10:身分証
「婆さんや、なにか着るものはないかな。死装束では街中を歩けないじゃろう。」
「そうだな。確か、安物の紳士服が押し入れにあったな。」
ムズミさんはクローゼットを開き、モノトーンで統一された燕尾服を取り出した。
「ほら、これ着な不審者。」
『ありがとうございます。ただ、これは何かで使うのでは?』
「いや、ただ趣味で買っただけだよ。数回着たけど、どうも風通しが良すぎてね。肌が冷えちまうさ。」
ツムグは礼をいって、隅っこの方で着替え始めた。
アタシ達は一応そちらを向かないようにし、4人で話し始める。
「アンタらは遠くから来たらしいけど、どうすんのさね。」
ムズミさんが問いかけるも、テインちゃんはあたふたしている。言葉が分からないから仕方がない。
2人はテインと
しばらく話していると、ツムグが着替え終わったみたいだ。
『似合う?』
白いシャツにグレーのベスト、黒のスーツにズボン。所々に金銀の装飾があったり、綺麗なタイピンがあったりと、落ち着いた品がある。
「調和の取れた色合いがよく映えている」
「悪くないな。」
「かっこいー!」
テインちゃんも頷く。
『あ、テイン。
白衣は彼女から借りたものだったらしい。ただ、少し汚れてしまっている。
「あぁ、貸しな坊主。」
ムズミさんはそれを受け取り、少し払う。
指で何もない
「『イア』。」
たったその一言で、白衣から血や汚れが消えた。
そして、もう一度彼にそれを手渡した。
「なんでもいいけど、アンタこれこの娘に返していいのかい?アンタにゃ魔力の気配を微塵も感じないけど。」
『あ、そうか……』
テインちゃんにもそれを伝え、彼は白衣を羽織らず代わりに腕にかけた。
「で、アンタらこの後どうするのさ?聞いたところ、一文なしの旅人だろう?」
『はい。ここで暮らすつもりなんですけど、何か仕事の1つでもあればいいのですが。』
(来た!この話……!!)
待っていた話が来た。
けれど、まだ焦らなくて良い。絶対に
「じゃあやっぱ冒険者がいいんじゃない?」
「登録のためには身分証がいるだろう。」
「じゃあまずは身分証を発行して貰おっか!」
「この2人は旅人だろう?なら、身分証を発行するためにも身分証が要る。」
あ、そうだった。2人は多分本当に何ももってない。
一切知らない言語を使ってるから、生体認証を導入してる程度の文化水準を持った地域でもなさそうだし……
そう考えていると、ムズミさんがまた口を開く。
「おい
「うん?あぁ、えっと確かぁ……」
アニーさんは部屋を出て、管理室の方へ向かった。
そして、鞄を1つ携え戻ってきた。
中から少し厚い紙を取り出して、ムズミさんに見せる。
「これでええかの。」
「まぁ、この娘なら平気だろ。」
なにやら話が進んでいる。ツムグもアタシもテインちゃんも首をかしげている。
そしてアタシにも書類を2枚手渡した。
「ヘルヴァ、アンタも書きな。」
書類に書かれているのは『推薦状』と『雇用契約書』の文字。
なるほど、この手があったか。
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