人が沢山いる。きっと立ち直ることはできるだろう。楽観的なことを言っているのはわかっているが……これは俺が人間として生きていくために必要な考え方だから、これを捨てるつもりはない。

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