CODEⅣ:ヴァルナ
液体・水を操る能力。天気の子。
空気中の水分を調整して雨を降らせたり自らの体液を操ったりすることが出来る。
但し水分の温度自体は操れないため、氷を溶かしたり熱湯を沸かしたりすることは出来ない。がんばって物凄く高速で水分子を動かせばお湯に出来るかも知れないが、湯を沸かしたいならエインセルに頼んだほうが早い。
* * *
SIREN本部は、都内にありながら広大な土地を有している。
本部局棟とも呼ばれるメインの建物や、職員の寄宿舎、研究棟や訓練施設。様々な建物や設備が林立しており、その中にはビニルハウスや庭園なども含まれている。
本部の一角にある小さな庭園には噴水とベンチがあり、ちょっとした休憩所として職員たちが昼食を取る姿などが良く見られた。噴水は水瓶を肩に担いだ女性の石像が中央に立っており、傾けた水瓶から水が溢れる形で円形の泉に注がれている。
ギリシャ彫刻のようにやわらかな肢体と美しいドレープが表現された白皙の像は、会社の休憩所よりも美術館にありそうな佇まいである。
「アクエリちゃん、お待たせ!」
そんな美しい石像をぼんやり眺めていた女性の背後から、別の女性が声をかけつつ駆け寄ってきた。アクエリちゃんと呼ばれた女性は、大きくうねるような癖のついた長い髪を揺らして振り返ると、目尻を下げて微笑んだ。
「志津ちゃん、今日は早かったのねえ」
おっとりと言う『アクエリちゃん』を誘ってベンチに腰掛けると、志津と呼ばれた女性は、手にしていた風呂敷包みを膝に乗せて声を弾ませた。
「
「あらぁ、幸運だったわねえ。暫く鶫ちゃんの出動もないものねえ」
「平和なのはいいことだよ。屍事件のときなんか、私まで出動したんだから」
「あのときは大変だったわねえ。私にも皆の混乱具合が伝わってきたほどだもの」
のんびりおっとり、語尾を緩やかに伸ばして語るのを聞きながら、志津は風呂敷を解いて弁当箱と呼ぶには随分と大きい三段重を取り出した。
「ごめんアクエリちゃん、お水くれる? お昼前に飲み終わっちゃった」
「はあい」
笑って手を器の形にすると、アクエリちゃんは手の上に水の球を出現させた。水は噴水の水瓶と同じように流線型を描いて、志津が差し出した水筒へ注がれていく。
分け与えられた水を水筒の蓋も兼ねているコップに注いで飲み干すと、志津は実に爽快そうに深く息を吐いた。
「冷たくて美味しい……激務後の体にに染みる……」
「うふふ。本部の事務はいつも大変そうねえ」
労うように頭を撫でられ、志津は照れくさそうに俯いた。
「まあね。でも私は全然マシ。アクエリちゃんは水質管理もやってるでしょ?」
「好きでしていることだもの、全然苦じゃないわよう」
「はー……尊敬する。でも、その恩恵をめっちゃ受けてる私は何も言えない」
「いいのよぉ。それより、また此処へ遊びに来て頂戴ねえ?」
「それは勿論」
志津が迷わず答えると、アクエリちゃんはうれしそうに微笑んだ。
その顔は、傍らに佇む美しい石像にとても良く似ていた。
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