CODEⅡ:クロノス
重力や時間を操る能力。防御と反射、調査に向いている。
優れた能力者は自らに流れる時間を操作したり『精神と時の部屋』のような空間を作って閉じ籠り、世間で一時間が過ぎるあいだに一日分の仕事をすることが出来る。
但しそれなりの反動があるので、多用は出来ない。
* * *
「ねえ、朝菜さん知らない?」
同僚女性に呼び止められたミーミルの男性職員は、一瞬考える素振りをしてから、「たぶんあそこじゃないかな」と答えた。女性は要領を得ていない様子で怪訝そうに眉を寄せる。
「もうすぐ八月でしょ? 追い込み中だと思うよ。休暇申請出てると思うけど」
「わざわざ申請出してまで休暇って……八月になにかあるんですか?」
理解出来ないと顔に書かれているような物言いに、男性職員は苦笑する。
「うん。夏の一大イベントがね」
――――八月十二日。
この日のために、
週刊少年誌の人気連載『CODE:X』の、死亡したサブキャラの生存イフ総受けR18再録本。それからシリーズ最新作である四作目が一部SNSで大いにバズり、注目を集めたお陰で過去作のリメイクも決まったという、ガンサバイバルアクションホラーゲーム『NightmareCurseⅡ』の、マイナー通り越してジャンル唯一無二のクリーチャー×モブ隊員快楽堕ち苗床本。そのためだけに。
変異係数の高いクロノス能力者は、自身の絶対領域を凝縮して時間の流れを極端に遅くした独自の閉鎖空間、《秘密基地》を作ることが出来る。
当然、中にいるあいだは異能を使用し続けることになるため乱用は出来ない。が、朝菜は元々短期集中型。普段の真面目な業務態度と成績によりむしり取った二日間の休暇をフル使用して、セルフ缶詰のソロ原稿合宿を行うのだ。
二日のうち後半の一日は、上昇した変異深度を下げるための日程である。完全なる趣味で異能を使用したのに職場のミュゼの手を煩わせるわけにはいかないのだから。その辺はさすがにわきまえている。上司は構わないと言ってくれたが、ミュゼの人になんて説明すればいいのかわからないからと丁重にお断りした。
「――――とまあ、こんな具合でね。明後日には戻るよ」
「はぁ……そんなことしてたんですか、あの人……」
男性職員から話を聞いた女性は、感心と呆れの入り交じった溜息を吐いた。勿論、朝菜は本の内容までは男性職員どころか誰にも話していないため、同好の士が集まる大規模イベントのための缶詰であることしか彼らは知らない。
普段しっかり仕事をしているだけに、趣味の時間を取るななどとは言えない。人がなにを愛そうが、どんな趣味を持とうが、職場の同僚でしかない自分には何の関係もないのだから。
「ところで、朝菜さんに何の用? 急ぎなら繋いでおくけど」
「いえ、大丈夫よ。私には話の半分もわからなかったけれど、彼女にとっては大事なイベントなんでしょう? 戻ったら自分で話すわ」
「そう? わかった。じゃあ、お疲れ」
「お疲れ様」
軽く挨拶を交わして、それぞれの業務へと戻っていく。
此処では平等に時間が流れる。二日と言われたら二日だけ。
彼女の二日がどれほど重いものなのかは、きっと誰にもわからない。
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