第12話 幼馴染みと義妹

 風呂から上がった。


 バニースーツは手洗い指定。だから入浴中にちゃっちゃと洗った。


 問題はどこに干すかだ。陰干し推奨。浴室かリビングに干すのがセオリーだろう。しかしバニースーツをそんなとこに干せる訳がない。杏奈ちゃんに見られたら変態認定されてしまう。


「俺の部屋……だな」


 バニースーツ片手に自室へ向かう。部屋に入ったところでスマホに通知が来た。LINEだ。


『ちゃんと洗ってくれた?』


 梨々子か。


 部屋干し中のバニースーツを写真に撮って梨々子に送った。


『部屋干しなんだ』

『ああ』

『お風呂場で干せばいいのに。浴室乾燥あるって言ってなかった?』

『妹に見つかったら面倒くさいだろ』

『妹? ああ、先月からいるんだっけね』

『乾いたら持って行く』

『着たりしないでよ』

『ああ』

『恋人ごっこ、忘れないでよ? 明日、一緒に登校するんだから』

『聞いてないぞ、そんなこと』

『今言った』


 朝から恋人ごっこかよ。面倒だな。


『7時半に碧太の家に行く』

『勝手に決めるな』


 返事はなかった。かわりに布団に入ってZzz……なスタンプ。


「ったく、わがままだなあ、梨々子は」


 まいいか。俺も寝るとしよう。



♡ ♡ ♡



 翌朝。


 インターホンが鳴った。梨々子だ。


『まだ? もう7時25分だよ?』


 インターホン越しに梨々子が言う。


「約束は7時半だろ?」

『5分前行動って言葉、知らない?』


 修学旅行かよ。


「どうしたんですか、お兄さん?」「ごめん、杏奈ちゃん。俺、もう学校行くから」

「私も行きます」


 杏奈ちゃんは既にランドセルを背負ってスタンバイしていた。

 そういえば杏奈ちゃん、いつもこの時間に家を出ていたんだっけ。


 杏奈ちゃんの小学校は名門女子校。なんとスクールバスが運行している。何カ所かあるバス停まで杏奈ちゃんは歩いて行く。


「おはよう、梨々子」

「おはよう……え? ええ!?」


 大きく目を見開き梨々子が杏奈ちゃんを見つめる。上から下へ視線が動く。その視線が怖いのか、杏奈ちゃんが俺の後ろに隠れ、ズボンの端っこをつかんだ。


「そんな目で見るな、梨々子。杏奈ちゃん怖がってるじゃないか」

「誰?」

「妹だよ。妹の杏奈ちゃん。言っただろ、妹ができたって。昨日だってLINEで喋ったろ? 忘れたのか?」

「わ、忘れてないわよ。へー……すごい……可愛い……」


 そーっと指を伸ばす梨々子。杏奈ちゃん、ますます俺の後ろへ引っ込む。


「触るなよ。女同士でもセクハラだぞ?」

「ご、ごめん」


 慌てて梨々子が手を引っ込める。背中のランドセルを見て梨々子が「小学生だよね? なんで制服なの?」と俺に聞くので、杏奈ちゃんの通う学校名を教えた。


「なるほど、私立の女子校か。あそこ、制服可愛いって有名だよね」


 有名なのか。それは知らなかった。


「誰?」

「この人は木山梨々子。俺の友達だ」

「友達……?」

「そう」

「ふうん」


 杏奈ちゃんが俺の背後から出てきて「得能杏奈です。はじめまして、お兄さんのお友達の木山梨々子さん」と挨拶した。


「は、初めまして。礼儀正しいのね。何年生?」

「5年生です」

「そっか」

「そろそろ行こうぜ。杏奈ちゃんがスクールバスに乗り遅れてしまう」

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