第24話 手合わせ

「ふぅ……しっ!」


 息を整えてから創造クリエイトで作り出した剣を振るう。大木を根元から両断する為に剣を振るっているのだが、どうせなら色々と試しながらやってみようと思って創造クリエイトで色々な長さや太さの剣を作り出して試している最中だ。

 今は普通の日本刀のような形で、抜刀術で大木を両断した。やっぱりそれなりに軽いから俺としては刀が一番使いやすい気がするけど……両手持ちの大剣とかもありなのかな。ドラゴンのメイに傷をつけられなかったことをちょっと気にしてるんだけど……あれは俺の腕の問題なのか、それとも創造クリエイトで作り出した武器の性能による問題なのか。これからドラゴンみたいな強大な敵と戦う予定なんてないけど、流石にちょっと気になると言うか。


「……見事な腕前だな」

「ん……リュカオン?」


 背後からいきなり拍手と一緒に称賛の声が聞こえてきたので振り返ったら、欠損した部位以外の傷が完全に治ったリュカオンが立っていた。左目と足の指は治らなかったが……それ以外は完全に元通りになったらしい。シルヴィは欠損した部位まで治せないことを謝っていたが、命があるだけマシだとリュカオンは笑っていた。


「街まで道を作るんだろ?」

「まぁね。でも、まだ大木を下から伐採しているだけだから、切り株もなんとかしなきゃいけないんだけどな」

「それは後からやればいいだろう? 樹木なんてそう簡単に成長するものじゃない」

「それがそうでもないんだよ」


 セルジュ大森林の樹木が特別で成長が早いのかと思っていたんだが、どうやら周囲から大量の栄養と魔力を吸収する世界樹から降り注ぐ特殊な魔力の影響で、周辺の樹木は異常な速度で急成長をしてしまうらしい。世界樹が栄養を吸い取りながらも周囲が森のままな理由は、そういうところにあるらしい。


「世界樹の影響で、この距離でも……多分3日もすれば俺たちの身長を追い越すぐらいの樹に成長してると思う」

「凄まじいな……世界樹とはそこまで影響を与える物なのか」


 俺もそれを知った時は驚いたのだが……世界樹の影響を受けるのは樹木だけではない。グレイの成長速度が明らかに早いのも、そして死にかけていたリュカオンが傷を癒してこうして生きているのも、恐らくは世界樹の影響だ。

 獣人族の生命力は確かに人間より遥かに高いが、それでもあの失血量は死んで当然だと思う。それでもリュカオンは、俺たちの所まで生きてやってくることができ、しかもしばらくは1人で歩くことができたのは……世界樹から降り注ぐ生命力のようなものを含んだ特殊な魔力のお陰だろう。


「だからしっかりと根元まで掘り返さないといけないんだよ。でも、俺は魔法の細かい加減が苦手でちょっと苦労してる」

「それならユウナに頼むといいぞ。あいつは俺なんかより遥かに魔法の扱いが上手だ」

「わかった」


 そうなのか……それは助かるな。森と共に生活する森の守護者たちに掘り返して開拓するのを手伝ってくれなんて頼みにくいから困っていたんだけど、獣人族のユウナならなんの憂いもなく頼むことができる。

 今からユウナに頼みに行くかなと思った所で、俺の足が止まった。何故ならば、リュカオンが切り株に座りながら背中の武器を手に取ったからだ。それだけで俺はリュカオンが何を言おうとしているのか察した。


「……中々、察しが良いな」

「そういう極限環境で活動するのが俺の仕事だったからな」


 普通の人間より遥かに警戒本能は高いと思っている。相手の細かい動きから何を考えているのか……それを認識するのは得意だ。

 リュカオンが骨の大刀を地面に突き刺すのと同時に、俺は創造クリエイトで大剣を作り出す。


「便利な魔法だな、それは。少し羨ましい気もするが……それは後でいいだろう」

「あぁ」


 リュカオンが求めているのものは俺との手合わせ。恐らく、俺の実力をしっかりと確かめておきたいのだと思う。なにせ、自分が殺されかけたドラゴンをあんな少女にして連れて帰ってきた相手なのだから、気になるのは仕方ないだろう。俺が逆の立場でも、気になって眠れないと思う。


「怪我明けだからって加減しないからな」

「望むところだ。人間の強者との戦いは初めてだが……楽しんでやろう」


 ちょっと差別的な言い方かもしれないが、獣人族はその名の通り人間よりも獣に近い種族だ。彼らの本質は獣としての狩猟本能であり、そして力こそが絶対の価値観である。力の強い者が全てを従え、力の弱い者は下の立場に甘んじる。流石に虐げられたりはしないぐらいの倫理観は存在しているが……強い者は全てを手に入れ、弱い者は全てを失う。それが獣人族の価値観らしい。

 リュカオンは今、俺のことを見定めようとしている。新天地の偵察に任されるということは、リュカオンの強さは彼らの群れの中でもトップクラス。自分の強さをしっかりと把握しているからこそ、それを基準に俺が自分たちの群れでいう所のどこら辺の位置に存在しているのか、知りたいのだろう。


「グルァッ!」


 獣のような咆哮と共にリュカオンが走り出した。獣人族というだけあってその身体能力は人間とは比較にならないレベルだが、見切れないほどの速度ではない。しかし、あの大刀のリーチを考えるといつもより気持ち外側に避けた方がいいだろう。

 空気を切り裂きながら迫る大刀を半歩下がることで避け、地面を砕く威力にちょっと驚く。恐らくは、まだ魔力を使用すらしていないのにこの破壊力とは……人間が獣人族と力比べする無謀さを改めて実感する。


「ガァッ!」

「うおっ!?」


 地面を砕くような重さと威力を持つ大刀を、片手で軽々と扱っているリュカオンに驚きながらも細かい動作で避けたが、口を大きく開けて放たれた咆哮に全身を押されるような感覚で身体が浮いた。咆哮に魔力を混ぜることで、音圧による攻撃を仕掛けてきたってことなんだろう。鼓膜にキーンと響く音が鳴ると同時に、平衡感覚が多少崩れてしまうような音圧……リュカオンが全力だったら鼓膜が破裂して身体も全身が殴られるような痛みだったんだろう。

 身体が浮いて避けらなくなった俺に対して容赦なく骨の大刀が振るわれる。


「流石に強いな」

「なっ!?」


 俺の下を、大刀が通り過ぎていく。空中で飛び上がる俺を見て思考が停止した隙を見逃さず、俺は落下と共にリュカオンの胸に蹴りを入れる。

 数メートルぐらい吹き飛んでいったリュカオンを見送り、俺は普通に地面に着地する。開拓者時代に鍛えた身体はまだ鈍っていないらしい。


「くっ!?」

「さて、続きをやろうか」


 リュカオンの攻撃方法は大体理解できたので、ここからは俺も反撃しようかな。

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