2:天使の祝福と、人の願い

「とりあえずこの世界では魔術という物が使えます。それで究極チートというものは、まぁぶっ壊れの魔術ですね。」

「うん。」

「巨悪を討ち滅ぼすために受けるです。」

「あーね。大体分かった。でさ、もっかい聞くよ?」


・魔力とかいうやつがない

・神の祝福を受けない


「……」

「……」


 沈黙が流れる。


「代わりに弓折り腹切り自害します。」

「いらんいらん、いいからそんなこと。」

「でもこちらの不手際で、魔力構成の身体機能も、衣類も、こちらの言語もないまま……」

「尚更自害しないでくれ。話し相手がいなくなる。そもそも真っ裸で死体と原っぱに放置とかシュールすぎる。」


 全裸の彼は、少し震えながら話を続けた。


「確か天使だったよな?」

「はい!」

「名前は?」

「えっ。」


 私に名はない。あの世界では言葉を介さずに意志疎通をはかれる。

 そもそも神の後光の欠片でしかない。


「そっか……オレはさっきも呼ばれたけど、和上ワガミ紡救ツムグ。ツムグで呼び捨てでいいぞ。」

「はい!」

「天使のことはなんて呼べばいい?」

「そうですね……天使でもいいんですけど……」


 流石にそれはひっかかるでしょうし……


「あっ!ではツムグが名前を決めてください!」

「オレが?」


 彼は顎に手を添え、う~んと首をかしげて考える。

 ※全裸で。

 数秒悩んだあと(※全裸で)、ツムグは名前を決めたみたいです。


「では、儀式が必要なのでちょっと待っててください。」

「あいよ。ただ真っ裸なんだが。」

「あぁそうでした……」


 私は白衣を手渡した。彼は礼を言って、それを羽織った。

 裾除けと赤い袴だけだが、彼がその白衣を着ているので大丈夫なはずだ。

 この姿なら翼も広げやすい。


「あの時、天照尊アマテラスさまは三種の神器と陽光、雲を用いて祝福を授ける儀式をしようとしました。」

「祝福?」

「はい。神が与え、人が宿すものです。ちなみにずっと受けるものは祝福、一瞬だけ受けるものは奇跡です。」


 原っぱの草を編みながら説明を続ける。


「私は下級の天使ですが、究極チートを授ける儀式に似たことを出来ます。序列などは……」


 強い順に〝神の祝福〟と〝神の奇跡〟、〝天使の祝福〟と〝天使の奇跡〟というように続いていきます。


「『』」

「あの、なんか手伝おうか?」

「お願いします。光に依る儀式なので、光合成を行う植物で魔法陣を作ります。」

「編み方は?」

「とりあえず叶結びで。生命を有したままの方がいいので、生えたまま繋いでください。」


 儀式を省かずに行えば、自然にある魔成を活用することが出来る。


「儀式に必要なのは言葉か音、魔法陣か魔法印、魔成か魔力、祭具や供物。」

「ごめん、全くわからん。」

「まぁ、あとあと教えますよ。」

「頼む。」

「では、始めますね。」


 作った植物の結界の中に入り、向かい合うように座る。


「天使と人の儀式には、互いに授ける必要があります。」

「そうか。でもオレ一文無しだぞ。」

「ですよね。なので、今から私たちは1つになります。」

「……。」


 彼はその言葉を聞くと、両腕で自身の身体を包むように構えた。


「違う違う!そういうことじゃないです!!」


 彼はそうかと言いながら、身構えるのを止めた。


「この結界は脆くはありますが、天使のオーラで維持されてます。」

「天使のオーラねぇ。」

「さらに魔法印として、互いに手印を組みましょう。それであとは……」


☆☆


「では始めます。」

「おう。」


 翼を大きく広げ、結界に沿うように私たち自身を包む。

 彼は合掌しながら、言葉を連ねる。私はそれに答えるように、合掌しながら同じく言葉を連ねる。


「【神に遣える者よ】」

「【新たに遣えるべき者、ワガミ・ツムグよ】」

「【汝に名を与える】」

「【汝に祝福を与える】」


 光が一層輝き、私たちを優しく包む。

 そして強く煌めき、聖火が生じて形を成す。


「【汝の名は―フォーロ・テイン―】」

「【汝に我が光を捧げる。】」


「「【それこそが、汝と我の縁となる。】」」


「『ケユチ・ヤ゜ロネシッヲィヘク』―――」


 彼が与えた名前が私の魂に宿り、そして私の光が彼の魂を照らした。


 こうして私はフォーロ・テインという名を、彼は祝福による力を得た。


https://kakuyomu.jp/users/milklupia/news/16818093079667839360

 

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