第2話 あの少女はまた白線を歩いている。(後編)
私が徒歩30分かけてコンビニへ向かう理由がよーく分かっただろう諸君。長たらしい話がまた始まるかと顔を歪ませてるそこの諸君。ウザいほど長たらしい話をしていればあら不思議。コンビニは目前。目的であるコンビニに到着し帰宅すれば私のくだらない日々の物語も幕を閉じる。そう、閉じるはずなのだ。いつも通りに終わるはずなのだ。はずなのだが目の前を陽気に白線を歩き迫ってくる少女が一人。名前ももとい素性も知らぬ女が目の前を迫ってくる。少女と言うが大学生ぐらいか。言葉にはしまいがその年でその遊びをするかと脱水症状目前の私は言った。そう言ってしまったのだ。少女は私を見つめ微笑み綺麗な顔で可愛げな声で喋る。「楽しいよ?やらないの?」名も知らぬ少女よ。君はいいだろ。愛嬌もあり綺麗な顔立ちをしている。世間からもさぞ優しい目で見られるだろう。だが私がこの年でそれをすれば世間からは言葉のナイフと同等なそれ以上に鋭い目線を向けられるだろう。何が言いたいか端的にまとめよう。怖いのだ。世間の目が。断固拒否をしようとした直前私はついに力尽きた。今にも死にそうな声で「少女よ、水を持ってないか」少女は片手に持ったビニール袋から水を取り出した「はい。あげる!」少女はきょとんとした表情を向け笑う。渡された水にしがみつき奪うように飲み干した。少し甘い香りがした。「凄い勢い」「はあッはあッ、ありがとう。さっきは失礼な事を言って申し訳なかった。命の恩人よ」「私命の恩人?!やった〜!でも失礼なこと?ん~?」何もわからないように振る舞う少女に私は少し呆れた。が命の恩人には変わりない。「君が気にしてないならいい」「えぇ何のことだろぉ」「さっきの水コンビニで買ったばかりだろう。普段なら他人に水を買ってやる余裕などないが今は別だ少女よついてこい。水を返そう。」少女は何も言わずに私についてくる。コンビニに入り冷房の効いた室内に私は天国を見た。「いらっしゃ〜い」ずいぶんと気安い挨拶と野太い声だなと私は目線をレジへ向けた。そこには濃い化粧にネイルを現在進行形で塗りたくるオカマがいた。度肝を抜かれているとオカマが口を開いた。「あら、さっちゃんじゃないの買い忘れ~?」問いに少女は答えた。「うんん。ちがーう。」なんと名前を知り合った仲がらだったのだ「そっちの人は~?友達?って年齢じゃなさそうね。もしかして彼氏~!?キャー!」「全然違う。さっき助けてあげたの私命の恩人だよ!すごいでしょ~!」「なによそれ。彼氏じゃないの~つまんない。まあでもゆっくりしていきなさい。外は暑いでしょ。」「ど、どうも」私はオカマのノリに圧倒されながら早々に飲み物売り場に行き水を二つ持って行った。彼女たちと言っていいのかは分からないが二人は私の事なんて忘れたかのように楽しそうに会話をし始めていた。水を二つレジに置くとオカマは私に話を振り出した。「今いくつなのよあんた」「28です」「あら見た目ほど年取ってないのね。年下じゃないの。」「お、おいくつ何ですか?」「レディーに年を聞くんじゃないわよ!常識でしょうが全く。」「す、すみません。」「あんたそのだらしない髭と髪何とかしなさい。普通ならこんな可愛い子見つけたら自分磨きするものよ。」私は困惑した。今まで自分磨きなどした事がない。生まれながらに神童ともてはやされ才が枯れたと言われた今日まで。文を書く以外何もしてこなかったのだから。「そう言われてもついさっき会ったばかりですよ!なあ!少女よ!」少女に助け船を求めたが意味はなかった。何故なら少女は自分が可愛いと言われた事ばかりに頭を埋め尽くされ嬉しかったのだろう照れていたのだ。「私可愛い子だって~嬉しい~」何もかもが馬鹿らしく感じた。私は何をやっているのか、水を買いに来たのだ。あともう一つ何か、そう。水道代。私は納入通知書をサッと置いた。「ん〜?あんた納期限切れてるじゃないの。家じゃ支払いはできないわよ。」「なんだと!?何処で払えばいいんだ!」「そんなの知らないわよ。あんたもしかして水止めらてるの?」私はプライドなど全て捨てたかのように正直に経緯を話す。「ええ、まあ。朝起きたら止められてました。」オカマが笑い出すと少女はきょとんとしていた。「え?何の話?」やはり不思議な女だ。いやバカな女だ。この話が出るまで出てもなお褒められた事にしか頭が動いていなかったのだから。やっと正気に戻ったらしい。「水?あ!買ってくれるの!嬉しい!」「私は借りを作りたくないのでな。オカマ!さっさとレジを動かせ!ネイルはもう乾いただろ!。」