変異種たちの日常。

宵宮祀花

CODEⅠ:アステリア

 光と闇を操る能力。暗闇でも平常と変わらず行動出来る。

 高温の光でレーザーを撃ったり目くらましをする光の能力者と、自らの影を操って人形のようにしたり残像を見せたりする闇の能力者がいる。


 * * *


 神は「光あれ」と言われた。すると光があった。

 光と闇を分けて、それから昼と夜を生み、夕が出来て一日が出来た。

 なにもなかったところに天地が生まれ、光が生まれ、そうして世界が出来た。

 ならば闇のうちに光をもたらすことが出来るこの異能は、天地創造にも並ぶ創造の力なのではないかと考えた者がいた。

 地母神の異能であるフレイヤのほうが相応しいのでは、と言った者もいたが、彼は全く耳を貸さなかった。

 光に囚われた変異種はやがて自身を神だと思うようになり、最終的に支配の狂気を発症して断片化した。


「それで、その人はどうなったんですか?」


 エンジェル隊員の少女が、不安そうに訊ねる。

 過去の出来事を話し聞かせていた隊員は、肩を竦めるばかりであった。


「NOISEは等しく処分される。そう習っただろう?」


 それは最早、答えに等しかった。

 狂気に囚われては最早戻る路はない。どれほど調律を重ねても、ノイズに阻まれて届くことはないから。

 だからこそ変異種は厳重に管理されている。

 一般家庭に生まれれば保護され、場合によっては孤児院に送られる。

 少女の親は、電脳症の潜在キャリアであった。異能の発現も、断片化の症状もないごく微量の《銀の靴》を奥底に持っていただけの一般人に過ぎなかった。だが少女は生まれつきアステリアのCODEを所持して生まれた、第四世代の変異種だった。

 彼女の両親は、隠の記憶改竄処置によって末の娘を死産したと思っている。それは間違いなく悲劇だが『無事に生まれた子供が化物じみた能力を持っているので、一生会えません』と引き離されるよりは幾分かマシな悲劇であると判断されたのだ。

 そのことを少女は、先日所属先の支部長から聞かされた。

 まるで他人事のような気分で聞いていたのを、少女は未だに覚えている。


「……私もどっちかっていうと、フレイヤのほうが天地創造ってイメージです」


 処分されたNOISEに思いを馳せることなく、エンジェルの少女は言った。

 もしも全知全能の存在が世界を作ったなら、こんな世界にはなっていないだろう。欠陥だらけで、ツギハギだらけの、こんな世界には。


「結局、神様なんていないんですよ。そうあろうとする図々しい人がいるだけで」


 隊員はなにも言わなかった。


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