第4話 幼馴染みは恋人つなぎ

 しばらくして、着替えた梨々子が部室から出てきた。手には紙袋。バニースーツを突っ込んであるようで、紙袋からうさ耳が飛び出している。

 

「これ、洗濯しといてね」


 紙袋を俺に押しつける。ほんわり、甘い匂い。


「なんで俺が?」

「碧太だからよ、そんなの。きまってるでしょ?」


 理由になってねえ。


「碧太はね、なにかと便利で重宝なところが取り柄の彼氏って設定なの。それだけの理由で私が付き合っている、そういう設定だから!」


 どうやらもう恋人ごっこが始まっていたらしい。しかし、その設定、あまりにも俺がかわいそうじゃないか? 


「はいはい」


 まあよい。引き受けたからには責任を持とう。


「匂いとか嗅がないでよ。着用なんてもってのほかなんだから」

「するか」


 最終下校時間を告げる校内放送が流れる中、俺たちは学校を出る。


「では梨々子先輩、得能先輩、さようならです!」


 校門で大垣と別れた。俺は梨々子と歩き出す。


 俺と梨々子の家は近い。そして学校から徒歩圏内である。普段は帰る時間はバラバラだから一緒に帰ることはない。だが今日は違う。なんといっても恋人同士なのだから。偽装だけど。


「なあ、梨々子。もう恋人ごっこ始まってるんだよな」

「さっき言ったでしょ?」


 といってバニースーツの入った紙袋を指さす。


「だったらさ」


 クイ。俺は顎で校門を出ていくカップルを示した。仲良く手を繋いでいる。


「手くらい繋がないと駄目だよな?」


 梨々子と手を繋ぎたいわけじゃない。だいたい幼い頃何度も手は繋いだ。今さら繋ぎたいなどと思うはずがない。これは仕返しだ。バニースーツの洗濯を押しつけた梨々子への仕返しだ。


「そ、そうかもね」

「だろ?」


 梨々子の手を取る。


「ひゃ!?」

「ん? どうした梨々子。まさか恥ずかしいのか? 恋人同士なのに?」

「ぐむむむ! 恥ずかしくないもん!」


 梨々子が「ん!」と言って握り返してきた。


 その手を軽くほどきつつ、梨々子の指に自分の指を絡めていく。そう。恋人つなぎだ。俺は高校生の恋愛に詳しいんだ。


 ラノベ読んでるからな。ラブコメでは恋人つなぎは定番中の定番だ。


「これ、恋人つなぎって言うんだ」

「こここここここいびとちゅなぎぃ!?」

「どうした梨々子? 俺たち恋人どうしだよね」

「そ、そーだけど……そーだけど!」


 梨々子の顔が赤く染まっていく。耳の先端まで真っ赤だ。


 ふっふっふ。どうだ、梨々子。恋人つなぎ、恥ずかしいだろ?


 おまけに最終下校時間の校門前。部活帰り生徒でいっぱいだ。そんな衆人環視の中、生徒会副会長として普段はクール美少女で通っている梨々子が恋人つなぎ。耳目を引くのも当然というもの。


 実は俺も恥ずかしい。超恥ずかしいんだよ、梨々子。


 だがな。俺はもっと恥ずかしいことをお前にさせられているんだ。いや、させられるんだ。


 このバニースーツを幼い義妹が待つ家で洗濯せねばらならないんだからな。

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