そばにいるために男になることにしました。
ことろ
第0話
それは2年前のこと。その日はちょうど建国祭の日で、街の大広間で祭典が行われていた。たくさんの人たちでごった返す中始まった祭典は、一生私の頭に残ることだろう。
建国祭は年に一度の重大な行事。私達国民は任意ではあるが、皆必ず出席していた。
祭典が始まり、進行役や祭典づくりに協力した貴族たちの挨拶の後、ついにその瞬間が訪れる。王族の登壇だ。
白銀の長い髪をひとつに縛り、輝く王冠を頭に乗せた王のジュリアス様を先頭に、綺麗な茶髪を頭の上にお団子にまとめ、素敵なティアラを着けた王妃のローナ様、そして最後に現れたのだった。
背中までの長い水色の髪を下でまとめ、上はくせ毛なのか少し跳ねている。綺麗な顔立ちで湖の水面ような暗めの水色の瞳を持つ、背の高い男性。今まで王族の出る祭典には必ず出席していたはず。なのに、彼には見覚えがなかったと同時に、吸い込まれるような瞳にすぐに心を奪われてしまった。
ふと、ジュリアス様がステージの上のさらに高い場所に立つと、挨拶を始める。
「皆、よくぞ我が国、アクリームの建国祭の祭典に集まってくれた!この国は私の先祖代々、大切に守られてきた国である。今年も安全に建国祭を開けたこと、心から嬉しく思っている。」
よく通る大きな声で挨拶をするジュリアス様。しかし私は王様の言葉を聴きながらも王妃の隣に立っている彼のことが気になってチラチラと見てしまっていた。すると、ジュリアス様が彼を呼ぶ仕草をする。彼がジュリアス様の横に立つと話を続けた。
「この場を借りて、紹介したい者がいる。こいつは、私の息子、ロイだ!今まで表に出していなかったが、こいつは今年で18、そろそろ頃合だろうと思ったのだ。」
そこで国民からワッと歓声が上がる。そうか、彼は王子様だったのかと心の中で納得する。今年で18歳ということは、私の1つ上なのか。
「皆も知っているだろうが、我が国の王族には、18になると海へ出て世界を学んでくるという習わしがある。もちろん私も行った事だ。なのでこいつは3年間、国を離れることとなる。紹介したばかりだが、帰ってくることを祈ってやってくれ。」
また更に大きな歓声が上がる中、私はまだ彼に見とれているのだった。
私の今の状況は、誰に聞くまでもなくわかっていた。そう、恋をしているということ。自国の、王子様に。
普通の人ならここで諦めるのだろうが、私は嫌だ。やれることはやって諦めたい人だった。
そこで私は頭を回転させた。私は国に貢献している貴族でもなければ、城に仕えているメイドでもない。それに、彼は18になると国を離れてしまう。どうしようかと考えながら帰り道を歩いていると、ふと、小さな掲示板が目に映った。そこには、豪華な装飾がされた髪が1枚。
『【急募】航海の乗組員。王子様のお供を募集します。船の知識がある方歓迎。興味のある男性は2364年3月4日に城へ向かわれたし。』
これだと思った。きっとこれ以外に方法は無いと。私はすぐに男服を調達し、腰まであった長い髪を短く切り落とした。すぐに船や航海術についての本を国営図書館で読み漁り、頭に叩き込んでいった。
そして2364年3月4日当日。私、いや僕は募集の紙を握りしめ、城へ向かった。
結果は合格。晴れて王子様の乗る船の乗組員になれたのだ。
そこでハッと目が覚めた。僕はなんてことを。男と偽り立候補した挙句合格してしまうなんて。恋は盲目とはこういうことなのかと自分で自分が怖くなってしまった。
そして考えた。やはり彼には婚約者等がいるのではないかと。私がどう頑張っても敵わない相手がいるのではないかと。やっと正気に戻った。しかし、彼への恋心は消えなかった。
そうだ。彼は王子様、隣にいたいなんて考えもおこがましがった。それなら、お供として、お傍に居られれば。そう、それで十分すぎるくらいなのだ。
それならば、僕は彼が幸せになるところをお傍で見守ることにしよう。隣にいるのが僕じゃなくても。
そばにいるために男になることにしました。 ことろ @Cotolonlon666
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。そばにいるために男になることにしました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます