第13話 碧太は彼氏

「スクールバスあるんだ。さすが名門女子小学校だね」

「すごいよな」


 三人並んで歩き出す。やがてスクールバス停留場所に着いた。

 既に数名クラスメイトが待っていた。多くは母親か父親と一緒だ。皆さん身なりが良い。やはり金持ちが多いのだろう。


 その集団に混ざって杏奈ちゃんをバスに乗るまで待つ。そして見送る。それが朝の日課だ。


 程なくしてバスが来た。少女たちがバスに乗り込んでいく。扉が閉まる。バスがゆっくり動き出す。車窓から杏奈ちゃんが手を振った。俺も手を振る。


「いつもこんな感じなの?」

「ま、そうだな」


 実は違っている。いつもは杏奈ちゃんは手を振らない。バス停まで会話もない。やはり、昨日の夜少しだけ打ち解けたことが影響しているようだ。


 うん。いい傾向じゃないか。遠ざかるバスを見ながら俺は思った。


「じゃ、俺たちも学校に向かうか」

「うん」


 梨々子が手を差し出した。


「なんだよこの手」

「繋ぐの。決まっているでしょ? だって恋人ごっこ、なんだから」

「まだ学校まで大分あるぞ? 本校生徒誰もいない。意味ないだろ、こんなところで手を繋いでも」

「誰もいないと思っていても、どこかで誰かが見ているものなのよ? 学校近くでいきなり恋人ムーブになったら不自然。ごっこがばれちゃう。そしたら意味ないわ」

「それはそうだけど」

「分かったら、はい! 手を繋ぐ!」

「わーったよ」


 思いっきり恋人繋ぎしてやれ。


「これでいいんだよな?」


 どうだ梨々子? 朝っぱらから恋人繋ぎ。恥ずかしいだろ? 梨々子の真っ赤な顔を期待する。


 そんな俺の期待はあっさり潰えた。


「うーん。イマイチね」


 ニヤ。梨々子が意地悪い笑顔で俺を見た。


「何がイマイチなんだよ」

「碧太のその顔よ。どうだ、恥ずかしいだろう、ほれほれ、って顔してる」


 図星だ。鋭いじゃないか。


「そんな顔してる彼氏、いないわ」

「仕方ないだろ、彼氏じゃないんだ」

「ふーん。だったら」


 いきなり梨々子が腕を組んできた。


「こうしたら彼氏っぽくなるかしら?」

「ちょ、おま」

「ふふ。どう? 彼女っぽいでしょ? 碧太も彼氏っぽくなるかな?」


 梨々子が俺に体重をかける。押しつける体。腕に柔らかい感触。


 これって……アレだよな。アレ。梨々子にあって杏奈ちゃんにないアレ。


「どうしたの、碧太。なんか変だけど?」

「な、なんでもない」

「なんでもないわけないよね? 顔、赤いんだけど。どうして?」

「それは……」


 思わず視線が斜め下。梨々子と俺の接触部分へ。微妙な潰れ具合の梨々子の胸が視界に飛び込んできた。


 あう。


 いかん。いくら兄妹のように育った幼馴染みとはいえ他人は他人、年頃の女子だ。体が、感情が反応する。


「恥ずかしいの?」

「そ、そうだよ、恥ずかしいんだ」

「ふーん。恋人繋ぎと大して変わらないと思うんだけどなあ?」


 変わるんだよ。男子的には……って、ぐいぐい押すな、つーの!


「じゃ、行きましょ。彼氏の碧太!」

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