プロローグ・地球:中編

ガシャンッッ……


「っ……」


 放課後、1人の女生徒が彼を呼び出した。運動部の更衣室にて、彼を押し倒し、ロッカーに叩き付けた。

 この女生徒は、今朝横断歩道にいた者だ。


「痛い……」


 当然だ。背中の全体がロッカーに打ち付けられた。金具が背筋や後頭部にぶつかり、食い込んでいる。


京虎けいこ……」

「ねぇ、朝さ……一緒に学校行くって言ったよね。」

「あぁ。」

「なのに、なんで途中で先行っちゃったの?」

「あれはほぼ着いたじゃん。」


 彼の胸板に手を添えながら、ずいっと迫る。ゆっくりと撫でながら、額もそっと添える。


「もう高3だよ?」

「そうだな……」

「ねぇ、分かってるよね。言いたいこと……」

「当たり前だろ。」

「じゃ、じゃあ……そろそろ、さ?」


 彼女は少し明るい表情になった。

 対して彼は、依然無表情に近い顔だ。


「けど、オレには彼女がいる。」

「っ……」

「だから悪いな。」

「……なんで私じゃないの」


 彼女は「いいよ、もう……」と言って、その場を後にした。


「女子更衣室にオレを置いていくな。」


 彼女が退室したあと、少し待ってから部屋の外に出る。

 扉を開けると、また1人の女性が待っていた。


「……先生。」

「るるね。それはともかく、何で女子更衣室にいるの?」

「察して。」

「他の人に見られてたら……まぁ、平気か。」

「というかスマホ返してください。」

「いっ、やっ」


 彼女は彼のスマホの画面を開く。ロックは解除できないが、そこに出てくる通知の一覧は見ることが出来た。


【明日の夜、お願いできる?】

【ホントに1でいいの?もっと出せるよ?】

【泊まれる?】

【あとでもいいから返信してね!】

【出来たら7:00からお願い。その分好きなだけあげる。】

【日曜の昼、この前みたいにしたい……】


「明日から連日でかぁ。」

「……」

「今日の夜はと会うらしいけど、でもまだ時間あるよね?」


 るるという教員は、扉の前から部屋へ前進し、彼を再び中へいれた。扉を閉じて、鍵もしめた。彼を両手で抱き寄せ、顔をうずめるように、首と肩の間くらいに顔を寄せる。


「ちなみにみんなそこら辺を彷徨うろついてるから、私の車で帰った方がいいよ~?」

「……」


 そう言いながら、付け根のところにキスをしたり、舌を滑らせたりし始める、

 彼は抵抗しようとするも、状況がそうさせない。


「あ、勿論1か2は出すよ?」

「……」

「どう、かな?」


 はにかむような微笑みで、彼の顔を伺う。


「はァ……」


 彼女のシャツのボタンに手を添え、片手で器用に外していく。もう片方の手は、優しく腰を撫でる。


何時いつぶりだっけ?」


 一方で、彼女は彼の制服のベルトを外していく。ズボンを下ろす前に、布越しにを触る。


「半月とか」

「そんくらいしか開いてなかったの?もっと長いかと思った。」

「出来れば手短にしてほしいんだが……」

「なら口と中だけでいっかな。」


 彼女は彼のズボンを下ろした。そのまま自らも姿勢を低くし、蹲踞そんきょで座る。彼の尻の方に両手を回して、一度大きく息を吸う。


「じゃあ、始めるよ。」

「ん………」



「今日はありがとね。」

「ん……。」


 ここは彼の自宅だ。言っていた通り、彼女は自身の車で彼を送り届けた。


「明日もちゃんと学校に来てね?けどもし辛かったら、私が代わりに教えるから。」

「あぁ……」


 車のドアを開け、外に出る。

 彼女はずっと優しい微笑みでいるが、彼が名残惜しむことなくその場を後にしようとすると、流石に少し切なさを感じた。

 彼女は小さく手を振り、車を出そうとした。


コンコン……


「?」


 だが、彼が窓をノックした。そして彼女が左のパワーウィンドウを下げる前に、右側に歩いてきた。なので、今度は右のパワーウィンドウを下げた。


「今日少し多く貰ったから、今度は無しで良いよ。」

「えっ、あ……いいの?いいの?」


 彼は黙った頷いた。彼女の前髪をそっと上げ、優しく額に口付けした。

 そうして、今度は大層嬉しそうな表情で手を振り、車を走らせた。



 自宅の玄関を開ける。足場には、自身と同居人が普段置いている靴の他に、1足別の靴があることに気づいた。


「ただいま。」


 数秒すると、台所から1人の女性が歩いてきた。


「おかえり……」

「うん、ただいま従姉ねえちゃん。包丁は危ないから握ってこないでもらえる?」


 包丁の切先を彼に向けて出迎える。


めぐむちゃん呼んだの?」

「呼んだっつーか、来て良いか聞かれた。」

「お姉ちゃん聞いてないよ。」

「ごめん、もう来るとは思ってなかったから……」


 外靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。


「もしかして泊まるの?」

「え、どうだろ。明日大学無いらしいから……」

「そ、それさ?今日お姉ちゃんと寝れる?」

「出来ればめぐむと寝たい。」

「っ……あ、あっ!お風呂は?」

「それは流石に1人が良いな……」

「で、でもでも、今日は一緒の約束だったじゃん?ね?ね?」

「ごめん、今度でもいいかな」


 彼の言葉に、彼女はぐっと堪えるように黙り込んだ。俯き、悲しげな顔をした。


「そういや、ただいまのちゅーは?」

「っ!あ、う、うん!うん!する!」


 彼女は包丁を片手に、彼に抱き付いた。

 彼は少し姿勢を丸め、彼女は少し見上げる姿勢で口を近付けた。


「ん……」

「んっ、ん~」


 彼は彼女の頭に手を添えつつ、ゆっくりと撫でた。軽く唇を交わしたあと、舌をねっとりと絡ませた。

 彼女は微笑みながら、もっとしてほしいのかグイっと顔を近付けた。


「んぁ……あ、あえ?」


 だが、対して彼はそっと離れてキスを終わらせた。

 彼女は少し困惑しつつ、彼に問いかける。


「え、ね、ねぇ?もうちょっとしたい……」

「後でね。めぐむほっときっぱなしだし……」

「うっ、うぅ……うん。そう、だね……」


 残念そうにしつつも、話を切りかえ「なんか口紅の味するんだけど」と問いかけた。


「あ、夕飯はシュクメルリだよ。」

「おっけ。鳥?貝?」

「鳥~。めぐむちゃんも食べてくんだよね?」

「ん。」


 彼の従姉あねは、包丁片手にトテトテと彼の側を歩いた。

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