第6話 【梨々子視点】バニーガール

「俺が思うにだな、やっぱり梨々子は人使いが荒すぎなんだよ。それがモテない理由だな」


 妄想の中、夕日を背に碧太と熱い抱擁を交わしていた私は碧太の冷静なコメントで現実世界に引き戻された。


「見た目は悪くないし、もともとの性格も普通にいい。モテないはずはないんだ。なのに彼氏がいない。俺が知る限り告白もされてない。やっぱ分かるんだよ。梨々子が人使い荒いって」


 愛の言葉を待っていた私なのに、なぜか碧太にダメ出しされてしまう。


「失礼ねっ! 告白されてるわよ! 碧太が知らないだけで、両手で数え切れないほど告白されてるんだから!」

「そうなんだ。モテるんだな、梨々子。教室では猫かぶってるのか?」

「はあああ!?」

「ほら、俺と梨々子、幼馴染みだけど小学校以外同じクラスになったことないじゃないか。だからクラスでの様子知らないんだよな。だって、俺の知ってる梨々子は……」

「やっぱり碧太ってバカね!」


 バカ。碧太はバカ。


 空気読むとかできない。乙女心なんかちっとも理解しない。

 かといって私から告白とかあり得ないわ。なんか負けた気がする。


 こうなったら、絶対なってやる、生徒会長に! 生徒会長、好きなんだよね!? あのラノベの主人公、生徒会長だったものね!?


 高校1年生の秋、生徒会選挙。会長に立候補できるのは2年生だけ。1年生は副会長か書記、会計。副会長経験者はかなりの高確率で翌年生徒会長になる。


 私は立候補した。副会長に。そして当選。副会長になった。


 2年生になる直前、碧太に妹ができた。碧太のお父さんが再婚、お相手の娘さんと同居することになったそう。


 妹になるのは小学生の女子。義妹。学校は女子校。いきなりできた年下の妹に碧太は戸惑っていた。


 そして迎えた高校2年の春。生徒会副会長として倉庫兼文芸部室で備品チェックしていた私はバニースーツを発見した。


 え? なにこれ? 碧太の趣味? 流石にドン引きなんだけど? ていうか、これ、誰に着せようとしたの?


 本棚に目をやると飛び込んできたのはラノベ。『異世界転生したら妹がバニーガールでした。ついでに幼馴染みもバニーガールでした』全10巻。


 ちょっと待って。妹? 妹がバニーガール!


 目眩がした。碧太って……清楚可憐が好きなんじゃないの? 。


 妹が好きなの? そんなラノベ読むなんて。

 もしかして……このバニースーツ、義妹に着せるため買った!?


 そっか。義妹さんとそういう……関係なの? 相手、小学生だよ? 5年生になったばっかだよ? ガチでロリコン!? 碧太、変態!?


 ん? タグが付いてる。これ、新品?


 そっか。これ、未使用なんだ。まだ義妹さんはこれを着用していないんだ。


 私はもう一度本棚のラノベを見た。『異世界転生したら妹がバニーガールでした。ついでに幼馴染みもバニーガールでした』。


 キーになるのはバニーガールという単語。2回も出てきている。そしてバニーガールであるのは妹と幼馴染み。対象が絞られていない。


 つまり、碧太はバニーガールに興味があるのであって、特段妹に関心があるわけじゃないのでは? むしろ幼馴染みのバニー姿を見たいのでは?


 そうか。そうよね。碧太が小学生に欲情するはずはない。


 これ、きっと幼馴染み、つまり私に着せようとして買ったんだわ。


 バニーガールになって欲しいならそう言えばいいのに。碧太だって男子。やっぱバニー姿の私を見たいんだ。


 えっちなんだから。いいわ。これ、着てあげる。でも私から碧太を誘うのってやだな。私ががっついているみたい。そういうのは嫌。あくまで、碧太から私を誘って欲しい。告白して欲しい。


 どうしよう。バニースーツを着るいい理由ないかな……。


 あった。


 あるよ、バニースーツを着る理由!

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