「オカマって呼ぶんじゃないわよ!シェリーと呼びなさい。シェリーと!」どう見ても位武蔵(むさし)だろ。と思ったが口にはしまい。何をされるか分かったもんじゃない。「はい、シェリーさん、レジを動かしてもらえるととても嬉しく思います。」「はいはい。それでいいのよ。」自称シェリーは手慣れた手つきでレジを動かし私に水二本を渡した。「少女よ。水を返そう。」水1本を渡すと少女はとても嬉しそうにした。「やったー!私の水帰って来た~」余りの可愛げに思わず頭を撫でてしまった。「ん~?何してるの~?」「気にするな少女よ。」「あんた意外と手出すの早いわね。」「失敬な!おいとまさせてもらう。あの地獄のような熱気に飛び込むのは勇気がいるが。」「もう帰るの?ゆっくりしていきなさいよ。」私はオカマの声を無視して自動ドアを開く。「私も帰る~また来るね!シェリーちゃん!」「いつでも来なさい。」熱気と蝉時雨が私たちを襲う。「少女よ。帰り道はどっちだ。ちなみに私は左だ。」「私も~!」少女と私は歩いていく。「少女よ。家は近いのか?」「うんん。遠い。三十分ぐらい。」「私もだ。暑いな少女よ。」「暑いねえ。」少女は再び白線を歩く。とても楽し気に。「おじさん~名前なんて言うの?」「おじさんはやめなさい。私はまだ28だぞ。」「ふふふ、そうだね。ごめんね。」「分かればいいんだ。名前は、平石和人(ひらいしかずと)だ。」「和人さんか〜私ね。私は早乙女沙月(さおとめさつき)さっちゃんて呼んでね!」「呼ばぬよ。沙月でいいではないか可愛らしい名前だ。」「ええでも皆さっちゃんて呼ぶよ」「そうか。だが呼ばん。そこまで仲良くないからな。」「仲良くないだって酷い~!」「そうだろ。さっき知り合ったばかりだ。」「私と一度でも話したら友達です。」「そのコミュニケーション能力には負けるよ。」この少女はまたこうやって友人を増やしていくのだろう。私とは真逆な性格だ。そんな事思っていると少女は口を開いた。「大人になるってどんな感じなの?」私は戸惑った。大人。大人か。「分からん」「そっか。」彼女はまた能天気な少女へと戻った。無言の間ができ数十分が経った頃私は不思議に思った。この少女はいつまでついて来るのだろうか。「少女よ。家は何処だ。」「ん~?なんで~?遊びに来たいの?」「そうじゃない。もしそうだとしても気安く男を家に上げるんじゃない。」「そっか。他の男の人はすぐ遊びに来たがるんだけどな~」「そうか。」どうでもいい事だ。この少女がどんな奴らと関わろうと。だが私は。私は何を思っているのだろう。少女よ。君はどんな人生を送っているんだろう。この感情はいったい何なんだろう。「分からないな。」「何が~?」「少女よ。見え方は違えど君は私よりある意味大人なのだろう。」彼女は微笑みながら言葉を出す。「よくわかんないよ。」気づけば自宅のマンションまでついていた。「私の家はここだ。」「えええ!奇遇!おんなじマンションなんだ!」私は彼女の言葉に度肝を抜かれた。「な、なんだと!?い、いったい何階に住んでいるんッ」「あああ!やっちゃった!私水道代払うの忘れてた!じゃあね!また遊ぼうね~!」少女は慌てふためき私との会話を放棄し走り抜けて行った。私は早々に部屋に戻り世間と言うのは狭いものだと。思い耽る。偶然出会った少女は同じマンションの住人だったとは。にしても何階に住んでいるのだろう。どうでもいい事を考えながら私はカップ麺の蓋を開けた。水は出なかった。炎天下を歩いたのに水道問題なんも解決してねえ!「はあ、今日は疲れた。明日何とかしよう。」布団に寝転び息をする。すると隣の部屋の鍵が開く音がした。私は思った。もしや少女は隣の住人なのではないかと。私は慌てて玄関に向かい扉を開けた。目の前にいたの。見覚えのあるオカマの姿だった。「あらやだ。あんたお隣さんだったの!」ああ神よ。少しでも隣人があの子であればなと淡い期待を向けていた私への罰なのか。シェリー、俺は歌う、愛すべき者全てに。早朝。時間は12時くらいか。いつも通りの生活が戻った。世間への愚痴をこぼそうと思ったが少し窓の外を眺めてみた。いい天気だ。私はふと下を向く。あの少女はまた白線を歩いている。
あの少女はまだ白線を歩いている 愛嬌 @aikyouganai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あの少女はまだ白線を歩いているの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます