第5話
毎日、一日たりとも欠かすことなくチュンの元を訪れていたアオは、ある日を境にぱったりと来なくなってしまった。その既視感に、再び食事は喉を通らなくなる。ずっと、窓の外を眺めて過ごした。昼間がこんなに静かだということを、初めて知った。
「幸せの青い鳥…見えなくなってしまったわ」
気がつくと、周りには自身の羽根が散乱していた。驚き身体を見ると、剥き出しの肌が所々にあった。
「どうして、」
かつて主人が、そしてアオが美しいと言ってくれた綿のような羽毛は、もうとても綺麗とは言えなかった。これでは再びアオに会えたとしても、見放されてしまうかもしれない。どうしたら治るかわからない。治っても、アオに会えるかわからない。もう、会えないかもしれない…何故、それは、主人と同じように
ぷつり。
いつも思考は突然に切断された。何か大事なことを、忘れている気がする。何だっけ、まあいいや。…そう思考しながら、本当は全部わかっていた。わかっていて、わかっていないふりをした。無意識は、チュンに羽引きをさせていた。そうして再び我に返ったとき、周りに散らかる自身の羽根に怯えるのだ。
「みんなみんな、私を、置いていってしまう…」
そのとき、ずっと天を覆っていた分厚い雪雲が晴れて、蒼空が顔を出した。懐かしいその色に、覚醒した思考がかつての言葉を蘇らせた。
『何故チュンさんは、自ら追いかけて手に入れようとしないの。籠の鍵は開いているのに―――自由なのに』
その言葉をくれた大切な存在が、真っ青な空を雄大に羽ばたいていた。
「アオ…」
いつもただ待っていた、その胸の中へ。チュンはぼろぼろな身体で、大きな一歩を踏み出した。いつも籠の中から見送っていたその姿をなぞって、同じ場所に立ち、同じ姿勢で翼を広げ、力一杯、腕を振った。ふわり、と宙に浮き、そのまま天高く飛び立つ。
「 ―――嗚呼、世界は、こんなにも、」
―――fin.
籠の鳥 桜田 優鈴 @yuuRi-sakura
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