あの少女はまだ白線を歩いている
愛嬌
第1話 あの少女はまた白線を歩いている。(前編)
暑い、暑い暑い熱すぎる。時刻は何時頃だろうか。暑い部屋。大きさは六畳のワンルーム。エアコンは潰れた。一昨日リサイクルショップに行って買ってきた扇風機も昨日の寝苦しい夜には白い旗を上げ。もとい白い煙を上げて敗北宣言と来たもんだ根性なしメ。誰に似たのか、どうせ元の持ち主に似たのだろう。俺を見習え。窓を開けノートパソコンに向かい目にも止まらぬ速さで小説を書き続けている。と言う体で敷きっぱなしの布団に寝転ぶこの私の姿を。ろくに売れない小説を書き続け、どうしたものかと毎日蚊の鳴くような声で発している私の姿を。「あー人生なんてつまらない!もしこの世が終わると言うニュースが流れるのであれば俺は感極まり喜んで世界の終わりを見届けるだろう」毎日のようにこんなろくでもない愚痴を大声でこぼしている。部屋の壁を反響し開けた窓に声が流れていくのが分かる。不審者にも程がある。時間は日差しと体感を頼りにすると昼ぐらいだろうか。そんな時間帯に毎日のように人生がつまらないなどこの世の終わりを望むような声が近所から聞こえてくる。不快だな。まあだがご近所さんは文句の一つも言ってくることはない。そもそもご近所さんなんて居るのだろうか、挨拶をしたこともされたこともない。。。。気になって来てしまった。今からにでも挨拶しに、いやぁいや。この地で暮らし始め早二年。今更菓子折り持って「初めまして~隣に住まわさせていただいております。平石と申します。」なんて気色が悪いにも程がある。二年間もの間。面識が無かったお隣さんから突然貰う菓子折りなんて、俺なら捨てる。よし却下だ。冷静に考えれば人生がつまらないなどと他様々な痛々しい発言をしていると言う事実を相手方に把握されているだろう状態での顔合わせなど一種の拷問に等しい。ギリギリ残ってる自尊心が拒絶する。
突然鳴り響く腹の音。腹が鳴った。腹が鳴ったのならば食べなければならない。いつもながらマイペースな行動。主食はカップ麺。体調面に対する気遣いはすることもされる事もない。理由は言わずとも分かるだろう。いつぽっくり行っても良い身分な訳だ。言い方を変えよう。自由なのだ。さあ自由を公言している私だが。今自由を奪われようとしている。水を沸こうとノブを捻るが一滴たりとも水が出ない。「しまったな」思わず口からこぼれ出る言葉。慌てて玄関に向かいドア右側にある本来なら鍵などを置くであろうスペースに山積みにされた手紙類を掘り返す。見つけてしまった。支払い期限を二ヶ月も過ぎてしまった水道代の請求書を。唖然とした表情を大量の汗を流しながら浮かばせる。冷静に現状把握をしよう。今は何時か、真夏の昼頃だ。お隣さんにあいさつ、、違う。そうじゃない。喉の乾きを潤わすために水を。水が出ない、、水が出ない!?そうか、そうか。なるほど。・・・相当ヤバい。焦った表情掲げて扉を開く。ガチャリ。耳をつんざく蝉時雨。さっきまで鳴いていなかった蝉が合唱を始めた。虫の知らせか。不安が襲いかかる。何かを忘れてしまっている気がする。何か大切な。
扉を戻し早足でズボンを取りにいく。真顔も真顔そのまた真顔で。いや。呆れた表情でズボンを履いた。熱いアスファルト。踊る陽炎。今にでも熱中症で倒れる自信がある。起きてから水分も食料も一切取らずに筆を動かして。いや。普通にゴロゴロしていたか。水分を取っていない事には変わりない。早くコンビニに行き水のペットボトルを100本は買おう。いや。そんな金はない。水道代を払い一本を買って娘のように大切に扱おう。娘など居たことはないが。コンビニまでの距離は徒歩約30分。近いとは口が裂けても言えない距離だ。そんな距離を何故徒歩で向かうのか、そうだ。着くまでに一つ、話をしよう。一昨日起きた私の悲劇を。いや。私たちの悲劇を。冒頭の方でも話した通り一昨日私は扇風機を買いにリサイクルショップに向かった。徒歩約1時間。それを知った私は唖然とした。