第15話 畑弄りは趣味

 土を弄っていると楽しい。それが最近わかったことなのだが……これは結構な趣味なんじゃないだろうか。土を弄って苗を植え、水をかけてそこから芽が出てくるのを見ているととても満たされた気持ちになるんだ……まるで小さな子供を育てているような感覚。

 買ってきた野菜の苗と花の種を植えてせっせと農地開拓を進めている。将来的に、家の周辺には野菜を育てる畑を作り、残りの広いスペースには全て花を植えてやろうと考えている。もしかしたらめちゃくちゃ育って観光地ぐらいになってくれるかなーなんて考えているが、そんなことになるにはまだまだ時間がかかるだろう。


「ん? おー、グレイ」


 畑を弄っていたら、いつの間にかグレイがモンスターを咥えて歩いていた。森の近辺を好きに歩かせているのだが、たまにこうして近づいてきたモンスターを狩って食っている時がある。世界樹がまだそれほどの大きさじゃないこともあって、モンスターが近寄ってくる効果は弱いようだが、たまに近寄ってくる奴がいる。そんなモンスターをグレイが勝手に狩っているのだ。飼い犬みたいになっているけど、やっぱり本質的には狼なんだなって。でも、人型のゴブリンとか食べてるの見るとちょっとキモイなと思うことはある。


「……毎日土ばかり弄って飽きないのか?」

「逆になにするんだよ。土を弄る趣味があるだけマシじゃないか?」


 いつの間にか背後に立っていたシルヴィから呆れたような声で言われたが、この趣味がなかったら俺は家の中でひたすら本を読んでいるぐらいしかないことになるから、土を弄っているのはいいことだと思っているぞ。


「ほら、リリエルさんから貰った花の種だってしっかり植えたし」

「森の守護者が持っている魔力花か。成長すると家の高さを超えるぞ」

「マジ?」

「魔力を花から放出する花でな。昔は世界樹である私に安定して魔力を供給するために森の守護者たちが周囲に植えていたものだ」


 なんてもんを寄越してくれてんだ……ちょっと見てみたいからいいけどさ。

 それにしても、この花を育てれば安定して魔力を送り続けることができるようになるってことなのか……確かにそれは面白いな。上手く使えば、無限発電みたいなことができるってことだろ? 魔力で動かす機械とかに送り込むことができればクリーンなエネルギー源として使えそうじゃないか?


「ところで、あの大きなたらいは何のために買ってきたんだ?」

「ん?」


 シルヴィが指を差した方にあるのは、家の雨樋あまどいから流れる雨水を受け止めるように置いてある大きなたらい。多分、大きさ的に中に入る水の量は100Lリットル以上だろう。


「なんのためにって、雨水を溜めるため以外のなにがあるんだよ」

「水なんて魔法で無限に作り出せるだろう。何故、わざわざ水を受け止めるための入れ物なんて作っているんだ?」

「そりゃあ、あの中に小魚でも入れて飼おうかなと思ったからだよ」

「小魚?」


 メダカみたいな小さい魚はペットとして買っていると楽しいからな。グレイみたいに手のかからない賢い動物みたいなペットもいいけど、小さい魚みたいなペットも楽しいぞ……この世界の人はあんまりそういうペットを飼わないみたいだけど。


「魚なんて飼ってどうするんだ」

「楽しいじゃん」

「……呆れるほど変人だな」


 将来的には大雨が降った時に流れる排水路みたいなのも作って、ため池に全部流し込めるようにしてからそこに鯉みたいなデカイ魚を飼うのも面白いかもなと思っているぞ。開拓者として色々な場所を旅してきたから、この世界にも鯉みたいな魚がいることは知ってるし……俺が山の湖で出会った人間よりデカイモンスターみたいな魚とかは無理だけど。


「動物ばかり増やしてお前は何が楽しいんだか……」

「いいんだよ。1人は寂しいだろ?」

「私とグレイとアルメリアがいるのにか?」


 シルヴィは世界樹だから人間的な話が結構通じなかったりするし、グレイはそもそも狼のペットだし、アルメリアなんて開拓者として貴方を継ぐんだーとか言って、数日前にまた飛び出していったばかりだからしばらく帰ってこないだろ。

 別に孤独を感じている訳じゃないけど、魚とかに餌をやっていたりすると楽しかったりするじゃん……そういう人間的な感性をもっと身につけてくれよな。

 俺の想像するスローライフってのはこういうもんなんだよ。畑弄って、花が咲いたらそれに喜び、普段はペット世話をして楽しむ。悠々自適で最高じゃないか。


「……夢の無いようなことを言うのは嫌なんだが、お前はそもそも様々なことに巻き込まれる体質の人間だと私は思うぞ。だから……こんな場所でゆっくり生涯を過ごすなんてことは無理だ」

「断言するほどなの!?」


 その言葉を人に言われても大して気にならないけど、流石に世界樹に言われるとそうなのかなって考えこんじゃうんだけども。


「そもそもお前みたいな人間は大人しく隠居なんてできないさ。今に事件がお前の元に舞い込んできて、それを仕方なく解決することになる……これは世界樹からのありがたい予言だと思っていいぞ」

「絶対認めない」

「強情な奴だなぁ……そもそも世界樹に根元に住んでいる時点で色々なことに巻き込まれることは決まっているんだから腹を括れ」


 くそ……やっぱり世界樹なんて放置して別の場所に逃げるべきだったか? しかし、既に家も建て畑も完成しつつあるのに逃げるなんてしたくないしな……シルヴィの言う通り腹を括るしかないのだろうか。でも、そもそも本当に俺が事件に巻き込まれるかどうかは決まっている訳じゃないし……世界樹に予知能力があるなんてリリエルさんからも聞いたことがないから嘘だってことにしておこう。


「グレイ、ちょっとリリエルさん呼んできて」


 スコップを棚に置いてから、俺は小さな鹿のようなモンスターを食っているグレイにリリエルさんを呼んでくるように頼んだ。食事中なんだけどみたいな顔を一瞬されたが、もう一度頼み込むと仕方がないと言わんばかりにのっそりと起き上がってから森の方へと向けて走っていった。数分もすればリリエルさんと一緒にくるだろうし……今のうちに家の中をちょっと片付けておくかな。


 にしても……事件に巻き込まれるねぇ……この世界に転生して開拓者として色々な場所に首を突っ込んできたが厄介事に巻き込まれたことは言うほどないんだよな。今までは結構平和に過ごしてきた訳だけど……果たしてシルヴィの予言は当たるのだろうか。個人的にはめちゃくちゃ外していて欲しいな。

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