11:社会的信頼と在留資格

「あの子には伝わらないように、天紋てんもんで話すよ。、アンタは魔術で通じるんだろう?」

「あぁ。」


 天紋ヘブン-コードをそう呼ぶということは、かなり前から生きている方なのだろう。

 見たところ、この方はおそらく小神族エルフでしょう。


「あの子が書いてるやつは、雇用契約書と推薦状。契約書の方はアンタら2人が今回の蛇狩りの依頼で、ヘルヴァに雇用ってことにするためのものだ。」


 私達は今身分証がない。

 身分証がないということは、文字通り身元を証明できない。

 つまりは社会的信頼や地位が証明できず、この辺りで暮らしたり、正規で働いたりすることが出来ない。


「個人による雇用は、本来 契約書は要りゃしないけどね。ただあれば、ヘルヴァの署名か指印が2人の身元を証明することになる。後でアンタらも指印しな。」

「分かりました。」

「そんで推薦状……白坊主の方だね。」


 机に置いてあった白紙の推薦状を持ち上げ、私達に見せる。


「ここで質問だよ。雇用する場合、ソイツに最も必要なものは何か。さてテイン、なんだと思う?」

「うぇっ!?」


 急に質問されてしまった。ここは当たり障りのない回答で……


「じ、実力でしょうか?」

「勿論大事だが、違う。さて、白坊主。」


 続けて問われたツムグは数秒考えたあと、あぁと呟き答える。


「社交術……いや、この場合は責任能力かな。」

「正解。」


 彼の答えに、ムズミさんは微笑んだ。


「ソイツに実力があろうと、やらかす時はやらかすもんだ。〝司教も筆の誤り〟って言葉があるようにな。」

 「おっと、書き損じてしまった。『イア』。」

「失態をどうにか工面されるならいいが……もし、ソイツらが逃げたらどうするか。住所や来歴からソイツのことを辿るのも勿論、そこから関わりのある人が分かる。けど、アンタら2人は住所がない。」


 なんとなくだけれど、緊張感が走っている。


「推薦状ってのはつまり」


“コイツの信頼度はアタシが保証します”


「ってことだ。逃げられでもすれば、その責任は推薦したやつが取る。」

「そう、だな。」

「アンタらはあの子にそれを背負わせるってんだ。だから推薦状これが欲しいなら、アンタらに1つ条件を飲んで貰う。それは――」


 ムズミの提示した〝条件〟。

 私達がそれに頷くと、彼女は書類に署名と押印をした。


☆☆


所持品一覧


ツムグ

・燕尾服

・巫女装束の白衣(天使の魔力を宿している)

・雇用契約書(クロルの署名)

・推薦状(クロルの署名)

・仮戸籍登録料(2人分)


テイン

・巫女装束

・聖職者就任証(ルルソン夫妻の印)

・推薦状(ルルソン夫妻署名)


☆☆


 ヘルムさんに案内され、役所に来た。

 一方で彼女は、依頼達成を報告すると言って狩った蛇を握りギルドに向かった。


 早速 中に入り、ツムグが役員の方に声をかけた。

 戸籍の窓口に案内され、話を進める。


「読み書きが出来ないので、要点を読み上げて貰っても良いですか?」

「ホリロ!」


 身元を証明できるものはないかと問われ、先程貰った書類を手渡した。


「これでお願いします。」

「メヌエンツ゜ロヲァン-シタ インネ゜ ヌンネユトネ-シタ イシ?」


 笑顔で2つの書類を受け取る。


「ンッ!!?!?!?」


 書類を受け取った役員さんが、目を大きく開いて動揺する。

 役員さんはしばらくお待ちくださいイ フラーソ セロネ グメッワ゛!と言って、書類を持ちながら奥の方に向かった。


 「へ、ヘルム-ルンッ!?インネ゜,ルルソン-ヘーグミ!?」

 「メイメャ!?」


 えっと、何事だろうか……?

 


 

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