当然だろう、向かうだけならなら未だしも。百歩譲って許容しよう。だが、私は向かい扇風機と言う重荷を背負って帰って来なければならない。馬鹿らしい。そんな距離を真夏の炎天下を歩いて向かうバカが何処にいる。いや、いるのかもしれない。しれないが私はそんな自分を追い込んで気持ちよくなるような変態マゾヒストでは断じてない。訳だ。私は相棒のメロス号に乗り徒歩1時間を35分に変えたのだ。名前はメロス。だがマッハ15なんて出るはずもない。ただの自転車だ。平均スピードは15キロ。頑張っても32キロが出て良いほうだろう。何故メロスと名付けたか。早くなりそうだったからだ。当たり前だが、実際は早くなんてならない。当然だ。当然なのだ、だが名前はかっこいい。それでいい、それだけでいい。いやそれがダメだったのか。私とメロス号は温度に逆らおうと。いや神に逆らおうと、真夏の炎天下に立ち向かった。勇敢なメロス。体感温度おおよそ1082度。私たちを凄まじい熱気と不協和音が襲い来る。汗滲むアスファルト。見つめ視界が歪む。倒れそうになり足が止まった。メロス号が私に語り掛ける。こんな所で諦めていいのか!と。私たちはまだ行ける!と。言葉ではない言葉で確かに語りかけてきたのだ。行くぞメロス号、私たちはまだ飛べる。やっとの思いでたどり着き最近できたであろう見栄えが無駄に良く無駄にデカいリサイクルショップに恐る恐る潜入した。そこには若い店員がゴマをすりながら待ち構えていた。「いらっしゃいませ」気味が悪いほど綺麗な笑みとよく通る声で私に先制攻撃を仕掛けて来た。開店してまだ数日だと言うのにあまりの客入りの悪さのせいか苛立ちを内に秘めながら私を絶対に逃がすまいと三日月目の奥に見えるどす黒い感情に私は動揺していた。挙動不審になっていた私を見てカモだと思ったのか店員の男は透かさずすり寄る。「本店でのご来店は初めてですか?お探しの物がありましたら宜しければお手伝いさせていただきますが!」駄目だ。ここできっぱり断らなければ私は店員が進めるであろう馬鹿みたいに高い扇風機を買わされる羽目になる。それだけは、それだけは避けなければならない。「せ、扇風機」何故私は答えてしまったのか、話しかけられた時点で私の敗北は確定していたのだ。優しく声をかけられながら、いえ結構です。一人で探すので。なんてハッキリ物が言えるような人間ではないのだ。こんな心の葛藤もあっけなく私は店員が勧めて来た訳の分からない自称便利機能が山積みの扇風機を買わされたのだ。メロス号と共に夏の猛暑に立ち向かい勝利を勝ち取ったはずなのに。扇風機と言うなの勝利を手に入れたはずなのに。私は敗北感を背負っていた。いや無駄に重い扇風機を背負っていたのだ。メロス号を発信させて数分、敗北感にさよならを告げていた頃。この話をする原因になった悲劇が私たちを襲った。大きな音と共に私と扇風機を乗せたメロス号はぐらりとバランスを乱す。どうしたのかと後ろのタイヤを見ると、メロス号は悲惨な姿に、いや。ただ単にタイヤがパンクしたのだ。メロス号!どうしたんだ!どうしたんだ!気づいてやれなかったがメロス号に熱いアスファルトが経年劣化のタイヤに止めを刺したのだ。こいつを手に入れてもう4年が経つかと、時の流れと自身の老いに少し寂しさを感じた。まて。そんな事を考えている時ではない。動けメロス号。私たちはまだいける!一段と重くなったペダルをこぎ、ゆっくりと進む。さっきまでとは天と地の差なスピード感と足の負担に心が折れた。私はメロス号を邪魔にならない所に止めて考える。仕方ない。メロス号は置いて行こう。だがこの扇風機はどうする。残りの道は徒歩で約35分ほど。これを担いで私は家まで帰らなければならないのかと考えれば考えるほど絶望が私を襲った。ここから先の話はただ地獄のような日だったとだけ言っておこう。決して語るのがめんどくさくなった訳ではない。決してだるくなった訳ではな
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