第3話 狐の嫁入り前日


Side雪斗


 学校は憂鬱だ。楽しい話も面白い話もためになる話も無い。一応ここは有名な進学校だ。それでも全てに置いて俺のレベルを超えることは無い。勉強も文芸もスポーツも何もかも。唯一あるとすれば交友関係ぐらいだろう。


「雪斗!」

 通学路である国道に響く俺の名前。朝から元気な声で話しかけてくるのは同じクラスの赤松 京介。一応この学校で一番親しい奴。


「なー雪斗。3組の遠坂さんふったんだって?これで50人まであと1人だな。」

「人の恋路をエンターテイメントとして見るな。そもそも何故お前が知っている。」

「そりゃー、お前、3組の遠坂さんっつたらこの学校の四大美少女の内の1人だぞ?噂にもなる。国宝級の美貌と優しさを兼ね備えた学校の人気者。むしろお前、なんでふったんだ?」

「好きでも無い人間の告白を何故受ける必要がある。それにそう言う恋愛関係は苦手なんだよ。」

「ふ〜ん。じゃー、お前はどんな女の子だったら告白を受けるんだ?」

「さぁ?俺にもわからん。」

「贅沢な奴だなー。まったく。そうだ!今日こそ放課後、一緒にカラオケ行こうぜ!」

「すまないが拒否する。」

「えー、なんでだよ〜!」

「放課後はバイトの関係で話し合いがあるんだよ。」

「あー、例の骨董品と本を売ってるって言うあの?」

「あぁ、今回の場合はだな。」

「ふーん、そう言う事なら仕方ねーな。頑張って来いよ。」

「…あぁ…、話は変わるが…お前、生物のレポートやったのか?」

「あっ!!すまん!俺は急ぎの用事ができた!悪いが先に行かせてもらう!」

「6時間目だから急げば間に合うぞ。」

「おう!ありがとな!じゃ!また学校で!」

 くだらない会話の後俺は学校についた。いつも通りの授業を受け、いつも通り昼飯を食べ、そしていつもと違う帰り道でカフェに行く。外見から内装までモダンなカフェの扉を開けると、そこにはマスターとカウンター席で話す浴衣姿の女性の姿があった。


「今日は随分とめかし込んでるんですね。川島様。」

「いえ、私服がこれなんですよ。この間は彼とのデートの後だったので。」

「ふーん…。それでは話を始めても?」

「えぇ、どうぞ。」

 俺は川島さんの隣に座る。


「マスター。いつもの。」

「承知いたしました。キリマンジャロですね。」

「…さてと、川島様。これから今回の依頼の具体的な話をさせていただきます。」

「えぇ、よろしくお願いします。」

「まず初めに私が脳心操作師として今回の依頼を請け負います。雪斗です。まず依頼内容から…」

 そこからの話し合いはスムーズに進んだ。そして気がつくと4時半を過ぎていた。


「もう1時間経っていましたか。それでは今日はこの辺で。次お会いする時は当日ですかね。」

「ええ、準備ができたら直ぐにでも連絡お願いします。」

「ははっ、勿論。」

 俺は帰り道、日が落ち始めているこの薄暗い時間帯に考え事をしながら1人歩いていた。すると後ろから…


「雨宮くん!」

「こんばんは。遠坂さん。」

 後ろから小走りで駆け寄って来ながら声をかけてきたのは制服姿の可憐な女子高生。遠坂 結。俺はそう言うのはあまり詳しく無いのだが、赤松曰く学校の四大美少女らしい。


「遠坂は部活の帰りか?」

「はい。学園祭の為に吹奏楽部はこの時期から部活が本格化していくんですよ。…それより雨宮くん。」

「ん?どうした?」

「私まだ諦めてませんからね。」

「そうか。頑張れよ。」

「なんでそんな他人事なんですか…。雨宮くんの話ですよ、これ。」

「と言われてもな。人を信用するのも苦手な俺がどう足掻いても人に恋をすると言う状況に陥る想像がつかないんだ。」

「それは…その…、でも!…大丈夫です。いつか私の虜にしますから。」

「あぁ、期待しとくよ。」

「そこまで言ってくれるのであれば恋人になってくれても良いのでは?」

「仮に一方的な恋愛感情による恋仲になってお前は嬉しいか?」

「それは…そうですけど…、」

「そう言うことだ。…もう暗くなる時間帯だ。家まで送るよ。」

「いえ、それは雨宮くんに悪いので1人で帰ります。家も近いので。」

「そう言う慢心が時に失敗と後悔に直結する。こう言う時は素直に受け取っておくべきだ。」

「…では。エスコートお願いします。」

「わかったよ。」

「雨宮くんは…その…まだ続けているのですよね?ペルソナさん。」

「あぁ、これが俺の唯一の希望だからな。」

「まだ…戻ってなかったんですね。記憶。」

「あぁ、今でも脳に鮮明に焼き付いて離れない。あの時の光景とあの悲壮感。…だが!思い出せない!いくら自分の脳に入っても!あの時の記憶の殆どが欠けて奪われている!」

 思い出すだけでも五臓六腑がねじ切れそうな程の怒りが湧いてくる。にも関わらず俺は、自分の全てを奪っていった事件の事を思い出せない。記憶の欠損なのか、脳の障害なのか、それとも…


 そんな時、携帯から音が鳴る。


「…その…すみません。…嫌なことを思い出させてしまいましたね。私が言うのもおこがましいですが…大丈夫です。私たちがついてます。」

「…すまないな。俺も取り乱し過ぎた。…後はこの通りを曲がるだけだな。気を付けて帰れよ。」

「はい。ありがとうござます。それではまた明日。」

「あぁ、またな。」





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世界の裏側で PCぶっ壊れ太郎 @888885

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