第22話 獣人族のお悩み相談
「我々獣人族は『命の泉』という場所に住んでいた。文字通り生命豊かな水が溢れ出る摩訶不思議な場所でな……その泉から湧き出る水のお陰で獣人族は反映していたのだ」
「その話をするってことは、その命の泉が?」
「あぁ……数年前から水量が減っているとは言われていたのだが、数ヶ月前に突如枯れた」
うーん……結構深刻な問題な気がするな。
「命の泉の水を使って生活していた我々獣人族にとって致命的なことだった。泉の源すらわからないのに、その泉から湧き出る水に依存していた訳だ……正直、馬鹿だったと思うが、水が減ったことがそもそもの異常なんだ」
「湧水だとしたら山の方に異常があったか、それとも魔力的な何かがあったのか」
水の流れに関して専門的な知識を持っている訳じゃないから、正直そんなことを相談されても解決はできないんだが……それはそれとして、悩みを聞いてやることはできるからな。人間、悩み事が解決しなくても人に聞いてもらえるだけでそれなりに楽になるもんだ。
「で、新しい安住の地を求めて世界樹までやってきたと」
「あぁ……この辺に流れている水は世界樹の恩恵なのか、命が豊かだ。命の泉と遜色ない程の生命力豊かなこの水なら、獣人族も暮らしていけるのではないかと思ってな」
なるほどなるほど。つまり、リュカオンは獣人族が新たに暮らせる場所を探して色々と歩き回っていたら世界樹を見つけ、この近くなら人間も少ないし水も綺麗だから住もうかなって思っていたら、急にあそこでグレイに追いかけられて涙目になっているメイに襲われて重傷を負った。そして、その傷を治す為にユウナがリュカオンをここまで運んだと。
「お前がドラゴン討伐に行っている間に世界樹の精霊に聞いたが……ここの土地はお前が持っているらしいな」
「一応、そういうことになってるな」
不動産としてきっちり区画を分けて買っている訳じゃないけど、ここら辺の土地は俺のものってことになっている。実際、
この土地を俺が持っていると聞いたリュカオンは、傷を負った肩を抑えながら頭を下げた。
「頼む。世界樹の根元でなくてもいい……どうかこの近くに、我々一族を住まわせてくれないだろうか。勿論、お前の生活を脅かすようなことはしないし、水を独占したりもしない。世界樹だって傷つけないし人間と敵対しないように生活もする。それに──」
「別にいいって、そこまで気にしなくても」
「は?」
俺は別に世界樹を独占してなにかを企んでいる訳でもないし、なんならこの土地は俺のものだから全員出ていけ、なんて考えている訳でもない。ただ自然の中でゆったりと過ごせる場所を手に入れて、そこで農家みたいなことでもしながら余生を過ごしてやるーぐらいにしか考えてないんだから、一族の存亡がみたいな話をされたってちょっと気後れするだけだ。
「森の守護者たちだって普通に近くに住んでるし、対立して問題を起こさなきゃいいよ。俺はこの土地を独占して金を取ろうって訳じゃないんだからさ」
「いい、のか?」
「勿論、行儀のいい隣人は大歓迎だ」
壁ドンしてくるような隣人以外は歓迎してるぞ。まぁ、ここはマンションじゃないから壁ドンなんて概念はないんだけども。
俺の答えを聞いて、ユウナはその場にへたり込み、リュカオンは乾いた笑いを口から絞り出していた。
「世界樹の根元に住んでいるのに、とんだ無欲な人間だな」
「無欲ではないぞ。なんか珍しい特産品みたいなのがあったら新鮮な世界樹の葉っぱ数十枚と交換してやるからな」
「おい、私を勝手に商品扱いするな」
「……楽しみにしておくよ」
うん、どうやらお悩みは解決したらしい。
「しかし、獣人族が引っ越してくるとなると……ちょっとここら辺の森を整備しないといけないな。リリエルさーん」
「なんだ?」
「森の守護者ってこれから増えそうですか?」
「……いや、各地に散らばった者たちはあまり動く気配がないそうだ。勿論、まだ世界樹を感知していない可能性はあるが……増えても100人とかにはなったりしないと思う」
「じゃあ、今より少し大きめなだけでいいか」
「なんの話だ?」
ちょっと区画整理しようと思ってるだけ。
世界樹を中心にマグニカまで真っ直ぐ道があることを想定し、そこからちょっとずつ区画を作って獣人族や森の守護者たちが過ごすのに最適な場所を幾つか見繕うか。
まずは、ここら辺の大まかな地図が必要だな。マッピングはそれなりに好きだから任せろ。
「やれやれ……随分なモノ好きに植えられてしまったようだな」
「そもそもお前が俺の魔力じゃないと嫌だって言うからこの場所に住んでるんだからな」
「ほぉ? じゃあ私がお前じゃなくていいと言ったら出ていくのか?」
「いや?」
もうこの土地は俺のものだから世界樹にそんなこと言われても出て行かないけど?
「いっそのこと小さな集落とか作った方がいいんじゃないですか? その方が楽しいですし!」
ユウナが急に明るい声で提案してきたことに、俺とリュカオン、シルヴィとリリエルさんはそれぞれ見つめ合った。
「やめた方がいいと思うぞ。我々獣人族を毛嫌いする奴らだっているかもしれん」
「俺は賛成かな。折角なら他種族で仲良くしたいじゃん?」
「……どちらとも言えないな。種族間で争いが起きた時に世界樹に危険が及びかねんが、それは集落として過ごしていてもいなくても関係ないしな」
「私には関係ないな」
賛成1票、反対1票、中立2票……いや、中立は駄目だろ。
「リリエルさんはどちらかと言えばどっちなんですか?」
「なんだそのどちらかと言えばって……そんな消極的な賛成と反対はしたくないな」
くぅ……日本人的な感性がリリエルさんにはなかったか。
俺は楽しいと思うけどなぁ……でも、リュカオンが懸念している部分も理解できなくはないんだよな。
まぁ、そういう話は後から考えればいいか。今はとにかく、獣人族を受け入れられる場所を作るってこと、それから……呪いで人間になってしまったドラゴンのメイを何とかしてやる方法を考えてやらないとな。
はぁ……なんか、開拓に出てるアルメリアが帰ってきたら色々と言われそうなぐらい沢山のことを起きた気がするな。今のうちに言い訳をしっかりと考えておかないと駄目だな。
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