CODEⅩ:フレイヤ
大地や領域、植物を操る能力。ヴァルナと組めば不作知らずとなる。
地震を起こしたり大地から土壁を生やしたりと攻防一体にもなれるが、どちらかに振り切れないと若干器用貧乏になりがち。
空間調整能力方面に目覚めると、誰にも侵害されないパニックルームを作ることも出来る。
* * *
小さい頃から、自分だけの隠れ家がほしかった。
誰にも邪魔されない、壊されない、自分だけの居場所が。
両親は顔を合わせる度に喧嘩していた。
だいたいいつも母が父に帰りが遅いとか稼ぎが悪いとかって文句を言って、それに反論する形で喧嘩が始まる。
『遅くなるのは仕事のせいだって言ってるだろ!』
『大して稼いでもないくせに、なにが仕事よ! 偉そうに!』
『グチグチうるさい女の顔なんざわざわざ見たくねえんだよ!』
『ああそう! それで他の女の顔と裸を見に行ってるってわけね!』
そんな感じの罵声が暫く続いて、最後には僕の話題になる。
『だいたいお前があんなガキ産まなきゃとっくに自由になれてたんだろ!』
『アンタがそんなクズだって知ってたら私だって産まなかったわよ!』
『無駄に金ばっかかかって、どうせろくな人間になりやしないのに邪魔くせえ!』
『アンタとの子じゃなかったら少しはマシだったかもね!』
『陰険でヒステリーばっか起こすクソ女のガキがマシなわけねえだろ!』
産まれてきたことを一生後悔し続けろ。お前が悪い。望まれてもいないのに勝手に産まれてきたお前が全部悪い。
そんな言葉しか聞こえないなら、なにも聞こえないところに行きたかった。
誰にも邪魔されない、壊されない、自分だけの居場所。ただつらい現実から逃げて引きこもるためだけの空間だった僕の隠れ家が、誰かの役に立つなんて。
「おにいちゃん……だいじょうぶ……?」
怯えて震えながら、小さな女の子が涙声で訊ねた。女の子は、更に小さい男の子を守るようにして抱きしめていて、男の子のほうはグスグスと啜り泣いている。こんな小さい子なら泣きわめいたっておかしくないのに、強い子たちだ。
僕は宥めるように二人の頭を撫でて、笑って見せた。
「大丈夫。僕の隠れ家は強いんだよ」
公園のドーム型遊具みたいな形の《隠れ家》に籠もって、数十分が経った。
外では激しい戦闘が続いていて、きっと破壊音や罵声も飛び交っているのだろうと思わせた。それを感知できるのは僕だけ。秘密基地内部は嘘みたいに静かだ。
両親の喧嘩から逃げてきたら、突然公園で戦闘が始まった。最初はなにが起きたか全然わからなかった。目の前で爆発が起きて、ベンチに座っていた子供たちの母親が人形みたいに吹き飛んだ。僕は偶然近くにいた姉弟らしき子供たちを庇って、咄嗟に隠れ家に籠もった。必死だった。
さっき一瞬見えた光景は夢だったんだろうか。そう思ったのも一瞬でしかなくて。すぐに現実が衝撃として襲ってきた。夢じゃない。現実に人が吹き飛んで、死んで、化物じみた能力を持った人たちが戦っている。
いま僕が「きっと悪い夢だ」と日和って逃げたら、この子たちは死んでしまう。
だから僕は、此処に籠もって護り続ける。
なにも見ない。聞かない。戦わない。
弱い僕にはそれしか出来ないから。
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