第4話 世界樹が喋った

「どうぞ」

「ど、どうも……熱っ!?」


 猫舌かな?

 お茶を飲みながら俺はエルフのお姉さんの前に座る。世界樹がどうとか、色々と聞きたい話ができてしまったのでちゃんと質問したいんだけど……何故か俺じゃなくてお茶の方に集中してしまっている。


「……はっ!? お茶を飲みに来たんじゃない!」

「そうですね」


 そりゃあそうだ。


「はぁ……まず、私から質問していいか?」

「いいですよ」

「外に生えているあれは、間違いなく世界樹だ」

「光の樹じゃなくて?」

「光の樹は世界樹から分けられたものだろう。世界樹は全く格が違う……見ればわかるだろう、と言いたいが……そう言えば人間にはそんなもの見えないんだったな」


 ふむ、つまりエルフには人間には見えないなにかが見えていて、それによって光の樹と世界樹を区別していると。


「いや、そもそも光の樹はあそこまで大きくならない。あんなに大きくなったのならば世界樹に間違いない。それで、聞きたいことがあるんだが……あの樹をどこかで拾って来たというのは本当か?」

「え? うん……10年以上前ですけど、森の端っこで萎びていたのを見つけて……ここら辺が開けていて太陽の光が当たりやすいからいいかなと思って植えたんですよ」

「10年、だと? 世界樹が10年であそこまで大きくなったのか?」


 あ、そこはやっぱり驚くところなんだ。


「実際に大きくなったのはここ二日の話なんですけどね」

「二日?」

「はい……魔力を上げたら、ぼぼんと大きくなっちゃって」

「魔力を……そうか、世界樹は魔力が足りなくて萎びていたんだな。それに対して魔力を与えたら二日であそこまで……大きくなる訳ないだろ!?」


 えぇ!? でも実際に二日間で滅茶苦茶大きくなったんだからそれ以外に説明用のしようがないぞ! そもそも俺は世界樹について何も知らないんだからそんな風にキレられてもなにもわからないよ!


「あの……それで、世界樹が人間燃やされたって本当なんですか? 俺はてっきり、神話の世界にしか存在していないものぐらいに考えていたんですけど」

「事実だ。数千年前に、人間が世界樹の力を求めて火を放ち……世界中を巻き込む大きな争いを起こした。それ以来、我々森の守護者は人間との関係を断っている」


 す、数千年前って……この人は何歳なんだろうか。


「そう言えば、お前の名前を聞いてなかったな。私はリリエル……お前は?」

「ヘンリー・ディエゴです」

「ヘンリーディエゴ?」

「あ、ヘンリーが名前でディエゴは姓で……もしかしてエルフって姓がないんですか?」

「えるふ、と呼ぶな」


 へー……エルフって姓がないんだ。それは数が少ないからなのか、もしかしたら家族的な社会性が人間とは違うのかもしれない。人間はどの家に生まれた誰なのかって示す為に姓が付いている訳だから、エルフにはそれが必要ないなにかがあるのかな……たとえば、さっき言っていた見るだけで光の樹と世界樹の区別がつくなにかとか。


「じゃあヘンリー」

「はい」

「この森から出ていけ」

「嫌です」


 何言ってんだこの人。


「世界樹を守るのが森の守護者の使命。一応、お前には世界樹を拾って守ってくれた恩があるから傷つけることはしない……しかし、一度世界樹を焼いた人間を再び世界樹に近づける訳にはいかないからな。だから、出ていけ」

「ここ俺の家なんで、嫌です」

「……傷つけたくないと言った」

「傷つけられるとでも?」


 隠居したって言っても、全く抵抗しないって訳ではないんだぞ? 攻撃されれば反撃するし、狙われるのならば戦うことも視野に入れている。そして、俺はこの世界に転生してきてから魔法が使えると言うことだけで努力してきた……人を傷つけることにもそれなりに慣れてるんだぞ? 勿論、不快感は強いけど。

 一触即発って感じの雰囲気になって、互いに魔力を溢れさせながら立ち上がろうとした瞬間に、外の世界樹が滅茶苦茶輝きだした。突然のことに俺もリリエルさんも思考を停止させていたのだが、光が収まるのと同時に家の扉を開けて幼女が入ってきた。


「森の守護者よ。私の恩人に手を出すなど、私が許さんぞ」

「……これ誰ですか?」

「知らん、私に聞くな」

「なっ!? それでも森の守護者か!? 私は世界樹の意思そのものだぞ!」


 えぇ……いきなりそんなこと言われても、俺もリリエルさんも納得できないって言うか……そもそも世界樹の意思そのものってなんだよ。本当にあの樹には意思があるなんて聞いてないよ……しかも幼女だし。


「なんでもいいから外に来い! 今の私はこの身体を維持するぐらいの力もないんだからな! 人間と森の守護者が戦争なんて起こしたせいで!」


 いや、そっちもマジで知らないし……勝手に話を進めるなよ。

 ぷんすかと怒りながら家から出ていった幼女を困惑しながら2人で追いかけていき、世界樹の根元に近寄る。世界樹の意思を名乗る幼女は樹の根元に座り込み、近くに寄れと手招きしてくる。


「まず、ヘンリーよ。私を救ってくれたことに感謝するぞ……あのまま放置されていたら、100年ぐらいで枯れていたわ」

「めっちゃ余裕あるじゃん」

「戯け。世界樹からして100年など瞬きみたいなもんだ……人間で例えるなら、餓死直前に食べ物を分け与えて貰ったみたいな感じになるな」


 俺、めっちゃいい奴じゃん。


「そして森の守護者、リリエルとか言ったか? 私を守る為に行動するというその信念は助かっておるが……些か過激すぎないか? 私としてはもっと人間と仲良くすればいいと思うんだが……」

「お言葉ですが、世界樹を燃やした人間と仲良くする意味などないかと」

「そういう態度をしとるから、世界樹が燃やされるような戦争になったんだろうが……他種族を見下しすぎだな」


 エルフってやっぱりどの世界でもそんな感じなのかな? 確かに、俺のイメージ通りのエルフって感じだけど……でも、燃やした奴が悪いってのは事実だろ。


「そんでなぁ……私としては、ヘンリーの魔力が物凄い大好物で、これからも毎日魔力が欲しいんだよ……だから、今からヘンリーを追い出されると私が困る」

「安心してください。森の守護者たちが世界樹にしっかりと魔力を与えます」

「お前らの魔力薄っすいから嫌いって言ってるんだが」

「なぁっ!?」


 好みの魔力とかあるんだ……マジで植物じゃないな。


「と言う訳で、ヘンリーはこれからも私の傍で隠居しておればいい。なぁに、困ったことがあったら助けてやろう……魔力くれたらな」

「現金だなぁ……別に魔力ぐらいならいいけどさ」


 でも、同居人ができるのはなんとなく嫌な気もする……いや、人ではないか。

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