第40話 木山梨々子の驚愕

「そうか?」

「そうよ。そして目が……うるうるしてるというか……なんていうか」


 視線を合わせず、もじもじした声で答える。


「はっきりしないな」

「恋する乙女? そんな感じだったのよ」

「ちょっと待てよ。誰に恋してるんだよ。あの小学校、女子校だぞ?」

「碧太よ。碧太に恋しているって言いたいの」


 何で俺なんだ? 俺、高校生、15歳だぞ? ゴールデンウィーク途中の5月5日が誕生日だからまもなく16歳だけど。


 対して杏奈は小学校5年生、10歳。誕生日はなんとクリスマスイブの12月24日。誕生日とクリスマスが一緒でよかったなと言ったら「よくありません」と返された。


 15歳と10歳。どう考えても恋愛成立しないだろ。何を言ってるんだ梨々子は。


 だいたい杏奈は妹。義妹。俺の家族、兄妹、なんだ。


「恋人ごっこしてるからって恋愛脳になりすぎだぞ」

「なによ、恋愛脳って。そんなのじゃない」

「なら聞くぞ。梨々子さあ、小学生の頃、高校生のことどう思ってた?」

「……うーん。おじさんとかおばさんとかかな?」

「おじさんおばさんはちょっと言い過ぎだけど、でも、つまりはそういうことだ。小学生にとっては高校生なんて大人も同然。恋愛対象になんかなるはずない」

「確かに……そうだけど」

「だろ? なのに恋愛脳だから小学生が高校生に恋するなんてエロい発想になるんだ」

「え、えろい!?」

「そうだ。いっつも俺のことエロいって言うけど、今の梨々子の方がよっぽどエロいぞ」

「私、碧太のことエロいって言ったこと無いけど!? えっちとは言っても!」

「そうだっけ?」

「そうよ!」


 そうかもしれない。俺のことエロいって言うのは親父だけかもしれない。

 どっちにしても、エロいもえっちも似たようなものだ。


「とにかく、杏奈と俺は恋愛関係じゃない。本当の兄妹になるべくゆっくり歩いてる。そういう関係だ」


 学校が近づいてきた。いつもの如く俺と梨々子に視線が集まるが、先週ほどではない。


 俺と梨々子の関係はだいぶ認知されたようであり好奇の視線はかなり減った。


 減らないのは俺に対する殺意と怨嗟のこもった視線レーザーだ。


「おっはよーございまーすっ!」


 大垣だ。校門の前で俺たちに盛大に手を振っている。


「うえぇ! 噂通りのラブラブぶりですねぇ! 誰がどう見ても一線を越えた関係にしか見えません! 朝からお熱い!」


 校門前でそんなことを叫ぶな大垣。過去最大に俺たちに視線が集まったではないか。


「ちょっと、大垣さん! いい加減なこと言わないでくださる? 私と碧太、一線は越えてないわ!」

「え? そうなんですか? てっきりそういう設定だと思っていました。だって……梨々子先輩、得能先輩におっぱいくっつけてるじゃないですか? それって、得能先輩におっぱいは許してるってことですよね? すでにモミモミちゅぱちゅぱされちゃったアピールですよね?」

「されてない! まだ胸は許してないっ!」


 顔を真っ赤にして梨々子が抗議する。


 梨々子よ。校門前でそんなセリフを言うってことの意味、わかっているよな?


 大垣のセリフで更新された視線集中の数、今更新されたぞ。「胸は……まだだと? ならばどこまで許してるんだ!」「殺す! あの男を殺して俺も死ぬ!」「梨々子さんの貞操を守れ!」等々不穏なセリフがボソボソ俺の耳に届く。


「そーなんですね。大垣、認識改めます。それはそうと、今日はとっておきのニュースがあるんですよ! だからこうして朝から校門前でお二人を待ってたんです」

「なあに、ニュースって」

「ふっふっふ」


 大垣が不気味に笑う。


「大垣、こう見えてもネットは得意中の得意、特にSNSはSNS依存じゃないかってくらい、得意なんです! 中学時代は特定班として大活躍していました!」


 それ、自慢するところか?


「大垣、ついに特定したんですよ! Y1の中の人を!」

「「えええええ!!」」

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