8: 〝勝利の街〟レヴェル

 大きな白い門。その名も〝勝利の門〟。

 かつて、世界中で人々を救った英雄の門出を担ったとされている。


 ここは〝勝利の街〟レヴェル。彼の英雄が降り立った街であり、勝利の門はここの入り口に当たる。

 門を潜ると、人々の生活が栄えていることがよく分かる。ハーブティやドーナッツの香りがしたり、賑わう声が聞こえたり、おしゃれなお店が立ち並んでいたり。

 けどアタシ達が全速力で向かうのは、そんなワイワイ楽しめるところではない。


「……。」

「うあぁー!!!」

「はぁっ、はぁっ!はぁっ!!」


 死にそうなツムグを背負い、テインちゃんと一緒に走っていく。巫女服で走りづらそうだ。

 あまり揺さぶりすぎると、彼の症状に障り悪化しちゃいそうだけど……


「まぁ、さ、最悪ぽっくり逝ってもっ、はぁ、はぁっ、礼拝堂だし良いよね!」

「■■■◼■……」

『良くない……』


 意外とまだ平気そうだ。


☆☆


「よぉし着いたぁ!!!はぁ、はぁ……はぁっ!!」


 ヘイルスター礼拝堂。

 勝利の門を潜って直ぐに左に曲がったところにある礼拝堂。

 正確には、門の隣の公園の中にある。

 宗派的なのは自然崇拝の1つで、この公園全体が聖域だ。


「アニーさん!!!ちょっといい!!?」


 扉を礼儀悪く開き、大きな声で叫ぶ。

 丁度、アニーさんは堂内の掃除を行っていたみたいだ。

 つい叫んじゃったけど、人がいなくて良かったな。


「おやぁ、……よぉ来たのう。」

「うん!で、いきなりで悪いんだけどさ!この人のこと横にできる場所ない?」


 このお爺さんはアニーさん。礼拝堂の管理人だ。

 夫婦でここの管理をしてて、かなりの長寿だ。


「あぁ、休息室がある。つれておいで。」


 ツムグを担ぎながら、テインちゃんと一緒にその部屋にいく。

 

 案内された部屋は、窓から入る陽光や春風、自然の香りが心地好く、休むにはうってつけだろう。

 いくつかあるベッドの1つに、ツムグを寝かせる。


「なんともまぁ、安らかに眠っておられる……」

きてるきてる、めっちゃ苦しみながらきてる……』

「あぁ、無理して喋んなくていいよ……」


 細い声で自国語?のツッコミをいれるツムグ。


「この少年は?」

「この人はツムグ。さっき会ったんだけど、バウラル・スネークにやられたらしくてね。」

「ふむ。では~、塞栓症か……それに失血が酷いのう。」


 アニーさんは腰のポーチから医療品を取り出した。


「そのお嬢さんはお連れかな?」


 急に声をかけられ、戸惑うテインちゃん。


「こっちの子はテインちゃん。ツムグの仲間……?だよ。二人とも遠いとこから来たみたいで、星語ニロ-バベル領語ネ゜ロソ-バベルも使えないって……」


 アニーさんは話しつつ、続けてお札や筆と言った道具を取り出した。


「あ!アニーさんって天紋ヘブン-コード使えるっけ?」

天紋てんもん?」


 首をかしげるアニーさんに、テインちゃんのことを簡単に説明した。

 アニーさんは「成る程のう」と頷くと、彼女の方を見る。


「ニシク゜-ネッパ,インタ ヲォコ テイン ルン?」

「リ、リン!ニシク゜-ネッパ!」


 天紋ヘブン-コードかぁ……親から勉強しろって何度も言われたけど、結局使わないと思って勉強しなかったんだよなぁ……他の言葉の方が使えるだろうし……


(でもまさか、ピンポイントでそんな出会いするとは……)


 しばらく天紋ヘブン-コードを使い話した後、アニーさんはテインちゃんにお札と筆を手渡した。


、今からテインさんと共に彼へ治療……というより、免疫や腎機能の補助を行う。魔法陣の準備をしているから、お前さんは治療の呪術を頼む。」

「うん!わかった!」


 このようなタイミングで使うことはあまり無いけど、血が止まらない彼の手首を見ると、専門でなくとも治してあげたいと思える。


 アタシはを、良く分かっているから。

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