第21話 ドラゴン少女
「どうしてくれるんだっ!? わ、私の身体が……人間みたいな貧弱な身体になってしまったではないか!?」
「うーん……人間の事情なんて知らないって言ってたし、ここは自業自得ってことで」
「それで済む問題か!?」
いや、俺的にはそれで済む問題なんだよなぁ……実際、人間の生活範囲に入ってきた動物をちょっと駆除しただけでしょ? 物理的に殺すのは不可能だったから薬物を使った、みたいなもんだし……まぁ、確かにちょっと残酷だったことは認めるけどさ。
俺にひたすらに抗議するように身体を叩き続けてくるドラゴンだが、少女の身体になってまだ魔力が上手くコントロールできていないのか、全く威力もなくポカポカと殴られているだけで全く痛くもない。今の状態のドラゴンを、脅威とは呼べないだろう。
「……なぁ、呪いって簡単に使ってはいけないんだな」
「あれ? 知らなかったんですか? 呪いって使っちゃいけないから呪いって名前がついてるんですよ。そうでなかったら魔法って名前になってますから」
「わかってるなら使わせるなっ!」
でも対処するにはこうするしかなかったじゃん。まぁ、俺も絶対に死ぬ系の呪いだと思って渡したのに、まさかこんな無害化する呪いだったとは思わなかったけど。しかし、こうしてみるとドラゴンを無力にしてしまうほど強力で、解呪方法もわからないとなると……凶悪で使ってはいけない呪いって感じだな。
「うっー! 私の強靭な肉体を返せー! 私の誇り高き竜の身体を返せー!」
「まぁ、それは追々調べてそのうちなんとか解呪するからさ……取り敢えず今は、人間を舐めてると痛い目に合うって教訓にしておいてくれよ」
「教訓の代償が重すぎるわ!」
それは、そうかもしれない。
ぎゃんぎゃん泣き喚くドラゴン少女を鬱陶しいと思いながらも、呪いを使った者としてしっかりと解呪方法を探してやらないといけないので、少女を抱えて世界樹まで帰ってきた。
「……その女は、ドラゴンか?」
「むっ!? その女、精霊だな!?」
シルヴィのドラゴン少女は顔を合わせるなり、互いの正体を把握して互いに近づいていった。シルヴィはドラゴン少女の頭にある角に触れ、ドラゴン少女はシルヴィの身体に抱き着いた。
「ふむ……本当にドラゴンだな。何故こんなか弱い身体になっているのか不思議だが……ヘンリーがなにかしたのか?」
「あいつが私に呪いをかけたんだ! 真正面からやっても勝てないからって、呪いを使って私をこんな姿にしたんだよぉ! 頼む世界樹! 私の呪いを治してくれ!」
「無理」
泣いて縋っているドラゴン少女のお願いを、シルヴィは一言で拒否した。それが余程衝撃だったのか、真っ白になってその場に崩れ落ちてしまった。
「確かに昔の私ならお前の呪いを解呪することもできたかもしれんが、今の私はまだこの程度の大きさだからな。解呪なんて芸当ができるほど成長していない」
「ど、どうして……世界樹を燃やしたのも人間なんだから、全部人間が悪いんじゃないかー!?」
「すまん」
取り敢えず、人間を代表して謝っておく。ドラゴン少女が大人しくついてきたのは世界樹なら自分にかかった呪いを解呪してくれるかもしれないと思ったからだったんだな。まぁ、先に聞かされていたら無理だと思うよって言ってやれたんだけど……人の話を聞くような奴には見えないしな。
「解呪できるまではここでゆっくりしていってくれよ」
「解呪したら速攻でお前を殺す! そして人類なんて滅ぼしてやるからな!」
「それは……永遠に解呪できないかもしれないな」
「嘘! 今のは嘘だ!」
「これが誇り高きドラゴンの姿か?」
「うるさいぞ耳長!」
「耳長!? 私は森の守護者リリエルだ!」
仲良くやれそうでいいじゃん。
「まず、名前を聞かないとな……ドラゴン少女、名前は?」
「ドラゴン少女ってなんだ!? 私は誇り高き
「じゃあドラゴン少女で」
「わー! わかった、名乗るから!」
なんだよ……別にドラゴン少女でもいいだろ。なんとなくかわいいし、映画のタイトルとかにありそうじゃん。
「私の名はメイラレンティール・ガラナイト──」
「メイな」
「略すな! ドラゴンの名前は今までの戦いに勝ってきた誉れ高き勲章なんだぞ!?」
「知らん。人間からすると名前が長すぎて付き合いきれないからメイでいいよ」
最初に聞こえたからメイだけにしたけど……赤髪で少女って年齢的な見た目をしている今の彼女にはちょうどいい名前じゃないか?
「あの……本当にこの少女が、私たちを襲ったドラゴンなんですか?」
「ん? あぁ……ちょっと色々とあってこんなことになっちゃったんだよ」
「信じられん。あれほど強大な存在だったドラゴンが、こんな小さな少女になるなんて」
獣人族の兄妹が家の中から出てきて、騒いでいるメイのことを見て驚いていた。俺たちだって想定外のことなんだけど……まぁ、結果的に騒動は収まったからいいかなって。
「ぐわぁー!? なんだこの犬はっ!? 寄ってくるなぁー!?」
「……グレイにめっちゃ威嚇されてる」
ぎゃんぎゃん喚いていたのが気に入らなかったのか、それとも彼女がドラゴンであることをしっかりと理解しているのか知らないが、グレイが威嚇しながらメイを追いかけ始めた。今のメイにはグレイ対抗できるだけの力もないようなので、ひたすらに逃げるしかないらしい。
「なにはともあれ、助かった……俺の名前はリュカオン。こっちは妹のユウナだ」
「ありがとうございます、ヘンリーさん」
「気にするな。怪我人を助けたのは俺がそうしたかったからだし、ドラゴンを結果的に無力化したのだって、俺たちが住んでるここが危なかったからだ。誰かの為になにかした、なんて考えてもない」
基本的に俺は自分の為に行動している。他人を助けることは大切だと思うが、それは巡り巡って自分に帰ってきてくれたら嬉しいな、ぐらいの気持ちでしか人助けなんてしないからな。俺は自分のことをそれなりに薄情な人間だと思っているが……まぁ、行動だけ見ればいい人かもしれない。
「そう言えば……獣人族が世界樹の近くで生活したいとか言ってるんだったな。なにか知ってるか、リュカオン」
「……その話を、したいと思っていた」
さっきまでの笑みが消えたリュカオンは、真面目そうな顔で俺の横に座った。どうやら、獣人族にはそれなりに面倒な事件が起きているみたいだな……俺に解決できるかわからないけど、世界樹の近くに住んでいる人間として悩み相談ぐらいはしてやろう。
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