第2話 雲行き

「私の彼氏…酒を飲み漁って、毎晩別の女の子を連れてホテルに行ったり…この間なんて…その…違法賭博に手を出したって言ってて…。今は怒鳴られるだけですんでるけど、…その…そのうち暴力を振るわれるんじゃないかって怖くて…怖くて…!」

「事情はわかりました。ではここからは雪斗に変わりますね。」

「どうも雪斗です。先ず最初に仕事と報酬の話をしましょう。仕事の方は貴方の彼氏の性格矯正。或いは人格矯正、ですね。どの様にしたいのですか?」

「その…優しくて…私だけを一途に想ってくれて…どんな私も受け入れてくれる。そんな優しい彼に戻して欲しいです!」

「わかりました。では次に報酬の話を致しましょう。その件はご存知で?」

「えぇ、その…私の一番大切なものを代償に払う…と言うのが報酬ですよね。」

「えぇ、まぁ、合ってます。…報酬は後払いという事になりますので先に仕事話をしましょう。…こちら契約書です。」

 後ろの机から陸が書類…契約書を持ってくる。


「この同意の上で今回の仕事を行うという事でこちらの契約書にサインをお願いします。…と、あぁ、そう、忘れてました。こちら契約の破棄は不可能となっておりますのでご了承ください。」

「えぇ、わかりました。…えーと、その、何か書けるものを貸してもらってもよろしいでしょうか?」

「ええ。構いませんよ。陸、お願い。」

「わかった。」

 そう言うと陸は机の上の万年筆を雪斗に手渡す。


「こちらをお使いください。」

「ありがとうございます。」

 女性が契約書にサインしたのを見た二人は契約書を確認する。


「…川島 美優様。年齢は20歳。現在は隣町の某有名大学に通っている。…依頼内容は彼氏…松本 雄大様の人格矯正並びに性格矯正。…確かに受け取りました。それでは暫くの間こちらでも準備がありますので準備が出来次第お呼びいたします。それまでお待ちくださいませ。」

「はい。わかりました。では…また…。」

「えぇ、また…」

 そう言うと女性は扉から外に出ていった。


「雪斗、少なくともあの女…」

「陸、憶測で物を話すのはやめよう。先入観と私情を持ち込むと依頼に支障をきたす。」

「…あぁ、そうだな。」

「陸は捜査を頼む。俺は少し寝る。」

「了解。先ずは探りやすそうな彼氏の方からやってみる。」

「ん。」

 陸がそう言って事務所を出ていくのを見送ると雪斗はソファーで眠りについた。


Side陸


「んー取り敢えず大学のあたりから探り入れるかー、つっても依頼者には詳細聞けてないし…普段なら人格、性格の依頼の時は詳細貰ってるけど雪斗が求めなかったつーことは俺の予想も当たってるかな。…やっぱ依頼者の方から探ってみるか。、っ!と、その前に雪斗に伝えとくか。」


 スマホどこだっけー?と、バッグの中か!このバッグ、ショルダー式なのに容量あるから気に入ってんだよなー。…スマホ、スマホ、ってどこだ?


 狼狽えながらもショルダー式のバッグを地面に置き、道の端でまさぐる陸に通行人達は不審な目を向けながらも通り過ぎて行く。


「んっ、!あった!って、あいつ…」

 陸が取り出したスマホそのカバーの内側に付箋が挟まれていた。


『依頼主から調べるだろうから注意事項


・調査に置ける危険性は松本雄大の方が危険

・だが最悪松本雄大には悟られても良いが依頼主には悟られるな

・悟られた場合、人格矯正の為の身辺調査と偽る事』


「バレてる…。前文はわかるが…依頼主に関するこの二つは…、これじゃ、まるで、」

 まるで依頼主に警戒している様だ。いや、この言い回し…間違いなくしている?だとしたら、何が目的で…、いや、今はそれはいい。調査を実行しよう。


 その日の夜


「依頼主の身辺調査終わったぞ。」

「ん、で、どうだった?」

「彼女の調査は短時間で終わるくらいには簡単だった。…彼女は周りからも評判の良い絵に描いた文武両道。そのものだった。幼少期から日本舞踊、華道、香道、書道、茶道と英才教育。高校ではテストも学年トップで体育祭でも大活躍だったそうだ。現在、大学では教員や生徒たちからの信頼も厚く、更にあの容姿からモテモテだと。しかしその一方で逆恨みもしばしば。しかしそんな数多の逆恨みを物ともしない理由は…」

「隆栄学読堂」

「なんだ、知ってたのか。」

「川島隆栄氏が若き日に設立した大手出版会社。彼女はそこの三人兄弟の長女…であってるか?」

「調べたのか?」

「このぐらいは調べずとも出てくる。」

「さて彼氏の方は明日、お前が高校に行ってる間に調べてくることにしたよ。」

「そうか…、俺も明日の放課後に私用が入ってる。彼氏の方は危険性が高いが故に時間がかかるだろう。一週間だ。その間にお互いやれる事をやっておこう。」

「了解。」

 このとき陸は松本雄大の本当の顔をまだ知らなかった。ここから長い一週間が始まろうとしていた。





 

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