第23話 幼馴染みは共闘する

 梨々子に佐藤が視線を投げかける。


「噂によればY1グランプリ実行委員会の正体はサッカー部。噂を信じてサッカー部を調べていた。そういうことなんじゃないのかな、副会長さん?」

「な、なんのことかしら?」

「とぼけるんだ、副会長さん」


 佐藤が足を一歩踏み出し、俺たちの方へ近づく。


「副会長さんって、Y1粉砕を公約に副会長に当選したよね。だけど今に至るまで粉砕できないでいる。今年もY1の季節がやってきた。焦る日々。そこにサッカー部がY1の本拠地という噂が流れてきた。これはチャンス。サッカー部を調べよう。そいうところかな?」

「ち、違う!」


 グーにした手をぶんぶん振って梨々子が訴える。クール副会長の仮面が剥がれてきたな。


「そんなに興奮しないでくれるかな。副会長さん。ボクは貴方の味方だ」

「味方? ふん、よく言うわね。Y1の黒幕のくせして」


 梨々子が突っかかる。


「白状しなさい! サッカー部がY1実行委員会なんでしょ? 実行委員長は3年のキャプテン、もしくは副キャプテンの貴方なんでしょ?」

「やれやれ。こまった副会長さんだ、そんなデマを信じるなんて。落ち着きたまえ。そしてボクの話を聞いてくれないか?」

「なに? どんな言い訳をするつもり?」

「僕の姉はね、初代Y1なんだ」

「アナタの姉が……初代Y1?」

「そう」


 佐藤がパイプ椅子を3つ取り出して広げた。


「座れよ」


 促されて俺と梨々子は座る。それを見届けて佐藤も座った。


「副会長さんは、かつて我が校の文化祭でミスコンがあったことは知ってるかな?」

「いいえ、知らないわ」

「実はあったんだ。令和の時代にミスコン。いくら伝統だからっておかしい。生徒会長だったボクの姉はそう思った。だから反対を押し切って廃止したんだよ。それを不満とする男子生徒が始めたのがY1。そして報復として姉を初代Y1グランプリにしたんだよ」


 そんなことがあったとは。知らなかった。


「YはヤりたいJKのYじゃなかった。口に出すのもおぞましい、女性を軽蔑しきった単語のYだった。ボクの姉は最大の侮辱を与えられたんだ」

「それって、もしかして……や、やり……」


 梨々子が何か言おうとしたのを、佐藤が手で止める。


「それ以上は言わないでくれるかな、副会長さん。女性が口にすべき言葉じゃない」

「……わかったわ。言わない。碧太も言っちゃ駄目よ?」

「ああ」


 言われなくても分かる。性的に奔放かつ淫らな女性を意味するカタカナ四文字だろ、ヤで始まる。


「今も最低だけど、最初はもっと最低だったんだよ。Y1は」


 佐藤が唇をかみしめていった。


「高校入学後、ボクは極秘でY1の調査に乗り出した。その結果、ある程度まで正体に迫ることができたんだ。だから、デマを流された。サッカー部がY1ってね」

「どうしてそんなデマを流されるの?」


 梨々子が聞く。


「ボクを陥れるためにさ。Y1撲滅に動いているのは副会長さんだけじゃない。実は教師たちも動いているんだ」

「そんな話聞いたことないけど」

「そりゃそうさ。教師たちは極秘で動いているからね」

「それとサッカー部に関するデマがどう関係するんだ?」


 俺が疑問を挟む。


「実行委員のヤツらはデマを流すことでボクを犯人に仕立て上げようとしているんだよ。やがて教師はボクをY1首謀者とみなす。副キャプテンがY1首謀者となればその部活は活動停止になること必定。つまり、ボクに捜査をやめろ、でなければサッカー部を潰すぞって脅迫かけているんだよ」


 なるほど。どこまで卑劣な連中なんだ。


「副会長さんも気をつけた方がいい。奴らは狡猾で汚い。慎重に動いた方がいいよ」

「そ、そうね」


 いつになく弱気に梨々子が返答した。


「お互い目的は一緒のようだ。これから共闘しようじゃないか」


 俺と梨々子は頷く。


「というわけで、LINE交換しておこう。情報共有は大事だからね」

「碧太、佐藤君とLINE交換しておいて」

「梨々子はしないのかよ」

「私はむやみやたらにLINEを増やさない主義なの」


 どんな主義だ。


「そういえばキミの名前を聞いていなかったな、碧太くん」

「知ってるじゃないか」

「それは下の名前だろ。名字は何て言うんだい?」

「得能だ。得能碧太。文芸部部長」

「2年生なのに部長なんだ」

「3年生がいないんでな」

「へえ」


 感情があるんだか無いんだかよく分からない笑顔で佐藤が言った。


「じゃ、何かあればLINEで。残念ながらボクはあまり派手に動けない。脅迫されているからね。ところで、得能くんは副会長さんの彼氏なんだよね?」

「へ!」


 いきなり梨々子との関係を聞かれ、一瞬返答に迷う。


「あ、ああ。そうだ」

「……ふうん」

「なんだよ。なんか言いたいことがあるのか?」

「別に」


 妙にニヤけた顔で佐藤が言った。


「さ、そろそろここを出よう。どこでY1の奴らが見張っているか分からない。Y1撲滅にご執心な副会長さんと初代グランプリの弟が一緒にいるのがバレたら面倒だ。時間差で出よう」


 確かにそうだ。


「時間差って、佐藤君は鍵持ってないでしょ? だって私が借りているもの」

「それが大丈夫なんだな」


 佐藤がポケットから鍵を取り出した。


「ちょ、もしかして、合鍵!? 部室の合鍵作成は校則違反だけど!?」

「そんな校則、誰も守ってないよ、副会長さん」

「碧太も? 碧太もなの!?」

「俺は守ってる」


 梨々子が佐藤に向き直る。


「普通なら看過できないけど、見なかったことにするわ」

「ありがとう。そうしてくれると助かる。ボクも生徒会副会長がサッカー部の部室に彼氏と勝手に入り込んで、ナニかしていたことは見なかったことにするね」

「ナニって何!? 何もしてないんだけど!」

「そんなの、誰が信じるかなあ」

「ぐぬぬ!」


 爽やかな笑顔とともに佐藤が出て行った。

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