第18話 ユニバデートと鉄研
「それで梨々子先輩と大阪旅行に行くことになったわけですか」
「ああ」
俺は梨々子と大阪にあるユニバーサル・スタジオジャパンでデートすることになった。
梨々子曰く「いい? これは碧太が誘ったんだからね? 碧太が大阪に行こう、ユニバに行こうって行ったんだからね? 碧太が計画しなさい!」とのことで、俺はさっきから部室でスマホ片手に計画を練っている。
「得能先輩、少しは文芸部らしいことしましょうよ。これじゃ鉄研です」
小テストの裏紙に殴り書きされた旅行プランを見て大垣が嘆く。
「テッケン?」
「鉄道研究部のことです」
「俺が乗ろうとしているのは高速バスだが」
「四角くて鉄でできている公共交通はみな鉄道の仲間です」
とんだ暴論だな。
「大垣は文芸部らしく本でも読んでろ。俺はユニバ旅行プラン考えておくから」
「そんな急がなくてもいいじゃないですか。今は4月。どうせ夏休み、お盆にいくんでしょ? お墓参り兼ねてるんですから。まだ時間ありますって」
「誰が夏休みに行くと行った? ゴールデンウィークだ、ユニバ行くの」
「はあああ?」
大垣が素っ頓狂な声を出した。
「それは急すぎじゃないですか?」
「俺もそういった。だがな、大垣。よく考えろ。俺と梨々子はなぜデートすると思う?」
「えーと、それは2人が付き合っているフリをしている、つまり恋人ごっこをしているからです。より恋人っぽさを演出するためにデートをする必要があるからです」
「ご名答。完璧だ。で、俺と梨々子が恋人ごっこをしているのはなぜだ?」
「それはY1グランプリになるのを阻止するためです!」
鼻息荒く大垣が言った。
「そう。そしてY1グランプリは一学期中間テスト期間にノミネートされる。投票はテスト中。そして一学期中間テストは5月中旬だ。つまり、俺と梨々子はそれまでにデートする必要がある。テスト勉強などを考えるとユニバデートはゴールデンウィークしかないってわけだ」
「なるほど……」
大垣、納得。
「ということで俺は高速バスを検索する」
「頑張ってください。大垣は本を読みます」
姿勢を直し、大垣は読書。俺はひたすらスマホを検索。
「ううむ。圧倒的に夜行バスの方が安いけど……車中泊して朝大阪になるのか。ユニバで遊んで夜バスに乗って……翌朝帰着かあ」
いくら夜行バスが安いといえど、やはり大阪、ユニバ。地方高校生がふらっと行ける場所じゃない。おまけに高速バスは安い便から満席だ。
「得能君、いるかしら?」
入り口の方で声がした。梨々子だ。
「はい。そこに」
大垣が俺を指さす。
「なんだ梨々子」
扉の方に向かって返事。すると「よ、呼び捨て!?」
「あれが副会長の彼氏!?」
「よ、よくみえませーん!」と複数の女子の声がした。
「ふふ。そうよ。あの人が私の彼氏、得能碧太君」
「「「きゃー!」」」
黄色い声。校章を見るに1年生の女子だ。おそらく、生徒会を手伝うボランティア委員だ。
「ごめんね。備品チェックするの。部室、お邪魔するね」
「お、おう」
「では、おじゃまします」
長い髪をファサとかき上げ、颯爽と梨々子が部室兼生徒会倉庫に入ってきた。
「「「おじゃましまーす」」」
ボランティアの生徒たちも後に続く。まるでパンダかコアラを見るかのごとく俺を凝視しつつ。
「あの、得能先輩」
大垣が小声で話しかけてきた。
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