第16話 世界樹の恩恵
「ふむ……世界樹が予言か……聞いたことはないな」
「そうなんですか?」
まるで自分には予知能力があるみたいな感じで普通に物騒なことを言ってきたので、世界樹にはもしかして予言を残すことができる力でもあるのかと思って世界樹に詳しいだろう森の守護者であるリリエルさんに聞いてみたのだが……どうもそんなことはないらしい。と言うことは、割と適当なことを言われているってことでは?
「正確な予言ではないが、今まで世界を何万年と見てきた経験からの予測だ。お前のような男は絶対に面倒ごとに巻き込まれると私の経験則から言っているだけだ」
「じゃあ外れるかもしれないってことだな」
「そうだな……外れることを願っているといい。私はほぼ確信しているが」
嫌なこと言うなよ……面倒ごとに巻き込まれたくないからこんな所で隠居してるのに、なんでそんなこと言われなければならないのか。畑を弄って花を愛でて、ペットでも飼おうかななんて考えているだけの人間が何に巻き込まれるって言うのか。
「うーむ……確かに面倒ごとに巻き込むのは確かに本意ではないんだが」
「え」
リリエルさんはシルヴィの言葉を聞いてから唸りながらそう言った。その言い方だと、まるで既に厄介事に巻き込まれるようなことが起きようとしているみたいな感じなんだけど……流石に冗談だろ。
「実はな、世界樹が少しずつ成長することで色々な種族が集まってこようとしているんだ。森の守護者としては、世界樹の恩恵はできる限り多くのものに与えるものだから拒みたくはないのだが……今はお前の土地な訳だろう? だから相談しようと思っていたんだ」
「色々な種族って……たとえば?」
「少し前に獣人族の長が、世界樹の付近に集落を作らせてくれと頼みこんできてな。どうやら火山の方で巨大な竜のモンスターが暴れているせいで、住処を追われたらしい」
え……つまり、新しい種族がこの地に集まってきているってこと? ここは俺の土地なのに? いや、俺の土地だからこそリリエルさんは俺のことを気遣って相談してくれているんだろうけど……これが続けばあっという間に人が集まる集落になるのでは?
「というか、森の守護者として世界樹の恩恵はできる限り多くのものに与えるって……俺は追い出そうとしたじゃないですか」
「あれは……お前が人間だったから。人間は世界樹を一度燃やしている訳だから、私としてはあまり納得できるものではなくて……族長には怒られたが」
いや、うーん……しかし困ったな。
エルフたちがこの森の近辺に暮らしていても基本的には気にならない。それは彼らが世界樹に祈りを捧げる以外に、俺の生活圏に関わってくることがないからだ。それは世界樹を守るという役目を持っているエルフだからこそ、俺と関わることがないだけで……他の種族たちはそうもいかないかもしれない。
別に沢山の種族がここに安寧の地を求めてやってくることを拒んだりはしないが……それはそれとして喧騒を避けて隠居している身としては複雑な気持ちだ。
「世界樹の根元に住んでいるのはこれからもヘンリーだけだろうが、周囲には人が増えていくかもしれない」
なに、その有名な神社の境内に家を建てて住んでるみたいな扱いは。みんなが世界樹にお祈りしにくる時に、あそこに家があるよなー……世界樹を育てている人がいるらしいよみたいな。
俺が隠居しているってこと以外の部分では普通に頷きたい。俺は別に種族によって差別するつもりなんてないし、世界樹の恩恵をみんなで分かち合って生きて行こうって考え方は素晴らしいものだと思う。しかし……だからって周囲が集落に囲まれて俺だけ異物の様に真ん中に暮らしてたらあんまりいい雰囲気ではないだろう。
「お前が嫌ならば断わってくれても構わないぞ。獣人族だってダメもとで頼んでいるだけで、探そうと思えば他の場所でも生きていくことができるんだからな」
「私は関与しないからな。私の傍でどんな種族が生きようが、私は世界に根付いてそのまま世界の行く末を見つめるだけだからな」
な、なんか気を遣われているのが逆に気まずい。
「……いいんじゃ、ないかな。世界樹の周辺に集落を作ることでなにかしらの得があるんだろ? だから世界樹の近くに住みたいって思っているなら……勿論俺は反対なんてしないよ」
「そうか……色々と申し訳ない。世界樹の近くに住むことで得をする……まぁ、世界樹の根から発せられる魔力によって周辺土壌は豊かになって生きやすいし、得は確かにあるな。他種族がいがみ合うことなく平和に過ごせるって面もある」
メリットが大きいな……デメリットとしてモンスターが世界樹に寄ってくるって部分もあるはずだが、それだって大きな集落で囲って世界樹を守るって認識にすればメリットみたいなもんだ。リリエルさんの話を聞いている限り、人間以外の種族が世界樹を守る為に近くではいがみ合ったりしないみたいだし。
「いいじゃないか。20代の若造なのに隠居するなんて言っているヘンリーには、騒がしい場所の方がお似合いだと思うぞ」
「シルヴィ、お前は数日間魔力抜きにするぞ」
「今は森の守護者たちが毎日魔力をくれるからヘンリーがくれなくなってもおいしくないだけで成長はできるんだからな。前みたいにそんな脅し文句が使えると思わない方がいい」
「……やはり私たちの魔力って美味しくないのか?」
リリエルさん……我儘言ってる世界樹のことなんて気にしない方がいいよ。そもそも魔力が美味しいかどうかなんて人間には一生理解できない感覚でしかないんだから。
「世界樹の根元に住むと言うことはこういうことなのだ。静かに隠居するならこんな場所は立ち去った方がいい……勿論、私としては近くにいてくれると嬉しいが」
「もうその話はいいよ。今更ここを立ち去ったりしない……静かに隠居だってしてみせるさ。俺だって別に騒がしい場所が嫌いな訳じゃないし」
そもそも騒がしい場所が嫌いなんだったらマグニカに住んでたりしないさ。
それはそれとして、獣人族って会ったことがないからどんな感じなのか気になるな。人間みたいな見た目に耳が生えているファンタジーにありがちな見た目なのか、それとも2足歩行の獣みたいな感じの見た目なのか。
この世界、人間以外の種族が数が少ないから全然知らないんだよな。いっそのこと、全種族が集まる場所みたいになったら面白いかも?
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