CODEⅪ:エインセル
熱を操る能力。
名前の通り、高温・炎の能力を発現するものが多い。
《氷の女王》のように低温方面に特化した異能は稀で、出来ても飲用の小さな氷を作ったり、冷たい水を暫く冷たいままにしておく程度が精々。
* * *
NOISEを街に放ってひと騒動起こそうとしていたシンヘイヴンの男は、一人の少年に追い詰められていた。
この近辺には大きなSIREN支部もなく大した異能持ちもいないと事前に調べていたのだが、協力者が潜伏していたのだ。
ブルーグレーのブレザーに、今時珍しい紺色のスクールバッグを提げて。白かっただろうスニーカーは土埃に塗れており、踵には履きつぶした跡がある。何処を見ても普通の男子高校生だ。
現在地が路地裏で、対峙しているのが武器を持った男でなければ、だが。
「エインセルってさ、基本は炎有利なわけ。高温の攻撃は見た目にも派手だし、人に限らず熱でやられないものってあんまりないしね」
目の前の少年は、手にしたソフトクリームを舐めながら続ける。
「低温能力はどうしたってアイスコーヒーを冷たいまま飲めるとかその程度に留まる傾向にあるんだよ。かくいう僕も、夏にアイスをゆっくり食べられるくらいしかいいところがなくってさあ」
いまの季節は春。日差しも然程強くなく、咲きかけの桜が街路を彩る時期だ。暗い路地裏ではそれも拝むことは出来ないが。
「その点ゲルダさんは凄いよね。低温エインセルの頂点だよ。あのもの凄い氷の城は一度見たら一生忘れられないよ」
少年は一歩、また一歩と歩み寄りながら、まるで放課後に友人と駄弁っているかのように語る。戦き後退る男の体は、憐れなほど震えていた。
「一方僕は攻撃出来るっていっても、相手にしもやけを作る程度なわけ。わかる?」
少年の話を聞いていた男は、その場に膝をついた。
頭を抱え、蹲り、唸り声を上げる。
「でも、もし凍瘡が脳の毛細血管で起こったらどうなるかな?」
ガンガンと鳴り響く頭痛が、男を襲う。
最早少年の声を言葉として認識することは出来なくなっていた。
「僕はマイナス何千度なんて凄い温度は作り出せない。でも、場所を選んでちょっと冷たくすることが出来る。物は使いようだよね」
胎児のように蹲って痙攣する男を見下ろし、少年は笑う。
ソフトクリームを食べ終えた少年は、男の横にしゃがんでコーンを囓る。パキリと乾いた音がして、それからサクサクと咀嚼音が続く。
男は目を見開いたまま、動かなくなっていた。
「うーん。やっぱり地味だなあ」
ソフトクリームを全て食べきった少年は、スマートフォンをいじり始めた。遺体を後方支援部隊隠に回収してもらうために。
「せめて変異種の未来のために役立ってよね」
濁った目を覗き込んで、少年は笑った。
死体よりも冷たく、人らしい温度のない顔で。
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