第41話 大垣乃亜の直観
詳細は昼休みに、と大垣が言うので俺たちは昼休み、文芸部室兼生徒会倉庫前の廊下に集合していた。
「本当は駄目なんだからね、昼休みの部室利用」
「堅いこと言うなよ。Y1粉砕のためなんだ」
「そうですよ、梨々子先輩。正義のためならおおよその犯罪は許されるんです。中国の古いことわざで愛国無罪っていうんです」
愛国無罪はことわざじゃなくて四字熟語ではないのかな、大垣。意味も少し違うと思うぞ。あと、それ古くないから。20世紀になってできた言葉だから。
「仕方ないわね」
軽くため息をついた後、梨々子が部室の鍵を開けた。パイプ椅子を広げ、それぞれの定位置に座る。
「とりあえず、ランチしながら大垣さんの話を聞きましょう」
よく考えたらなんで梨々子の椅子があるんだろ、この部室。
「うわーこれが梨々子先輩手作り弁当ですか! だし巻き卵、ピーマンとニンジンのなんか綺麗なの、そして唐揚げ! トドメにタコさんウインナー付き! 絵に描いたような彼女弁当ですねぇ!」
大垣、タコさんウインナーをガン見。
欲しいのか大垣。あげないぞ。俺はこう見えてもタコさんウインナー大好きなんだ。特に丸食フーズ精肉部謹製赤ウィンナーで作ったタコさんウインナーがな。
案の定大垣は「得能先輩のタコさんと大垣の冷凍ミートボール、交換しましょう! 安価な加工肉同士、友好を深めましょう!」と交換を申してできた。もちろん却下だ。
「大垣さん、タコさんウインナー、私のをあげる」
「あ、ありがとございます、梨々子先輩! 梨々子先輩は神様です! 得能先輩は悪魔です!」
「で、いったい誰なの、Y1? あと、どうやって見つけ出したの」
「それはですね」
ウインナーを頬張りながら大垣が答える。
「Y1実行委員会って、Xにアカウント持っているじゃないですか。その発言を徹底的に洗ったのです。様々な検索コマンドを駆使し、通常では見ることも読むことできない、Xがツイッターだった時代の過去発言まで読みましたです!」
いつの間にそんなことやっていたんだ大垣。
「素晴らしいわ、大垣さん。何もしない碧太とは大違いね」
微妙に俺をディスるな、梨々子。
「しかし調査は困難を極めました。奴ら、なかなか用心深いのです。過去発言のどこかに誤爆がないかと調べましたが、ありませんでしたし。映り込む風景も場所を特定しにくい場所ばかりでした。それでも大垣、頑張りました! すんごくがんばって突き止めたのです! ふんぬ!」
自慢げに大垣が言った。
「凄いわね、大垣さん」
「はい、大垣は凄いのです」
えへん、と大垣が胸を張る。
「では発表します。Y1の正体! それは……ドゥルルルル」
こいつ、口でドラムロール始めたぞ。
「デデン! じゃじゃーん! サブカル研究会なのです!」
「サブカル研究会!?」
「はい、そうです」
思わず叫んでしまった。
「大垣、それ、本当にそうなのか?」
「はい。大垣的には98%以上の確率でY1実行委員会イコールサブカル研究会です」
……サブカル研究会って、遠藤がいる部活じゃないか。
確かにあそこには最新機種のパソコンが並んでいる。ゲーム開発班もあれば、ウェブプログラミングの達人もいる。校内で一番PC並びにウェブスキルがある部活動だ。
だが一方で最も女性と縁の無い部活ともいえる。たしか部訓は「2次元以外の女性に興味なし。我がオタク人生に一片の悔い無し」じゃなかったっけ。
「くどいようだが、本当なんだな?」
「はい。くどいようですが大垣的には98%以上の確率でそうです」
なんてことだ!
俺の親友、遠藤龍一郎が所属するサブカル研究会がY1実行委員会だったなんて!
「すばらしいわ、大垣さん。今年のMVPは大垣さんに決定ね。そっか、サブカル研究会がY1の根拠地か。サッカー部じゃないんだ! 共通点はサとカだけ!」
「……」
「どうしたの、碧太。元気ないじゃない」
ああ、そうだよ、元気ないよ。
だって……サブカル研究会なんだろ?
そこって……遠藤がいる部活じゃん。
オタクという意味では純真爛漫な遠藤が……そんな卑劣な集団の一員だったとは。信じられない。信じたくない。
そっと大垣に視線をやる。
大垣よ。覚えているか、遠藤龍一郎。小学校と中学校で図書委員活動を共にした、お前とは「知り合い以上幼馴染み未満」の遠藤龍一郎を。あいつ、今サブカル研究会の部員なんだぜ?
俺はとても彼がY1関係者とは思えないんだ。お前も……そうだろ? なのになぜ……。
嘘だと言ってくれ。せめて、遠藤は関係してないと言ってくれ。
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