第3話 攻撃力とチャンネル登録者数

俺は心のどこかで、ここにいる意味

そして新しい人生を始めるチャンスがここにあると確信した! たぶん...


「俺にできることは何か?」

俺は心の中で根拠のない自信に満ち溢れがら自問した。


セオドアじいさんと別れた後

彼に勧められた武器屋へ向かった。


今すぐ武器が必要だと感じた。


街の中心部を歩いていると

ひときわ目立つ石造りの建物が見えてきた。

看板には「グレンの武器屋」と書かれている。


「よし、ここだな…」

俺はドアを押し開け、中に入った。


店内には剣や盾、弓や矢など

様々な武器が所狭しと並んでいた。


カウンターの奥には、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの店主が立っていた。


彼が俺に気づき、力強い声で声をかけてきた。

「いらっしゃい、何をお探しかね?」


「強い武器が必要なんです」

俺は少し緊張しながらも答えた。

店主はうなずき、棚からいくつかの剣を取り出してカウンターに並べた。


「これらは全て高品質の剣だ。どれも戦いに適している。君の手に合うものを選ぶといい」


俺は一本ずつ手に取ってみた。

剣の重さやバランスを確かめながら、自分に合うものを探す。

しばらくすると、一振りの剣が手に馴染む感触を感じた。

剣を持ったこともない俺だが、これが何か意味のある出会いのような気がする。


それは美しい銀色の刃で、握りもしっかりしている。


「この剣がいいです」

俺は決意を込めて言った。


店主は微笑みながら頷いた。

「いい選択だ。その剣は『銀の閃光せんこう』と呼ばれる名剣だ」

「へー」

「実はな。その『銀の閃光』は魔王が長年、大切に隠し持っていた伝説の剣なのだよ」

「え?そんな物がどうしてここに?」

「ああ。昨年、勇者レオンハルト様が魔王討伐で、魔王の側近である漆黒しっこくの騎士団長ヴァルガスを倒した際に手に入れたそうだ」

「魔王の側近を!?すごい」

「そう、勇者レオンハルト様は人間界最強なのさ。で、レオンハルト様の使いが軍事費調達のために、うちに持ってきた。その時買い取らせてもらった物なんだよ」

「そうなんですね!」

「軽くて扱いやすいが、鋭さは群を抜いている。まあ、しかし。みんな興味は持ってくれたが、誰も手に触れようとしなかったよ。手に馴染まないと、かえって自分に危険だからね」

「ふーん」

「君がそれを選んだのは何かのえんかもしれん。どうやら、しっかりと馴染んでいるようだし」

「確かに..」

俺は『銀の閃光』を軽く振ってみた。確かにこの剣、俺の手と一体化したように振り心地がいい。

「ただ、ちょっと値が張るぜ」

「いくらですか?」

「49万ジュエルだ」

「?」

(あれ?この世界の通貨ってどうなっているんだ?)

「君だったら、この金額払えないこともないだろう?」

「え?どういうことですか?」

「うちの決済システムで君のクレジット信用スコアを見るとその金額は払えなくもないって判定している」

「クレジット信用スコア?」

「クレジットカードを作るときに、審査が必要だろ?その時に使われる金融システムなんだ」

「...」

(なるほど、こっちの世界にもクレジットカードってあるんだ)

「これは君の支払い能力も確認できるのだ。何か高価なアイテムとか所有していないか?」


店主に問われると、俺は自分のアイテムボックスを確認する。

すると


理不尽ポイント 1個


というアイテムがある。


(何だこれ?)


説明文を確認すると。


どうやら生前、理不尽な人生を送った人だけに与えられる特別なボーナスらしい。


(た、確かに..俺の人生は間違いなく、日本史上トップレベルに理不尽だったかも知れない...)


「よし。使ってみるか」


俺は理不尽ポイントを使った。


すると50万ジュエルが俺の口座に入金された。


「これで買えるかな?」

「ああ、このQRコードをスキャンしてくれ」


(バーコード決済もあるのか...)

俺はスマホでQRコードをスキャンした。

すると49万ジュエルが支払えた。


「毎度」

「こっちにもスマホ決済ってできるんですね?」

「ん?どういうことだ?」

「あ、いや!別に...」

「まあ、いいや。ところでその剣、今ここで、装備してみなよ」

「はい」


俺は名刀『銀の閃光』を装備した。

すると店主は驚愕した声で

「すげーじゃねーか?攻撃力が456だってよ!」


「?」


俺はやたらと大きな声を出されたことに少し引いた。

そんなことにお構いなしの店主は


「これはすげーよ!」

「そ、そうですか?」

「普通は攻撃力10以上行くことは滅多にない」

「そうなんですか?」

「ああ、どんなに訓練を重ねた屈強の戦士でも、攻撃力3,4がいいところだ」

「え?」

(みんな、そんなに弱いの?)

「人間界で攻撃力20を超える戦士は勇者パーティしかいない」

「!?」

「我らの英雄、リアナ様も攻撃力35だ」

俺は期待に胸を膨らませた。

「じゃ、じゃあ、俺って、それ以上に強いってことですか?」

「いや。単純にそうではない」

「まあ、そうでしょうね..はは(苦笑)」

「敵に与えるダメージ数は攻撃力だけでは厳しいんだ」

「どういうことですか?」

「攻撃力以外にバフが必要だ。バフが大きな鍵となる」

「バフ...ですか?」

「ああ」

「バフをかけるにはどうすればいいのですか?」

「YouTubeのチャンネル登録者数を増やすことだ」

「は?」

「自らの攻撃力にチャンネル登録者数を掛け合わせた数値がダメージ数になるんだよ。これがバフだ」

「な、なるほど...(苦笑)」

(俺が最も苦手とする2つのワード『再生数』と『チャンネル登録者数』)

「リアナ様はチャンネル登録者数100万人のメガインフルエンサーさ」

「登録者100万人!すごいですね!」

「ああ。だから相手に与えるダメージ数は攻撃力35x100万人で3500万。これを1撃で敵に食らわすことができる」

「すげ〜」

「一方、君はどうやらYouTuberのようだが、チャンネル登録者数はゼロ」

「む..」

「だから攻撃力456あっても、それにゼロをかけたらダメージ数がゼロになってしまう」

「ガーーーン!!攻撃力456じゃないの!?」

「違う!だから、チャンネル登録者数を1人でも多く確保することだ」

「は、はい..」

「君は攻撃力が突出しているから数十人のチャンネル登録者数でかなりの戦闘能力を得ることになる」

「わかりました...」


なんて事だ。

こっちの世界でもチャンネル登録者数が全てを決めるのか...

あっちの世界でも、俺はチャンネル登録者数と再生数がゼロで死刑が確定してしまった。


俺は肩を落とし、店を出た。


最後に聞きたくなかった言葉。


『チャンネル登録者数』


俺は投稿動画の再生数がゼロだ。

それなのに、さらに高い壁の『チャンネル登録者数』。

これは俺にとって悪夢だ。


もう一つ気になることがあった。


「ところで、先ほど支払った49万ジュエルって日本円に換算するといくらなんだろ?」


俺はスマホを手に取り、ジュエルという通貨を調べた。

すると


「う..何じゃこりゃ?」


説明文に信じられない記述があった。


「1ジュエル=1万円」


つまり、俺が支払った49万ジュエルは日本円に換算すると49億円だった。


「やばい、クーリングオフってできるのか?調べなきゃ」


20分後、この世界にはクーリングオフという概念がないことが判明。

さらに武器などの軍事関連商品の返品行為は重罪が課せられるという、おかしな法律があることも判明!


「くそ!最初に調べておくべきだった!」



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